2015/07/18

愛し野塾 第8回 効果的なピロリ菌除去のための新しいお薬のお話

第8回 愛し野塾

3月も中盤。年度末ということもあるせいか、なんとなく、今年度にさっさと区切りをつけ、よいスタートを切りたいな、と春めく気持ちも出てきますね。そうはいっても、「今」という時間の連続が、先々の自分の足元を固めているわけですから、まあ、マイペースを守るのが一番。自分の感性を研ぎ澄まして身近な春探しをするのもよいものです。ふきのとう、福寿草、やま山葵、木の芽、あ〜、美しい春は、雪の下で出番を待っていることでしょう。
 
今回は「胃がん」と結びつきの強い、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の除去に効果的なお薬のお話です。
 
ピロリ菌というものが、オーストラリアのロイヤル・パース病院のウォーレンとマーシャルという医師らによって発見されてからというもの、胃疾患とピロリ菌の研究が進み、今では、胃ガンの根絶には、ピロリの除菌が勧められるようになるまでに至りました。
 
ピロリ菌という名称も、つとに有名となってきており、「ピロリ感染があるのかどうか」は、日常会話でも耳にするようになって来たものです。塩分摂取が多い韓国や日本は特に胃ガンが多いとされていますが、事実、塩分摂取が過多になるとピロリ菌の繁殖を助長する作用があることもしられるようになりました。
 
世界規模でみると、生涯に感染する確率は高く、50%とされています。胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因としても有名で、ピロリ菌除菌で、生涯潰瘍に苦しむことはなくなるとされるようになりました。
 
さて、胃ガン検診といえば、胃バリウムが定番でしたが、最近では、胃カメラが検診に用いられることも多くなりました。それは、バリウム検査では、見つけられないレベルの微細な病変を胃カメラによって、繊細に描写することができるようになったからです。
 
また、2013年からは、ピロリ菌陽性の胃炎があれば、除菌治療が保険適用になったというのも大きな進展です。それまでは潰瘍にしかピロリ菌除菌の保険適用がなく、胃炎の所見だけでは、除菌を自費でするしかなかったわけです。ピロリ菌が陽性のケースでは、ほぼ全例、胃炎を起こしている可能性が高く、ピロリ陽性胃炎患者のピロリ除菌が保険で可能になったということは、ピロリ菌そのものを撲滅する可能性を開いたことになり、言い換えれば、胃ガン根絶へも道がついたというわけです。
 
胃ガン検診では、血液検査から始めている施設もあります(ABC検診)。ピロリ菌感染有無の判定のためのピロリ菌抗体検査と萎縮性胃炎の判定のためのペプシノーゲン検査を組み合わせ、それぞれの陽性及び陰性によって、4段階に分類します。ピロリ菌抗体とペプシノーゲン検査結果が、ともに陰性ならば、胃カメラをしない。それ以外の場合は、胃カメラをして、胃ガンをスクリーニングする方法がとられています。スクリーニングの結果、胃ガンが発見されれば、胃ガン治療をまず優先し、治療後、ピロリ菌除菌をするというプロトコルが出来上がっています。
 
この方法は、最初に簡単な血液検査で、胃ガンのハイリスクグループを選別できるので、検診に用いるには有効と考えられます。最初から、胃カメラでスクリーニングをしようとすると、胃カメラそのものを敬遠される方も多く、被験者の同意を得にくく、結果として検診の有効性を発揮できないと考えられています。
 
それでは、その除菌の実際はどうなっているのでしょうか。いくら胃ガン検診のプロトコルがしっかりできていても、肝心のピロリ菌が効率よく根絶してくれないと健診の意味がありません。
 
現状除菌に使われているのは、3つのお薬で、これらを同時にのみます。つまり抗生物質が2種類と、PPIと呼ばれる胃酸分泌抑制剤が1種類です。胃の中は酸性で(pH1〜5;食事や時間で変化する)、ピロリ菌活動レベルが低いため、抗生物質の効果も期待されません。このため、ピロリ菌活動に適切なレベルとして、pHを6程度に上昇させる必要があります。この目的で使用されるのが、PPIと呼ばれる胃薬です。
 
一方で実際の除菌効果ですが、近年、風邪を引いたときなどに、抗生物質が安易に使用されてしまうため、抗生物質の効かない、いわゆる耐性菌が増えており、ピロリ菌除菌率も70%程度に落ちているという問題点があります。つまり、一度除菌をしても、30%の方々の胃内ではピロリ菌が生き残っていることになります。この30%の人たちのために、別のお薬を用いてさらにピロリ菌除去治療をするのですが、これを「2次除菌」とよび、最初の除菌を「1次除菌」とよびます。
ただ、しっかり2次除菌をしても、それでもなおかつ、2〜3%のひとでピロリ菌が生き残ってしまいます。つまり、2〜3%の方は、二度も除菌をしたにも関わらず、除菌しきれなかったピロリ菌のために日々胃ガンの出現におびえながら、生活をしなければならないという問題を抱えることになります。
 
さて、先月(2015年2月26日)に新規に発売されたP-CABと呼ばれるお薬は、そのような問題を一気に解決してくれそうです。
 
初回の除菌(1次除菌)のみで、92%も除菌成功というデータが出たのです。従来の方法に比較すると格段の進歩です。除菌できなかったかたに対する、2回目の除菌(2次除菌)の効果も素晴らしく、最終的に除菌できなかったひとは、わずか0.1%程度のようです。つまり、従来法に比較して20分の1以下まで除菌失敗率が低下したのです。これまでのPPIと呼ばれるお薬と異なり、P-CABは胃酸の影響を受けないこと、胃酸を分泌する管(分泌細管)に高濃度に薬を集積できる能力があることで、こうした優れた力を発揮するとされています。PPIの場合、胃酸の影響を受け、分泌細管の中に長くとどまることができないので、P-CABに比較すると効能がかなり弱いのです。P-CABは結果として、PPIに比較して、すぐれた酸分泌能抑制効果を発揮するため、ピロリ菌をより効率よく、除去できるようになったというわけです。薬剤耐性があっても従来法の2倍の効率で除菌できるとされています。
 
ピロリ菌感染は幼少期に起きるとされ、胃ガンの発症は、感染後50年から90年とされています。高齢者が増えている現状では、まだまだ胃ガンは増え続けていますが、P-CABを用いた除菌法の導入により、日本人の国民病とも言われる胃ガン発症が、近い将来、激減することが期待されるのではないでしょうか。