2019/05/07

愛し野塾 第214回 195カ国を対象とした食事の健康へのリスク評価



食事が、虚血性心疾患、糖尿病、結腸癌などの「慢性疾患の発症」に影響を及ぼすことは、様々な調査・研究によって示されてきました。慢性疾患を予防する食生活を検証するために、大規模、かつ長期にわたる前向き研究が多数施行され、フルーツ、野菜、加工肉、トランス脂肪酸の摂取量が、その発症に関与していることが、明らかにされてきました。こうした研究をベースに、国家レベル、国際的レベルでの食事ガイドラインが作成されてきました(文献1、2、3、4、5)。しかし、ガイドラインで示された適切な食事摂取量を守らない場合、個人レベルで生じる不利益については、各国の食糧事情の違いが大きく、解析困難とされてきました。今回、国際協調の一環として、「世界疾病負担(the Global Burden of Diseases Study 2017(GBD)研究 2017年」により、195カ国、25歳以上について、15種類の食事(フルーツ、野菜、マメ科食物、全粒穀物、ナッツ、ミルク、赤身肉、加工肉、砂糖で甘み付けした飲料、食物繊維、カルシウム、オメガ3脂肪酸、不飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、ナトリウム)の摂取状態を、疾病による「死亡」、「障害調整生命年」との関係で、個人レベルで検証した結果が報告されました(文献6)。

具体的には、個々の摂食量が影響する「慢性疾患死亡率」と「障害調整生命年」を測定し、「食事習慣が、慢性疾患による死亡、障害調整生命年にどの程度与えているのか」を推定しました。

<15の食事リスク因子>

既に施行された「前向きの観察研究」をベースに、15の食事アイテムの「適切な摂取量」が推算され、「健康的な食事」の摂取量を満たさない場合、もしくは、「不健康な食事」の摂取量を超える場合を、「食事リスク」と定義し、考察しました。
(1)フルーツ、250g/日以下
(2)野菜、360g/日以下
(3)マメ科植物、60g/日以下
(4)全粒穀物125g/日以下
(5)ナッツと木ノ実、21g/日以下
(6)ミルク435g/日以下
(7)赤身肉 23g/日以上
(8)加工肉 2g/日以上
(9)砂糖で甘みづけした飲料 3g/日以上
(10)食物繊維 24g/日以下
(11)カルシウム 1.25g/日以下
(12)オメガ3脂肪酸 250mg/日以下
(13)不飽和脂肪酸 全カロリーの11%以下
(14)トランス脂肪酸 全カロリーの0.5%以上
(15)ナトリウム 3g/日(食塩7.62g)以上の場合を、食事リスク陽性としました。

<死亡推定>

年齢、性別、地域、年毎に、原因別死亡数を推算しました。用いたGBD死亡原因データベースは、以下の項目から構成されています。(1)登録不足、ガベージコーディングで補正された、人口動態登録データ
(2)ガベージコーディングで補正された、国家および準国家レベルの口頭剖検研究
(3)妊産婦死亡率などの特定の原因に関する調査や監視システムを含むその他の情報源。質の評価の簡易化のために、所在地別および年別に、根本的な死因とはなり得ないGBDレベル1、またはレベル2の原因に分類される死亡の割合(主要ガベージコーディング) について考慮しました。完全性、ガベージコーディング、原因リストの詳細、および対象期間に基づいて、星0(最悪)から星5(最高)の範囲で、各場所の総合的なデータ品質について評価を行いました。場所、年、年齢、および性別の推定値は、死因アンサンブルの原因モデルを含む厳格な統計手法によって算出されました。

<結果>

グローバルレベルでの食事について、健康に資する「健康的な食事」の適正量に満たさない項目は以下、ナッツと木ノ実12%、ミルク16%、全粒穀物23%で、これらは、大きく不足していました。一方、「不健康な食事」の過剰摂取は、甘み付けした飲料(49g摂取されており、適正量の約10倍多い)、加工肉(最適とされる量もよりも90%多い)、食塩(最適量よりも86%多い)が、大幅に摂取過多でした。赤身肉は、18%も多い状況でした。

男性は女性に比較すると、健康的な食事、不健康な食事、共に摂取量が多く、50−69歳、25−49歳の年齢層でも、健康的な食事、不健康な食事の両方の摂取量が多いことがわかりました。砂糖で甘み付けした飲料摂取とマメ科食物摂取量は、若者に多く、年齢が高まると同時に減少していました。

21GBD地域のほとんどで、健康的な食事の摂取量は、適切レベルを下回っていました。例外として、中央アジアの野菜摂取、カリブ海、熱帯ラテンアメリカ、南アジア、西サブサハラ、東サブサハラアフリカのマメ科食物の摂取、高収入の大西洋アジアのオメガ3脂肪酸摂取は、適正量に達していました。

不健康な食事では、塩分と砂糖で甘み付けした飲料は、ほぼすべての地域で超過摂取でした。オーストララシア、南ラテンアメリカ、熱帯ラテンアメリカで赤身肉の摂取は最大でした。高収入の北アメリカでは、加工肉摂取が最大で、高収入のアジアパシフィック、西ヨーロッパと続きました。トラス脂肪酸の摂取は、高収入の北アメリカ、中央ラテンアメリカ、アンデスラテンアメリカで最大でした。

<食事の死亡率に与える影響>

食事が、死亡に寄与するリスクは、世界で1100万人に相当すると考えられました。これは、成人死亡の22%にあたり、障害調整生命年の15%に相当します。食事関連死の主たる原因は、心血管病による死亡の1000万人、障害調整生命年は2.07億年、第2位が、がんによる死亡91万人、2000万年の障害調整生命年、第3位が、2型糖尿病による死亡(33万人、障害調整生命年は2400万年)でした。つまり、死亡数も障害調整生命年も、ほぼ心血管病に起因している考えて良いと思われます。500万人の死は、70歳以下に生じていました。

21GBD地域の中で、食事性因子による死亡率が、最大だったのは、オセアニア地方の10万人中 678人でした。最低だったのは、高収入のアジアパシフィック地方で、10万人中 97人でした。

食事性因子によって発症した心血管病による死亡数は、中央アジアが最大で、10万人中 613人でした。最低は、高収入のアジアパシフィック地方で、10万人中 68人でした。食事性因子によって発症したガンによる死亡数について、最大が東アジアの10万人中 41人、最低が北アフリカの10万人中 9人でした。

世界で最も人口の多い20の国を比較すると、年齢調整したすべての食事性因子による死亡率が最も高いのは、エジプトの10万人中 552人、最低は、日本の10万人中 97人でした。食事性因子によって発症した心血管病による死亡数について、最大を示したのが、中国の10万人中 299人、最小が日本の10万人中 69人、食事性因子によって発症した糖尿病による死亡数の最大は、メキシコの10万人中 35人、最小は、日本の10万人中 1人でした。

<それぞれの食事アイテムが死亡率に与える影響>

過剰な塩分摂取が、死亡率に与える影響は、300万人、障害調整生命年は7000万年でした。全粒穀物の摂取不足が、死亡率に与える影響は、300万人、障害調整生命年は8200万年でした。フルーツの摂取不足が、死亡率に与える影響は、200万人、障害調整生命年は6500年と推算されました。食事性の死亡のほぼ半分以上、障害調整生命年の3分の2以上を、これら3つの因子が占めることがわかりました。死亡の2%以上を占める因子として、(1)塩分、(2)全粒穀物、(3)フルーツ、(4)ナッツ、(5)野菜、(6)オメガ3脂肪酸が判明しました。

<コメント>

5人に1人が、食事性の影響によって死亡することが、明らかにされました。これは喫煙による死亡リスクよりも大きいと見積もられます。今回の結果から、(1)塩分、(2)全粒穀物、(3)フルーツ、(4)ナッツ、(5)野菜、(6)オメガ3脂肪酸、の重要性が審らかにされ、これまでの「糖質、脂質、塩分の摂取量」を重視してきた食事ガイドラインを見直す必要性が示唆されました。 

平成29年の国民栄養調査(文献7)では、(1)塩分9.5グラム、(2)野菜275グラム、(3)食物繊維14.4グラム、(4)果物105グラムと記載され、我が国における「健康的な食事」と「不健康な食事」の摂取量は、世界のガイドラインとは、おおきなずれがあることがわかります。ナッツ、全粒穀物は調査にすら入っていないという状況です。適切な塩分制限には、引き続き注意を払い、玄米などの全粒穀物、フルーツ、ナッツ、野菜の摂取量を増やしていく努力が必要なようです。加えて、国民栄養調査については、今後ナッツ、全粒穀物の調査を期待するところです。

さて、今回の研究で問題になったのは、塩分摂取量の測定精度です。正確な算定のために、1日のトータルの尿排泄量からナトリウム量を測定する必要がありますが、この方法は多くの研究で採用されませんでした。また、食事に関する研究は、前日の食事内容を想起し、その詳細の記録をもとに食事因子の摂取量を算定しますが、日々の食事の違いのバイアス(偏り)など、その程度は大きいとされます。こうしたバイアスを最小とする研究手法の開発が必須とされ、今後の研究の進展を期待します。

また、カロリー摂取量の違いがバイアスにならないよう、2000kcal摂取したと仮定して、15種の食事について、その摂取量を補正しているという、バイアスもあります。また、年齢、性別、運動、喫煙で補正はしているものの、未知のバイアスの関与がありえるでしょう。食事性の各因子による相互作用による影響もバイアスとなりえますが、今回の研究では考慮されていません。今後こうしたバイアスの最小化を含め、精度の高い、研究成果を期待します。

本研究によって、食事性の死亡リスクの大きさが明確にされました。健康で快適な生活を送り続ける秘訣は、塩分制限、そして積極的な全粒穀物とフルーツ摂取を実現することのようです。

文献1
Current evidence on healthy eating.
Annu Rev Public Health. 2013; 34: 77-95

文献2
The associations between food, nutrition and physical activity and the risk of colorectal cancer.
http://www.wcrf.org/sites/default/files/SLR_colorectal_cancer_2010.pdf

文献3
World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research
Diet, nutrition, physical activity and cancer: a global perspective. Continuous Update Project Expert Report.
https://www.wcrf.org/dietandcancer

文献4
Etiologic effects and optimal intakes of foods and nutrients for risk of cardiovascular diseases and diabetes: systematic reviews and meta-analyses from the Nutrition and Chronic Diseases Expert Group (NutriCoDE).
PLoS One. 2017; 12: e0175149

文献5 
Estimating the global and regional burden of suboptimal nutrition on chronic disease: methods and inputs to the analysis.
Eur J Clin Nutr. 2012; 66: 119-129

文献6
Lancet. 2019 Apr 3. pii: S0140-6736(19)30041-8. doi: 10.1016/S0140-6736(19)30041-8. [Epub ahead of print]
Health effects of dietary risks in 195 countries, 1990-2017: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2017.

文献7
国民栄養調査平成29年度
https://www.mhlw.go.jp/content/000451759.pdf