2015/07/18

愛し野塾 No4 糖尿病に合併した高血圧症治療の考え方

第4回 
 
糖尿病に合併した高血圧症治療の考え方
 
北国のみなさん、道東のみなさま、お疲れさまです。またもや、雪の週末。ありがたい除雪作業への感謝としかし、その後の悩み深い落とし物の除去作業のきつさ・・・、思いがけずについたため息も凍り付く2月。なんとか、気力尽き果てないよう、過ごされますよう、よろしくお願いします。
 
て、本日の愛し野塾四回目は、
糖尿病と高血圧に関する考察をまとめてみました。
 
2型糖尿病のかたで、高血圧を合併するケースは多く、血圧コントロールをすることは、すなわち、糖尿病の合併症を予防する、ということは広く知られるようになりました。
 
最新のJAMAでは、(Blood Pressure Lowering in Type 2 Diabetes:  A Systematic Review and Meta-analysis、JAMA. 2015;313(6):603-615. doi:10.1001/jama.2014.18574. )オックスフォード大学のエムディン博士らが、10万354人の被検者による、種々の論文のメタ解析をおこないました。その結果、血圧を10mmHg下げると、死亡率が13%低下することが示されました。
 
また、心血管イベントは、11%、冠動脈疾患は、12%、脳卒中は、27%発症が低減することもわかりました。網膜症も13%、アルブミン尿も17%低下することが判明しています。
 
つまり、糖尿病のかたは、血圧を下げることに意味がある、ことが具体的に示されていると考えられます。
 
しかし、残念ながら、心不全と腎不全発症は、低下しないことも明らかになりました。この2つの病気がなぜ発症予防されなかったのか、同時に疑問が残ることも間違いないところです。
 
さて、この疑問に焦点をあて、この論文で私が一番注目したのは、使用された薬とこれら合併症のリスクとの関係です。これまで、はっきりこうしたデータが示されたことはなく、新規性という点でも、また、日常臨床で役に立つ情報である、と言う点でも感心しましたので紹介します。
 
第一に、「カルシウム拮抗剤と呼ばれる降圧剤の場合、32%も、心不全の発症を上昇させてしまう」という点にインパクトがありました。この薬は、日本でも広範に使用されているもので、この薬を服薬していることで、心不全を増やしていたとしたら問題です。
第二に、「βブロッカーと呼ばれる薬は、脳卒中を25%増やす」ことも判明しています。同様に、この薬は、「心血管病を、24%増やす」ことも示されました。つまり血圧を10mmHgさげたとしても、心不全が減らせなかった理由として、カルシウム拮抗剤の使用が多かった可能性があげられましょう。βブロッカーの使用率は、カルシウム拮抗剤ほどではないので、脳卒中や心血管病発症に影響しなかったと判断します。
 
同論文のデータから、「ARBと呼ばれる薬は、死亡率を19%低下させ、心不全も39%低下させる」こともわかりました。また、「利尿剤は、心不全を17%低下させる」ことも示されました。
 
こうしたデータをもとにすると、糖尿病患者さんの高血圧に対する、薬の使用方法としては、まずは、ARBを使い、それでも血圧が下がらない場合、利尿剤を使う。これら両者を使っても、血圧が良好に下がらない場合は、心不全に気をつけながらカルシウム拮抗剤を使用する。という方針がよいと考えました。
 
次に、「なぜ、腎不全が予防できなかったのか」を考えたいと思います。
ここでは、2010年、テネシー州にある在郷軍人メディカルセンターのクッシュマン博士らが報告したACCORD-BP試験のデータが役立ちます。(Effects of Intensive Blood-Pressure Control in Type 2 Diabetes Mellitus,N Engl J Med 2010; 362:1575-1585April 29, 2010DOI: 10.1056/NEJMoa1001286
 
この研究では、4733人の2型糖尿病のかた(平均年齢62歳)を相手に、平均4.7年経過を観察しました。
 
最高血圧が当初139mmHgから6下げて133mmHgにした標準治療のかたと、20下げて、119mmHgまでにした強化治療のかたを比較したものでした。
 
前者①は、薬の使用数は、平均1.9剤、後者②は、3.2剤でした。ここから、より多くの薬によって、強化治療では強引に血圧を降下させたことが分かります。
 
結果は、死亡率や、心血管病イベントには、両治療群での差はまったくありませんでした。この結果をもとに、糖尿病の高血圧治療は、140mmHgからでよいというガイドラインが米国で策定されたのです(JNC8高血圧ガイドライン、2013年11月,詳細はJAMA. 2014;311(5):507-520. doi:10.1001/jama.2013.284427. )。
 
ただし、脳卒中の発症については、強化治療で、標準治療よりも、41%低下していたというデータがあり、日本では、脳卒中が多い、という理由から、糖尿病のかたの高血圧の場合、130mmHgから治療を開始することになっています(JSH2014、2014年)。ところが、重篤な副作用の発症の問題があり、日本の基準が適当かどうか、私は疑問に感じております。
 
標準治療にくらべて強化療法は、重篤とされる副作用が、2.5倍有意に多く、その内容は、低血圧が17倍、徐脈不整脈が4倍、高カリウム血症が9倍というものでした。
また、重篤ではないものの、発生率の高い副作用として腎機能の低下がありました。
 
私は、最新のJAMAの報告では、血圧を119mmHgまで多くの薬を使って強引に下げた症例も多数含まれており、そのことがもとで、腎不全発症予防ができなったではないか、と判断しています。
このような報告から、結論を申し上げれば、血圧を下げるにしても、私は、次のように考えます。
 
2型糖尿病のかたにおいては、できるだけ少ない薬を使うことが原則とすること。
 
とくに、降圧剤を選ぶならARBを中心にし、目標とする血圧としては、外来血圧なら、最高血圧が、140−130の間とし、家庭血圧なら、125−135の間を目指すことがもっとも適当と判断します。下の血圧は、80−90の間とすること(家庭血圧なら75−85)も併記したいと思います。薬の使い過ぎで、血圧の下げ過ぎは、決して人体にいいことはない、むしろ副作用が増えると、考えます。
 
ただし、今後の研究で、血圧を120−130mmHgにした場合、130−140mmHgよりも良好な結果がはっきりでて、重篤な副作用が増えない、ということであれば、私も、考え方を変えていきたいと思います。
 
今回のJAMAの結果では、130mmHg以下にした場合、脳卒中、網膜症、アルブミン尿に良好な結果を認めたという内容も含まれております。この点は、大規模試験で今後確認が必要でしょう。
総合的に判断すると、現状では、ACCORD-BP研究の成果をもとにした血圧コントロールの考え方が、的を得ており、糖尿病に合併する高血圧治療に至適と考えます。