2015/07/18

愛し野塾 第10回 大腸がん予防効果のある食事のとりかたとは?

第10回 愛し野塾
 
大腸がん予防効果のある食事のとりかたとは?
 
今回は、大腸がんの予防に効果のある食事の話です。
 
平成25年の厚生労働省の発表によると、大腸がんによる死亡者数は、年間4.7万人で、胃ガンの4.8万人とほぼ匹敵するようになったということです。先日、「第8回愛し野塾」で記しましたが、胃ガンは、ピロリ菌が原因因子であることが発見され、ピロリ菌を除菌する方法が確立したことや、衛生環境の改善によってピロリ菌そのものに感染しづらくなったことからも、その死亡数は激減しており、将来は、撲滅される可能性すらささやかれるようになりました。代わって、大腸がんはいまだ明確な予防法が確立していないこともあり、女性では、すでに、癌死の死因の第一位に「大腸がん」が報告され、男性でも、「大腸がん」は、癌死の死因第3位となりました。今後は、ますます増えると予想される「大腸がん」の予防、早期発見に期待が高まるところです。
 
早期発見のための予防策である「検診」では、1)検便をする、2)大腸カメラをする、ことが肝要ですが、これらの検査は、その性質上、大なり小なり抵抗があることは間違いなく、広く受け入れられているとは言いがたい状況です。また、欧米型に変化した日本人の食生活も、大腸がん増加の一因であり、今後の大腸がんへの対処は、火急の問題となっています。予防的見地から「適切な食事療法」によって大腸がん抑制が可能となれば、これは、素晴らしいことだと思います。
 
米国では、癌死の2位を占める大腸がんについて、「食事による予防研究」が盛んにおこなわれています。「赤身肉」とくに「加工肉」が、大腸がんリスクを増大させ、一方で、線維を多く摂取することで、このリスクは、減少します。また体脂肪率増加と大腸がんリスク上昇の因果関係も指摘されています。
 
こういった背景から、赤身肉や加工肉の摂取量を抑え、繊維質摂取を増やし、その上、体重減少も期待される「ベジタリアンダイエット」は、大腸がん予防に有効だろう、と短絡的に考えられそうですが、実は、「英国流のベジタリアンダイエット」を対象としたEPIC-Oxford研究結果では、この予想に反して、大腸がんを予防することはできない、というものでした。
 
一方で、米国版ベジタリアンダイエット研究は、アドベンティスト•ヘルス•スタディーと呼ばれ、これまでの研究から、ベジタリアンダイエットをすると、全死亡率の低下、肥満率の低下、高血圧、糖尿病の比率の低下が示されています。このコホートを用いて、2015年3月9日に、食事と大腸がん発症リスクの関係が調査・検討された研究結果は、米国医師会雑誌(JAMA internal medicine)に発表されました。この研究は、大規模な前向き研究で、研究の手法、規模ともに信頼のおけるものです
 
2002年1月から2007年12月までの間に、96,354人の男女がリクルートされ、北米コホートとして開始されました。厳格な条件設定で選抜された77,659人の解析が遂行されました。
 
食事内容の詳細については、食事摂取頻度調査票が用いられ、その内容精査に基づいて、以下のように分類されました。
 
1)ベジタリアン食を、本当に野菜しか食べない、「ヴィーガン」、
2)肉や魚介は食べないが、乳製品、卵、蜂蜜は、許容範囲である「ラクトオボ」
3)ラクトオボに加えて、魚介類を食べることは通常にしており、月に一度以下の肉食も許容される「ペスコ」
4)平均的な人よりは少ないものの肉を食べる、「セミベジタリアン」
 
また、​これらの被検者に対するコントロール群(比較されたグループ)には、ベジタリアンでないグループのデータを用いました。
 
州ごとに行っている癌登録リンケージを用いて、大腸がんの死亡との関連を調査し、以下のような結果が得られました。
 
7.3年の経過観察中で、380人の結腸がん、110人の直腸がんが発見されました。ベジタリアングループは、非ベジタリアングループに比較すると、22%大腸がん比率が少なく、結腸がんでは、19%少なく、さらに直腸がんでも、29%低いというものでした。ペスコベジタリアン群は、43%も大腸がんが減少しており、そのほかのベジタリアンの場合は、普通摂取のグループよりも8-18%の低いという結果にとどまりました。
 
つまり、この結果から明らかになったことは、
 
   *赤身肉を食べることは極力避けたほうがいいこと。
   *野菜だけでなく、魚介、乳製品、卵は、積極的に摂取する
    食事のほうが、むしろ、それらも摂取しない群よりも
    大腸がん予防に効果があることです。
 
ペスコベジタリアン食(少ない肉摂取は許容されるのグループ)の食事内容を再検討すると、地中海食に大変類似性があるものであることがわかります。違いの主なものは、オリーブオイルの使用の有無と考えられます。
 
2013年4月NEJM誌において、オリーブオイルたっぷりの地中海食を忠実に守ることで心血管イベントが30%も減少すること、さらにその後、糖尿病発症についても40%も低下することが相次いで報告され、世界中を驚嘆させました。
 
これらは、いずれも、スペインのグループから報告されています。最初に挙げた大腸がんリスクの顕著な減少を示さなかったイギリスのベジタリアンのデータについては整合性に問題はあるものの、EPIC研究のイタリア版でも、地中海食が大腸がんリスクを50%低減させるという結果から、米国研究での結果を支持していると言えるでしょう。
 
ペスコベジタリアン食に近い地中海食摂取に注目するということについては、大腸がん予防だけではなく、心血管病予防、糖尿病予防もできる可能性があるという観点から、一定の同意が得られるものと察されます。そんなわけで私は、今回の研究報告からも、ペスコベジタリアン食に類似の地中海食を食事療法の中心にすえる考え方は正しいと考えています。