2019/05/07

愛し野塾 第202回 炭水化物の「質」と疾病発症の関係


生命維持に必須な栄養素である「炭水化物」。一方でその過剰摂取、主にスクロースを主体とした糖分がもたらすネガティブな側面として、齲歯、肥満、2型糖尿病、心血管病発症などが、報告されてきました。2015年には、WHOは、砂糖の摂取を、全摂取カロリーの10%未満に制限するよう、勧告を発行しました。

一方で、バーキット博士らが、アフリカでの研究成果をもとに提唱している「炭水化物摂取による疾病誘発の原因には、精製炭水化物摂取偏重に伴う、食物繊維の摂取不足が介在する」という説が、注目されています(文献1)。いわゆる先進諸国における近年の大腸疾患の増加は、途上国であるアフリカに比較しても顕著であり、「その原因は、精製炭水化物の摂取が多いからである」、とするユニークな仮説です。その後、大腸疾患以外の多くの疾患群の発症においても、精製炭水化物が関与することを示す報告が相次ぎました(文献2)。2018年には、炭水化物摂取による疾病誘発のメカニズムは、糖質の過剰摂取というよりは、食物繊維の摂取不足によるものである、すなわち「糖質の質」の問題である可能性が高い、とした、論説がハーバード大学から発表されました(文献3)。

さて、白米は、玄米を精製してできますが、精製の過程で、食物繊維が減少します。白米摂取後、食後血糖の上昇は顕著ですが、玄米は、白米ほどではありません。食後の血糖の上がる程度を、グライセミックインデックス(GI)を用いて指数化すると、玄米のGIは、56、白米は80と大きな開きがあります。玄米も白米も、含まれている糖分は、ほぼ同じにもかかわらず、食後血糖の上昇が、玄米で少ない理由は、「玄米に含まれる高い食物繊維量にある」と考えられています。150グラムの白米と玄米を比較すると、ともに約250Kcalであるものの、食物繊維含有量は、白米の0.45グラムに対し、玄米では2.11グラムと、4.6倍もの差があるのです。同じカロリーの糖質を摂取するなら、食物繊維含有量の多い玄米のほうが、白米よりも、疾病予防に寄与する、というわけです。実際、各国の食事ガイドラインを見ると、未精製炭水化物である全粒穀物の摂取を推奨しているのもうなづけるところです。

さて、健康維持に最適な食物繊維摂取量は、判然としていません。科学的エビデンスが不十分であること、かつ、食物繊維摂取の指標は、「食物繊維摂取量」「全粒穀物摂取量」「GI」「グライセミックロード」など複数存在し、疾病抑止に最適な指標については、未だ不明瞭なままなのです。 

さて、2019年1月10日「炭水化物摂取と疾病との関係について」質的観点から、問題解決に取り組んだ研究が、ランセットに発表されましたので、まとめたいと思います(文献4)。

<方法>
認知度の高い各国ガイドラインに従い、システマティックレビュー、メタ解析を行い、WHOの栄養ガイダンス専門委員会が選定したPICO(Population, Intervention, Comparison, Outcome)テーブルで定義されたアウトカムについて検討が行われました。また、炭水化物の質的検討は、食物繊維摂取、グライセミックインデックス、グライセミックロード、全粒穀物摂取の観点から行われました。

・前向き研究について
アウトカムは、全死亡、冠動脈疾患死亡、脳卒中死亡、冠動脈疾患発症率、脳卒中、2型糖尿病、大腸がん発症を評価した論文を対象としました。肥満に伴う発症頻度の上昇を認める、乳癌、子宮内膜がん、食道がん、前立腺がんなどについても検討を加えました。

・臨床研究
肥満、空腹時血糖、インスリン、インスリン感受性、HbA1c、中性脂肪、コレステロール、血圧を評価した「論文」を対象としました。食事性の評価については、少なくとも4週間の無作為割付けで検討した研究を対象とし、体重減少を目的とした研究や、食物繊維サプリを使った研究は、除外しました。また栄養素配分、運動などのライフスタイル因子について、コントロール群と介入群で、バランスが取れている研究を選択しました。

急性、慢性疾患に罹患していない成人、子供を対象としましたが、前糖尿病、軽症から中等症の高血圧、高コレステロール血症、メタボリック症候群の場合、罹患していても対象としました。アウトカムに影響を及ぼすと判断される薬物使用をしているかた、妊娠しているかた、授乳中のかた、摂食障害のあるかたについては、対象から除外しました。

質が高く、バイアスリスクが低い研究を担保するため、システマティックレビュー、メタ解析には、ROBISアセスメントツールを用い、前向き研究については、ニューキャッスル・オタワスケールを使用、臨床研究には、コクラン基準を適用し検討しました。研究資金はWHOによって提供されました。

<結果>
185本の前向き研究から1.35億人年、また、58本の臨床研究から4635人の成人を選出し、メタ解析をしました。子ども対象の研究は1本で、成人の研究とは分けて、解析が行われました。

・食物繊維の摂取量
食物繊維摂取量が多くなると、疾病リスクは、15%から31%低下することが判明しました。全死亡:15%低下、冠動脈疾患死:31%低下、冠動脈疾患発症率:24%低下、2型糖尿病発症:16%低下、直腸結腸癌:16%低下、がん死:13%低下し、収集されたデータは、中等度の質であると判定されました。データの質は低いと判定されましたが、脳卒中死:20%低下、脳卒中発症:22%低下を認めました。また、体重:0.37Kg減少、HbA1c:0.35%低下、総コレステロール:0.15mmol/L低下、収縮期血圧:1.27mmHg低下していました。

一日あたりの食物繊維摂取量と、全死亡、冠動脈疾患発症、2型糖尿病発症、直腸結腸がん発症、それぞれの関係を調査した結果、食物繊維摂取量の増加に伴って、いずれも容量依存性に低下を認め、25グラムから29グラム摂取で、最大の効果が得られることがわかりました。食物繊維摂取量が8グラム増えるごとに、全死亡は7%低下、冠動脈疾患は19%低下、2型糖尿病は15%低下、結腸直腸がんは 8%低下しました。

食物繊維を含む食品の違いや、食物繊維が水溶性か否かで結果に違いがあるかどうか検討した結果、前向き研究、および臨床研究の両方で、差異を認めない結果が得られました。

・全粒穀物摂取量
全粒穀物の摂取量が多いグループでは、13%から33%の疾病リスクの低下を認めました。全死亡:19%低下、冠動脈疾患死:34%低下、冠動脈疾患発症率:20%低下、2型糖尿病発症:33%低下、直腸結腸癌:13%低下、がん死:16%低下、脳卒中死:26%低下、脳卒中発症:14%低下していました。直腸結腸癌では、データの質は中等度を示し、それ以外は、全てデータの質が低いと判定されました。また、体重:0.62kg減少、HbA1c:0.54%低下、総コレステロール:0.09mmol/L低下、収縮期血圧:1.01mmHg低下していました。一日あたりの全粒穀物摂取量と、全死亡、冠動脈疾患発症、2型糖尿病発症、直腸結腸がん発症との関係を調べると、いずれの項目も容量依存性の低下を認め、全粒穀物摂取が15グラム増えるごとに、全死亡は6%低下、冠動脈疾患は7%低下、2型糖尿病は12%低下、結腸直腸がんは3%低下を示しました。

・GI
結果の「質」は、全死亡、冠動脈疾患発症、2型糖尿病発症、直腸結腸がん発症、脳卒中発症、脳卒中死、冠動脈疾患死、がん死のいずれにおいても、低い、あるいは、きわめて低いと判断されました。同様に、GIと、全死亡、冠動脈疾患発症、2型糖尿病発症、直腸結腸がん発症とのそれぞれの関係についても、いずれも容量依存性の変化を認めませんでした。体重は0.29Kg減少、収縮期血圧は0.17mmHgの減少で、得られた結果の質は高く、信憑性のあるものでしたが、食物繊維摂取量、全粒穀物摂取量に比較して、その効果は小さいと評価されました。

<コメント>
大規模メタ解析によって、「食物繊維摂取量の増加に伴って生じる全死亡の減少、冠動脈疾患、2型糖尿病、結腸直腸がん発症の低下」が明らかにされました。また、食物繊維の摂取は、体重、血圧、コレステロール値、それぞれの低下にも寄与していることが示され、疾病の発症抑制メカニズムに踏み込んだ結果が得られました。食物繊維の摂取容量依存性の効果が示されたこともまた、高い信頼性を担保する結果だと評価される所以でしょう。結腸直腸がん以外にも、乳癌及び、食道がんの発症抑制効果も判明し、あらゆるがんの発症予防への福音となるのではないでしょうか。

本研究の膨大なデータ解析から、推奨される食物繊維摂取量は、1日あたり25gから29gであることが示されました。日本政府は、約20gの食物繊維の摂取を薦めていますが、十分とはいえないかもしれません。2018年版国民栄養調査では、日本人平均食物繊維摂取量は、14.4gと報告されています。今後、積極的に食物繊維を摂取するよう努力が必要ですね。

さて、全粒穀物摂取でも食物繊維摂取と同様の良好な効果が認められましたが、食物繊維摂取ほどの高い相関はありませんでした。食物繊維を含む食品には、果物や野菜があるためではないか、と推察されます。今後、詳細の検討が加えられることを期待します。

さて、GIやグライセミックロードは、臨床的指標として、あまり有効でないこと、またそれは、2017年の論文内容(文献5)を支持する結果でした。しかし、これらの指標は「証拠に基づく医療」とは別に、メディアでの注目度が高く、日常臨床でも汎用されている点で、驚き、かつ、残念な気がします。一方で、今回の研究では、糖尿病や重症の高脂血症のかたが除外されていました。GI、及びグライセミックロードを用いたこれまでの臨床データから、これら指標から算出される食事療法を行えば、糖尿病や重症高脂血症患者にとって著しく有効である、という考え方を完全に否定するものではないでしょう。ただし、フルクトースやスクロース添加した食品や、飽和脂肪酸と炭水化物を両方含む食品(菓子類)はGIが低く出ることが知られています。GIは必ずしも万能ではないことを留意するべきでしょう。GIとグライセミックロードについては、さらなる検討が必要だろうと思います。

今回、炭水化物摂取量と疾病との関係については、検討されませんでした。炭水化物の「質か量か」どちらに、疾病対策を目的に重点を置くべきか、という問いに対する答えは、持ち越されました(文献6)。未だ、糖質制限食が席巻している現況をかんがみると、今後の検討は必須とされましょう。

さて、食物繊維25グラムの摂取とは、現実的に、どのような食事摂取によって可能なのでしょうか。食物100g当たりの食物繊維含有量は、納豆で6.7g、玄米で2g、バナナ1.1g、アーモンド10.4g、ほうれん草2.5gなどです。25g取るのは、なかなか至難の技ですね。食物繊維を増やすべく、時には主食の白米をやめ、玄米にする、また、豆類、野菜、果物のバランスの良い摂取を意識したいところです。また、今回の研究では、「加工食品」に含まれる食物繊維摂取についての検討は行われいません。「自然食品摂取に限った研究」であったことも、注意をしたいところです。

<文献>

1)Burkitt, D.P., Walker, A.R.P. and Painter, N.S., 1972. Effect of dietary fibre on stools and transit-times, and its role in the causation of disease. The Lancet, 300(7792), pp.1408-1411.

2)Aune, D., Keum, N., Giovannucci, E., Fadnes, L.T., Boffetta, P., Greenwood, D.C., Tonstad, S., Vatten, L.J., Riboli, E. and Norat, T., 2016. Whole grain consumption and risk of cardiovascular disease, cancer, and all cause and cause specific mortality: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective studies. bmj, 353, p.i2716.

3)Ludwig, D.S., Hu, F.B., Tappy, L. and Brand-Miller, J., 2018. Dietary carbohydrates: role of quality and quantity in chronic disease. BMJ, 361, p.k2340.

4)Reynolds, A., Mann, J., Cummings, J., Winter, N., Mete, E. and Te Morenga, L., 2019. Carbohydrate quality and human health: a series of systematic reviews and meta-analyses. The Lancet. pii: S0140-6736(18)31809-9. doi: 10.1016/S0140-6736(18)31809-9. [Epub ahead of print]

5)Clar, C., Al‐Khudairy, L., Loveman, E., Kelly, S.A., Hartley, L., Flowers, N., Germano, R., Frost, G. and Rees, K., 2017. Low glycaemic index diets for the prevention of cardiovascular disease. Cochrane Database of Systematic Reviews, (7). Cochrane Database Syst Rev. 2017 Jul 31;7:CD004467. doi: 10.1002/14651858.CD004467.pub3. Review.

6)Chambers, E.S., Byrne, C.S. and Frost, G., 2019. Carbohydrate and human health: is it all about quality?. Lancet. 2019 Jan 10. pii: S0140-6736(18)32468-1. doi: 10.1016/S0140-6736(18)32468-1.