2016/06/28

第75回 愛し野塾 地中海式ダイエットの体重・腹囲に及ぼす影響は?!



オリーブオイルやナッツを豊富に含む食事である「地中海式ダイエット」は、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管病に対する予防効果があるという観点から注目を集めてきました。スペイン・バルセロナ大学のエストラック博士によって主導された「プリディメド」と呼称される大規模研究が、2013年にNEJMに発表されたときの衝撃は記憶に新しいところです。この食事療法を守ることによって、30%もの心血管病予防効果があること、加えて、30-40%の糖尿病発症予防効果もあることが報告されたのです。これ以前は、運動療法や薬物療法でもこれだけ顕著な効果をもたらすものは知られておらず、疾病予防に及ぼす地中海式ダイエットの優れた有効性が広く知れ渡ったのです。
 
 さて、この食事療法では、オリーブオイルやナッツが多く使われることから、その含有脂質として摂取されるカロリーが増えることになり、結果として体重増加が懸念されるのではないかと指摘されてきました。体重増加によって肥満度が上がれば、心血管病の有病率、死亡率を上昇させ、2型糖尿病、癌、骨格筋の病気を誘発すると考えられています。
 
 今回、ランセット誌に、地中海式ダイエットが体重と腹囲に与える影響について検討した結果が、エストラック博士らにより発表されましたので、解説したいと思います
 
Estruch, R., Martínez-González, M. A., Corella, D., Salas-Salvadó, J., Fitó, M., Chiva-Blanch, G., ... & Serra-Majem, L. (2016). Effect of a high-fat Mediterranean diet on bodyweight and waist circumference: a prespecified secondary outcomes analysis of the PREDIMED randomised controlled trial. The Lancet Diabetes & Endocrinology.
 
 研究では、7447人の2型糖尿病、あるいは、高血圧などの血管病リスク因子を複数有する方を対象とされました。自覚症状のない男性(55歳から80歳)及び女性(60歳から80歳)、平均年齢は67歳でした。97%はヨーロッパ系白人でした。対照ダイエットとして「脂質摂取を減らすようにとアドバイスをうけた群」(2450人)と、「エクストラバージンオイル(2543人)あるいはナッツ(2454人)を豊富に含む地中海式ダイエットを施行するそれぞれの群」に無作為に割り付けられました。90%以上が肥満と診断され、平均BMIは29.7から30.2でした。研究からの脱落者は、対照食摂取群が277人、エクストラバージンオリーブオイル摂取群が155人、ナッツ摂取群が91人でした。
 
 試験期間中、地中海式ダイエットによって摂取量が増加したのは、野菜・穀物・フルーツ・魚でした。一方、減少したのは、肉・スイーツ・乳製品でした。総カロリー摂取量は、いずれの群でも減少しましたが、コントロール食の摂取群が、地中海式ダイエットに比較して有意な減少がありました(P<0.0001)。脂質が全体の摂取カロリーに占める割合は、5年経過で、コントロール食摂取群では40%→37.4%と減少しましたが、オリーブオイル摂取群では、40%→42%と上昇、ナッツ摂取群でも、40%→42.2%と増加していました。つまり、地中海式ダイエットのグループでは、低脂肪食グループに比較して、全カロリーに占める脂質の割合は、有意に高いことが認められました。
 
<体重> 4.8年の観察期間で、3つのダイエット群のいずれにおいても、わずかな体重減少が認められました。コントロール食摂取群に比較して、エクストラバージンオリーブオイル摂取群は、0.43Kgの体重減少、ナッツ摂取群は、0.08Kgの減少がありました。
 
<腹囲> 体重減少の一方で、腹囲はいずれの群も増加を認めました。グループ間の比較では、コントロール食摂取群に比較して、エクストラバージンオリーブオイル摂取群で、0.55cm少なく、ナッツ摂取群は、0.94cm減少していました。
 
食事療法のガイドラインでは、一般に低脂肪食が推奨されてきました。飽和脂肪酸摂取量を抑制することによって、血中コレステロールが低下し、その結果、心血管イベントが低下すると考えられていたからです。しかし、現在多くの批判によって見直されてきました。第一に、炭水化物と比較して、飽和脂肪酸は、LDLのサイズを増加させ、アポBの濃度には影響を与えず、HDLの濃度を上げ、VLDLに含まれるTG濃度を下げること。第二に、食事性の脂肪や蛋白摂取を減らす代償としてでんぷん質や、糖分摂取が増えること。第三に、従来の食事療法のガイドラインでは、健康によいはずの不飽和脂肪酸を多く含む植物性オイル・ナッツ類・魚の摂取までもが制限されてしまうからです。
 
未だ欧米では、全カロリーに占める脂肪の割合を35%未満にすることを推奨しており、WHOにいたっては、さらに低く、30%を推奨しています。世界的な肥満パンデミックの状況下、この「カロリー摂取恐怖症」というべき事態はよく理解できます。持続的な過剰なカロリー摂取の結果、肥満となる、だから、カロリーを減らすべきだ、脂質摂取は単純に総カロリー量を上昇させやすのだから脂質制限がカロリーカットに有効であるというロジックです。短期的には体重を減少させるためにカロリー制限は有効な方法でしょう。しかし、長期的視野から、カロリー制限が有効であるかは定かではなく、過去10年に出版された論文を精査してみても、むしろ、高脂肪食のほうが、低脂肪食よりも、体重減少が認められたと結論付けられるのです。
 
今回、発表になったエストラフ博士らの論文によって、この考え方の正当性が確認されたといえましょう。ナッツや、オリーブオイルの摂取量を増やすのは勿論のこと、加えて、ヨーグルトやチーズの摂取制限も見直すべきである、との結論がえられました。低脂肪、低カロリー食が体重を減らすというこれまでの「ドグマ」を見直すべきときがきたと考えてもいいのではないでしょうか。心血管病予防の観点からも、体重コントロールの観点からも、「フルーツ、ナッツ、野菜、豆、魚、ヨーグルト、オリーブオイル、加工されていない穀物の摂取を増やし、でんぷん、砂糖、トランス脂肪酸を多く含む加工食品を減らす」ことが今後の食事摂取を考える上での重要ポイントとなるのではないでしょうか。