2018/10/23

愛し野塾 第191回 胆嚢切除のリスクと食生活



日本人の胆石保有率は、5%と報告されています(文献1)。診断のゴールドスタンダードである超音波エコー検査によって、検診対象者の2-3%に胆石が発見されます。欧米では、胆石の有病率はさらに高く10-15%と報告されています。珍しくはない病気とはいえ、痛みの程度が強くなり、入院、手術を要する症例には、注意が必要です。初発症状として、腹痛、背部痛が57.1%、発熱9.5%、悪心、嘔吐7.5%、黄疸3.3%、無症状34.9%と報告されています。また肥満人口の増加、アルコール消費の増加から、胆石症患者数は増えていくことが予測されています。胆石症の主なリスク因子は、Forty(40歳代),Female(女性)、Fatty(肥満)、Fair(白人)、 Fertile(多産、経産婦)と言われ、それらの頭文字から5Fとして知られています。欧米の調査では、男性の2-3倍程度、女性における発症率が高いことが報告されています。そのほか、急激な体重減少、脂質異常症、高インスリン血症もリスク因子として挙げられています。
胆石が原因となって生じる症状・病態として、痛みのほか、胆嚢炎、膵炎、胆管閉塞があり、症状のある胆石は胆嚢切除術を施行する必要がありますし、胆石は胆嚢がんのリスク因子の一つでもあることから、無症状でも、十分な経過観察を要します。
これまで「胆石予防のための食事療法」を目的とした栄養学的調査は盛んに行われてきました。すでに高カロリー食摂取、炭水化物・糖質摂取が多いこと、動物性脂肪の摂取が多いこと、セダンタリーな生活習慣、夜間の長時間の絶食などは、食事に関するリスク因子として示されてきました。一方でリスク低下因子として、果物、ナッツ、多価不飽和脂肪酸、植物性たんぱく質、食物繊維、適度な飲酒、野菜、適度な運動、コーヒーがあります。しかし、こうしたリスク因子の発見に用いられた研究は、症例対照研究の結果に基づいており、想起バイアスが大きいと指摘されていました。2017年9月、フランスのグループが、前向きの大規模研究を施行した結果を公表し、食事と胆嚢切除のリスクについて、詳細な解析を行いましたので解説します(文献2)。
<対象>
E3Nと呼称されたこの研究は、ホルモンや環境因子と慢性疾患全般との関連について調査する、大規模前向きコホート研究です。1925年から1950年の間に生まれた98995人の女性、かつフランス在住で、保険により支払いをうけている、学校の先生および職場の同僚を対象としています。健康状態、医療記録、ライフスタイルは、2年ごとに質問票に答える形式で調査されました。アウトカムには、無症状の胆石ではなく、「胆嚢切除」としました。より明確にアウトカムが捕らえられると考えられたからです。
74,520人から得られた食事データをもとに、エネルギー摂取、要求バランスが大きく崩れているトップとボトムの1%(799人)、すでに胆嚢切除されている3392人、がん患者5311人、1993年の質問票に未回答の349人、経過が追えなくなった167人を除外し、最終的に64052人が解析対象となりました。そのうち2778人が胆嚢切除されました。
食事質問票:208の食事、飲み物について問われました。食事量は、写真つきブックレットを用いて算出し、かつ食事回数、食事グループを記載しました。1993年から1995年の間に食事質問票を郵送しました。体重、身長、出産回数、運動量、教育レベル、喫煙、糖尿病、ホルモン補充療法、ピル、コレステロール降下剤についても問い合わせました。
食事パターン:あらかじめ定義した57の食事グループをもとに因子分析をおこないました。地中海食:野菜、マメ科植物、フルーツ、シリアル製品、魚、オリーブオイル、適量のアルコール(5-25グラム/日)の7品目をプラスの食品とし、肉と加工肉、乳製品の2つをマイナスの食品としました。摂取量の平均値の上が1、下が0としました。スコアは最低が0、最大が9となりました。
<結果>
平均経過観察期間は18.2年、合計1033955人・年を解析しました。平均年齢52.7歳、経口避妊薬服用率61.3%、閉経後ホルモン療法54.3%、糖尿病既往者4.4%、平均BMI22.8、高学歴率36.2%、喫煙率13.5%、平均出産数2.0、運動時間49.3MET h/日、コレステロール降下剤使用率6.9%、全摂取カロリー(アルコール除く)2132.3kcal、アルコール摂取量11.6グラム/日、脂質摂取量802.4グラム/日でした。胆嚢切除を受けた方のBMIは、24.1とより高く、出産数は2.1人と多く、閉経後ホルモン療法56.1%、コレステロール降下剤使用11.7%、糖尿病7.7%とそれぞれ未切除の方より多いことがわかりました。経口避妊薬服用率は低く、社会経済的地位が低いことが見出されました。
食事グループ:複数の交絡因子で補正した結果、胆嚢切除リスクは、マメ科食物でHR=0.73(Ptrend<0.001)、フルーツ(HR=0.75,Ptrend<0.05)、植物油(HR=0.87,Ptrend=0.02)、全粒パン(HR=0.86,Ptrend=0.01)を摂取している方で低く、逆に、ハム摂取はリスク上昇(HR=1.22(Ptrend=0.005))への関与を認めました。
食事パターン:2つの代表的食事パターン(ウエスタン食群・地中海食群)が抽出されました。ウエスタン食群は「加工肉、缶詰の魚、卵、ライス、パスタ、アピタイザー、ピザ、パイ、ポテト、ケーキ、高濃度のアルコール、マヨネーズ」の摂取量が多く、地中海食群は「魚、フルーツ、野菜、オリーブオイル」の摂取量が多いことがわかりました。
ウエスタン食群は、年齢が若いこと、経口避妊薬使用が多く、コレステロール降下剤使用は少なく、喫煙者と糖尿病患者が多いことがわかりました。エネルギー摂取は高く、脂質、アルコール量も多いことがわかりました。ウエスタン食群と、胆嚢切除との間に相関はありませんでした。
地中海食群は、 高齢、過体重、ホルモン補充療法、高い運動量、高い教育レベルであることがわかりました。ただし、アルコール摂取、カロリー摂取はスコアが増えるにつれて多いものの、ウエスタン食群ほどではありませんでした。地中海食群では、胆嚢切除が少なくなる傾向がありました(HR­=0.91、P=0.077、有意差なし)。閉経後にホルモン補充療法を施行した地中海食群では、胆嚢切除との間に有意な負の相関を認めました(HR=0.79、P=0.008)。
地中海食スコアと胆嚢切除リスクの関係:地中海食スコアが高いと、高齢、高い運動量、高い教育レベル、高い摂取カロリーであることがわかりました。地中海食スコアと胆嚢切除リスクとは、負の相関がありました(スコア4-5、HR=0.97、スコア6-9、HR=0.89、Ptrend=0.02)。
<コメント>
ハム摂取が胆嚢切除リスクを増加させ、フルーツ、全粒パン、マメ科植物、オリーブオイル摂取が同リスクを下げること、すなわち、地中海食の摂取が胆嚢切除リスクを下げることが明確に示されました。そのメカニズムは、食事性ファイバーを多く摂取し、胆汁酸排泄を増やし、コレステロール合成抑制を促すことが関与している可能性が高いとされます。
研究上の問題点として、第1に、食事質問票では、回答者の記憶の曖昧さによるバイアスが疑われ、記載内容の不正確性が残ること。第2に、食事質問票は初回のみの施行で、観察期間中の食事パターンの変化については確認されず、バイアスとなった可能性が否めないこと。第3に、胆嚢切除リスク低下の割合は、比較的小さかったことから解釈には注意を要すると考えられる事です。第4に、比較的高学歴のフランス女性を対象にしたことから、普遍性に乏しい可能性があります。今後、食事質問票を経過中と研究開始時の最低2度は施行し、参加対象者の教育歴の拡大や男性も対象に含めた調査が必要になるでしょう。
胆石は、ありふれた疾患とは言っても、一旦症状が出れば、切除を検討すべき疾患です。また、胆嚢がん、胆嚢穿孔、胆嚢炎、膵炎などの重篤な合併症のリスクもある事を忘れてはなりません。食事習慣や体重管理に今一度心を配り、糖尿病始め、他の疾患にも利益があることが証明されている「地中海食の実践」を一層すすめたいと思います。

文献1 胆石症治療ガイドライン2016
文献2 American Journal of Gastroenterology 2017:112:1449-56
Diet and Risk of Cholecystectomy: A prospective study based upon the French E3N cohort