2015/07/18

愛し野塾 第14回 コーヒーは健康にいいのか悪いのか

大地にはまだ花も緑もないのですが、エネルギーをたっぷりと蓄えた土が戻ってきました。あんなにも(!!)降った雪は解けて、こうしてまた春が始まるのです。
雪解けの畑に広がる土に目を落とすと、前の年に、人の手によってしっかりと肥料が鋤き込まれた形跡がそのまま残っているのです。
 
先人によって耕された荒野は、こうして世代を越えて次がれているのです。そんな道東の大地から体中に伝わってくるものの偉大さについて、表現する言葉も見つかりません。
 

第14回 愛し野塾

コーヒーは健康にいいのか悪いのか

-虚血性心疾患への影響からの考察



 
コーヒーと心臓病について、新しい論文が報告されました。

コーヒーを飲むことは、心臓に悪いのか、それとも、心臓にいいのか、議論の分かれるところでした。2009年、リクセン博士たちが、コーヒーの短期的な作用によって血圧が上昇する事から、コーヒーは狭心症を含む虚血性心疾患の増加につながると報告しています。同様に別の症例対象研究でも、コーヒーが心臓血管病に悪いとするデータが複数報告されています。
 
しかし、2014年には、Ding 博士らが、128万人を対象にメタアナリシスを試み、「コーヒーは心臓病に良い」とする結論を出しています。一日6杯以上コーヒーを楽しむ、ヘビードリンカーでも、心臓血管病は増加することはありませんでした。3−5杯の中程度のドリンカーの場合では、心臓血管病が、15%程度減少することがわかり、コーヒーはむしろ心臓に良いと示唆されました。
ただし、6杯以上飲むかたでは、同時に喫煙されている方も多く、この点についての影響を避ける理由から、「喫煙の影響を除外した場合」という条件付きで得られた結論であり、この研究報告の解釈に注意を要します。
 
また、多量にコーヒーをのまれるかたは、運動量も少なく、健康的な食事もあまりとっていませんでした。解析では、運動量や、食事の因子の影響も排除されていました。
 
コーヒーには、ポリフェノールの一種であるクロロゲン酸が含まれており、抗酸化作用が期待されます。カフェイン、カリウム、マグネシウム、ナイアシンなど健康に良い成分が多く含まれているのです。またインスリン抵抗性が改善したり、糖尿病のリスクが低下することも国内外で報告されてきました。
 
コーヒーの歴史を紐解くと、コーヒーをフィルターせず、煮沸してサイフォンで抽出したり、フレンチプレス、トルココーヒー、などの方法で飲むことが日常だった時代があります。今ではフィルターを通すのが一般的ですが、方法を変えフィルターを通さずにコーヒーの味わいを楽しむかたもいらっしゃいます。かつて、煮沸法で作ったコーヒーを飲むと、コレステロールが血中で上昇するという報告がありました。この結果が、コーヒーが、心臓病に悪いという結論が出た理由の一つとされています。
 
近年フィルター法で入れたコーヒーをのむひとが圧倒的に多くなり、最近の多くの研究で、コーヒーは、心臓病に良いという真逆の結果となった可能性が高いとされます。
 
さて、この歴史的な相反するコーヒーと心臓疾患に関する報告について、コーヒー愛飲家やそのご家族にとって、どちらが真実か、決着を付けて欲しいところではないでしょうか?
 
本年3月2日に、医学誌「ハート」に掲載された研究論文(Coffee consumption and coronary artery calcium in young and middle-aged asymptomatic adults Heart 2015;101:9 686-691 Published Online First: 2 March 2015 doi:10.1136/heartjnl-2014-306663)では、コーヒーの心臓疾患に与える影響について、再検討しています。
平均年齢41歳、心臓血管病のない韓国人25,000人を対象にした結果が報告されています。
マルチスライスCTを用いて、冠動脈の石灰化を評価しています。この「冠動脈の石灰化の程度」は、冠動脈疾患発症リスクを予測できる、便利な指標とされています。コーヒーの摂取量は、食事調査票を用いました。
 
冠動脈石灰化が認められた方は、全体の13.4%でした。石灰化の程度をスコア化し、重いかた(スコアが100以上)は2.1%、軽いかた(スコアが1-100)は11.3%でした。
 
平均コーヒー摂取量は、1.8杯でした。コーヒー摂取量と、冠動脈石灰化の程度(ここではスコアとします)との関係は、年齢、性別、教育レベル、運動量、喫煙、虚血性心疾患の家族歴、アルコール量、摂取カロリー、野菜とフルーツ、赤身肉、加工肉の摂取量で補正し、コーヒーをのまない人のスコアとの回帰係数を1とした場合、コーヒーを1杯未満のむ場合、スコアとの回帰係数は23%低下し、1−3杯の場合、スコアとの回帰係数は34%低下、3-5杯の場合、41%低下、5杯以上では、19%低下となりました(統計学的有意差あり、P値は、0.002)。
 
つまり、コーヒー摂取量と冠動脈の石灰化の程度の間には、負の相関関係があり、U字がたとなっていて、最も冠動脈の石灰化が少ないのは、コーヒーを3−5杯摂取をするかたであるという結論が得られました。コーヒーを5杯以上のむかたは、年齢が高く、男性で、喫煙をしており、学歴は高く、コレステロール値も高く、運動不足だが、高血圧は低い傾向にありました。血糖は高めで、カロリー摂取量は多く、赤身肉や加工肉を多目に食していました。フルーツと野菜摂取は少なめでした。このカテゴリーのかたは、日本の猛烈サラリーマンに相当するかたといえるかもしれません。
 
喫煙などで補正しない場合は、冠動脈の石灰化の程度は、コーヒーをのまないひとよりも悪い傾向が得られています。つまり、統計的処理の違いにより、コーヒー多量摂取グループの評価結果が異なるので、注意を要します。
 
しかし、5杯未満の方の場合は、補正の程度により結果が影響されませんので、コーヒーが、冠動脈の動脈硬化を阻止してくれる可能性は高いものと考えられます。
 
2005年には、日本の研究で、コーヒー摂取量が多いひとほど肝癌になりにくいという研究結果が報告されています。コーヒー5杯以上のむひとは、のまない人に比べて、76%の肝癌予防効果が認められ、また3−4杯でも、52%ものリスク低下を認めました。
 
コーヒーが、糖尿病発症抑制効果もあることを考慮すると、今回の結果は、コーヒー愛飲家には朗報ではないでしょうか。コーヒー好きの私としても、うれしく感じているところです。
 
ただし、飲み過ぎにはやや注意を要する点もあるようですから、一日3−4杯程度にしておくのがいいのかな、と思っています。