2019/05/07
愛し野塾 第212回 「慢性疼痛と不安」の相互関係を解明する
継続的な痛みである「慢性疼痛」は、日常生活、そして仕事にも支障を来たす大変煩わしいものです。また、この問題は、世界中の人間の抱える重要な臨床課題でもあるのです。
さて、昨今、慢性疼痛の原因の一つとして注目されているのが、「痛みの程度や持続性に及ぼすこころの関与」です。いくつかの研究のうち、健常者を対象にした臨床研究では、「特に、不安やうつ症状などのマイナスの感情が、痛みの閾値を下げる」ということが示され、弱い刺激ですら痛みを感じやすくなることが、判明しています。逆に、腰部など骨格筋に生じる慢性の疼痛は、不安やうつ症状を悪化させる作用を及ぼすことが、示されています。また、関節の痛みを特徴とする「変形性関節症」の患者では、不安やうつ症状を高頻度に認め、反対に、既に不安やうつ症状のある患者については、変形性関節症によって生じる痛みの増強に影響を及ぼし、少なくとも1週間ほど、悪影響が持続する、といった報告も認められます。
一方、治療については、変形性関節症による慢性疼痛患者について、不安、うつ症状が並存する症例では、オピオイド使用が増えることや、関節手術の結果が悪くなること、が知られています。このため、「変形性関節症患者に併発している不安障害は、痛みの長期化や、罹患している関節部位以外への痛みの拡散に、影響を及ぼすのか」といった観点から、エビデンスを元にした解析が求められています。
脳画像解析によって、不安時には、中脳水道周囲灰白質(PAG)、前帯状皮質(ACC)が、活性化されることが示されています。興味深いことに、これらの部位は、変形性関節症による痛みの発生時にも活性化を認め(文献1)、「不安」も「痛み」も、同部位の活性化によって、増強の連鎖が生じている可能性が高いことは、実証されつつあるのです(文献2)。また、痛みを予期するときにも、ACCの活性化を認め、不安と痛みの相互関連レベルの上昇が示唆され、密接な相互関係を支持するものとなりました。
今回、変形性関節症患者を対象に、「不安障害のスコアが高いと、痛みのスコアが悪化する可能性」、さらに「病変を認める関節部位以外の身体部分に、痛みが波及する可能性」の2つが検討され、興味深い結果が示されましたので、報告します。
<対象>
英国東ミッドランド在住の40歳以上の方を対象に「膝の痛みと関連する疾病のコホート研究」が遂行されました。4730人を対象に、膝の痛み・不安・うつ症状について、質問票(病院不安・うつスケール=HADS)によって分析されました。そのうちの3274人は膝の痛みの所見はなく、12ヶ月後にも、再度、HADS質問表を施行し、縦断研究に供しました。
圧痛み感知閾値測定の研究の対象となったのは、230人でした。そのうち130人に膝の痛みを認め、XPで関節症のスコアが2以上、痛みが3ヶ月以上続くといった条件を満たしていました。残りの100人は、痛みも、変形性膝関節症も認めませんでした(XP画像で異常所見なし)。
圧痛み感知閾値は、スエーデンのソメディックセンスラボ社のセメディック・センスボックスを用いて、痛みの最も顕著な脛大腿関節部位、痛みのない場合は、右膝関節部位で測定しました。痛み部位から離れた部位として、前脛骨部位と胸骨部位の圧痛み感知閾値測定を行いました。
痛みの評価には、0-10点に点数化した痛みスコア(NRS)と、間欠的、持続的関節症痛みスケール(ICOAP)を用いました。
<結果>
変形性膝関節症130人、対照群100人が対象になりました。平均年齢は、変形性関節症患者群が63歳、対照群が60歳で、有意差を認め(P=0.02)、BMIも変形性膝関節症群で30、対照群で27で、有意差を認めました(P<0.01)。女性の比率は、前者で59%、後者で61%と、男女比の差を認めませんでした(P= 0.67)。変形性膝関節症群は、対照群に比較してやや高齢、かつ体重は重いグループとなりました。痛みのスコアは、変形性膝関節症群で4.74、対照群で0.43と、前者で有意に高いことがわかりました(P<0.01 )。
不安とうつ症状は、変形性膝関節症患者に有意に多いことが示されました。不安のHADSスコアは、変形性膝関節症群で7.73、対照群で5.65(P<0.01)、中程度以上の不安障害の比率は、変形性膝関節症群で25.4%、対照群で10%で(P<0.01)いずれも統計的有意差を認めました。うつ症状のHADSスコアは、変形性膝関節症群で5.72、対照群で3.34でした(P<0.01)。中程度以上のうつ症状は、変形性膝関節症群で10%、対照群で4%と、有意差を認めませんでした(P=0.095)。
鎮痛剤の使用は、変形性膝関節症群が41.5%で、対照群の21.0%に対し、有意に多く(P<0.01 )、同様に、NSAID使用も、前者で26.2%、後者で12.0%と、変形性膝関節症群で有意に多く、麻薬の使用は、前者で20.8%、後者で5.0%でした。
ー不安症状と痛みー
変形性膝関節症患者では、不安症状と、痛みスコア、間欠的痛み、持続的痛みスケールとの間に、強い相関関係を認めました(βがそれぞれ、1.308、0.965、1.301で、P値は、それぞれ0.011、0.0011、0.0001)。圧痛み感知閾値測定では、前脛骨、膝(外側)、膝(正中)、胸骨で、それぞれ不安障害との相関のβ値は、-0.162、-0.12、-0.166、-0.4で、P値は、0.0038、0.0524、0.0037、0.0115でした。
不安障害のある症例では、痛み刺激に対する脆弱性を示すことが、判明しました。また「不安障害は、膝関節ばかりでなく、膝から遠く離れた胸骨にも及ぶほどの、痛み刺激を増強させる作用がある」ことが示されたことは、臨床的に大変重要な知見となりました。一方、変形性膝関節症の痛みを認めない場合、不安症状との間に相関はありませんでした。
ーうつ症状と痛みー
変形性膝関節症患者に、うつ症状と痛みスコアの間の相関(P=0.021)を認めたものの、うつ症状と間欠的痛み、持続的痛み、圧痛み感知閾値測定のいずれとも相関はありませんでした。不安症状に比較すると、うつ症状による痛みの増幅作用は小さく見積もられるものと考えられました。変形性膝関節症ではなく、かつ、関節に痛みのないかたでは、うつ症状と痛みの相関はありませんでした。
ー縦断的研究ー
痛みが認められなかった3274人について、12ヵ月後の痛みの発症に与える不安症状の影響を検討したところ、有意に高いオッズ比:1.96(P<0.01)を示し、不安症状があると慢性疼痛を発症するリスクが高いことが示されました。
うつ症状が痛み発症に与える影響は、オッズ比が1.71(P<0.01)とやはり高値でした。試験登録時の不安症状に並び、うつ症状も、痛み発症のリスク因子であることがわかりました。一方、試験登録時の痛みは、不安症状を発症させるリスク因子でないことがわかりました。
<コメント>
変形性膝関節症をモデルとして検討した結果、不安・うつ症状が、痛みに及ぼす影響が示唆され、うつ症状よりも、不安が、痛みを発症・増強させる、強いリスク因子であることが明らかになりました。痛みを抱えている患者さんを診た場合に、不安が並存する症例であれば、「不安」を考慮に入れた治療体制の提供が、痛みの軽減に繋がると期待されます。痛みが顕著ではない変形性膝関節症でも、不安傾向の強い患者さんについては、痛みの発症リスクの潜在性があることを念頭に定期的な診察を行なってゆくことが重要だと思います。また、膝にとどまらず、患部から離れた遠位の痛みにも「不安」が影響を及ぼすことや、痛みをコントロールしているのはローカルな因子ではなく、むしろ中枢の因子である可能性が示されたことは、今後の治療法探索へのヒントになるものと考えられます。
同じ論文の中で、不安レベルの高いWKYラットを用いた動物実験では、(1)痛みを誘発した下肢側だけでなく、反対側の下肢にも、痛み刺激閾値の低下を認めること、(2)脳病理の検討から、痛みを誘発する部位のアストログリアの増殖が認められること、が示されました。不安によって増強した痛みは、中枢の指令で誘発されていることを支持する結果となりました。
今回の試験で設置された対照群には、痛みがなく、XPで変形性膝関節症を認めない方が対象となっています。対照群の条件をより厳格にするためには、痛みはないが、XPで変形性膝関節症を認めるかたが、適切だったと判断されます。将来、対照群の条件を改善し、不安と痛みの関係について精度の高い結果が示されることが期待されます。
一方、動物実験では、オスのみを対象としていました。不安の訴えは女性に多い傾向があることから、性差と痛みのメカニズムについても、興味があるところです。さらに、今回、モデルとして取り上げられた「変形性膝関節症」以外の慢性疼痛を来たすほかの疾患群でも、同様の結果を示すのかどうかも是非とも知りたいところです。
いずれにせよ、不安がもたらす慢性の痛みの増幅作用、惹起作用が徐々に明らかになってきています。もはや「痛み」を「気持ちの問題」として片付けられる時代ではありません。日常臨床では、医療者は、常に患者さんの不安を取り除くような手当てを心がけ、また患者さんを取り巻く生活環境の改善も含め、臨床の基本姿勢を見直す時代の到来だと、強く思わされた研究報告でした。
ref.1
Damsa, C., Kosel, M., & Moussally, J. (2009). Current status of brain imaging in anxiety disorders. Current opinion in psychiatry, 22(1), 96-110.
ref.2
Gwilym, S. E., Keltner, J. R., Warnaby, C. E., Carr, A. J., Chizh, B., Chessell, I., & Tracey, I. (2009). Psychophysical and functional imaging evidence supporting the presence of central sensitization in a cohort of osteoarthritis patients. Arthritis Care & Research, 61(9), 1226-1234.
ref.3
Burston, J. J., Valdes, A. M., Woodhams, S. G., Mapp, P. I., Stocks, J., Watson, D. J., ... & Frowd, N. (2019). The impact of anxiety on chronic musculoskeletal pain and the role of astrocyte activation. Pain, 160(3), 658-669.
愛し野塾 第211回 <アルツハイマー病>新たなリスク遺伝子と治療法の創生
認知症は、人間の尊厳の源である「知性」を奪いさる恐ろしく、そして悲しい病気です。アルツハイマー病に対する根本治療の創生は、いまだ成功に至らず、遺伝子の立場から原因を探り、治療法の確立を模索する動きが続いています。
家族性アルツハイマー病は、アルツハイマー病のごく少数を占める希少疾患ではあるものの、病気の根本原因に迫るという大義のもと、原因遺伝子の探索に、これまで多くの研究者、研究費が投入され、APP、PRESENILIN-1、-2遺伝子が発見されました。これら遺伝子群は、いずれもアミロイドβ産生に直結することから、「アルツハイマー病の原因は、アミロイドβの異常蓄積である」とする「アミロイド仮説」が提唱され、アミロイドβ抑止を目的にした治療法が、相次いで開発されました。しかし、これらの治療法はいずれも、アルツハイマー病の大部分を占める「孤発性アルツハイマー病」の治療には有効ではありませんでした。
一方、65歳以上に発症するアルツハイマー病は、「遅発性アルツハイマー病」と呼称され、遺伝的要因は、限定的な関与であるものの、「病態形成への寄与」が注目れています。遅発性アルツハイマー病の病態に基づき、有効な治療法を創生するには、「病態に関与している遺伝子」を抽出し、その機能を詳らかにすることが重要である、として、2013年には、ゲノムワイド関連解析が行われました。その結果、遅発性アルツハイマー病の危険因子として既に知られていたAPOE以外の「19個の新たなコモンバリアント」が発見されました(文献1)。しかし、これら新規の遺伝子多型では、遅発性アルツハイマー病でみられる遺伝多型の31%しか説明できず、残り70%の疾患に関与する遺伝子多型は不明のままでした。
病気の根本原因と考えられてきたアミロイドβの蓄積を抑止する治療法が、すべて失敗に終わった今、新たな遺伝子をターゲットとした治療法の開発が、一刻も早く望まれています。今回、前回を上回る大規模なゲノムワイド関連解析の元、新たに5つの候補遺伝子が発見されましたので、解説しようと思います。(文献2)。
<方法>
非ヒスパニック白人のゲノムワイド関連解析メタアナリシスを、ステージ1ディスカバリーサンプル(17個の新規データセットを含む、全部で46個のデータセットで21982人分と、対照群として認知正常者41944人分)、アルツハイマー病プロジェクトの国際ゲノミクスなどを対象として行いました。コモンバリアントとレアバリアントの両者を指標として、約3600万のSNPと、約138万のインサーション、欠失、約1.3万個の構造バリアントからなる、1000ゲノムリファレンスパネルを利用しました。コモンバリアントは、945万個、レアバリアントは202万個分を解析しました。遅発性アルツハイマー病患者は、総数9万4437人に及びました。
<結果>
あらたな遅発性アルツハイマー病のリスク遺伝子候補として IQCK、ACE、ADAM10、ADMTS1,WWOX ローカスの関与が、見いだされました。これらローカスの中で、遅発性アルツハイマー病発症と最も関連性があると思われる遺伝子について、プライオリティーランキング法を用いてスコア化し、さらに検討が加えられました。
●ADAM10ローカス
このローカスで最も高いスコアを示したのは、ADAM10遺伝子でした。ADAM10は、脳内のAPPのαセクエターゼとして機能すること、TREM2の切断効果があることが既に報告されています。TREM2はアルツハイマー病のリスク因子であることが既に報告されており、ADAM10の遅発性アルツハイマー病発症への関与は十分に考えられます。またADAM10を大量発現させたマウス脳での、アミロイドβの産生及び、その凝集が抑制されることが既に示されています。遅発性アルツハイマー病では2個のまれなADAM10の変異があり、この遺伝子をマウスに発現すると、αセクレターゼ活性の低下を経て、アミロイドβを主体としたプラーク形成が促進することも報告されています。
●IQCKローカス
肥満のローカスに位置します。最大スコアを認めたIQCKの機能に関しては、十分な検証がなされてきませんでした。同じく高スコアを示した、KNPO1とGPRC5B遺伝子のうち、GPRC5Bは、神経形成の制御、肥満の炎症シグナルを司っていることが知られています。
ACEローカス
このローカスで最も高いスコアを示したPSMC5は、MHCの制御に関与する遺伝子です。また、ACEはスコアが低かったものの、これまでの研究から遅発性アルツハイマー病発症への関与が、強く示唆されています。ACEはアミロイドβの毒性を低下させることが示され、また、ACE作用によって変換されるアンギオテンシンIIは、アルツハイマー病治療のターゲットとして、既に治験に入っています。
●ADAMTS1ローカス
APPの制御エレメントである可能性も否定できないものの、ダウン症やアルツハイマー病でのADAMTS1発現量の増加を認めており、神経保護作用、ミクログリアの重要な神経免疫を司っている可能性が示唆されています。
●WWOXとMAFローカス
肥満のローカスに位置し、マクロファージの重要な制御作用を有するMAFは、ミクログリアにその発現を認めています。WWOXは、HDL-CとTGに関連する遺伝子で、アストロサイトと神経細胞に高度発現しています。WWOXは、タウに結合し、その高度リン酸化、神経原線維形成、アミロイドβ凝集に関与することが報告されています。さらにWWOXに結合するパートナー遺伝子をマウスに発現すると、記憶低下が改善されることが示されています。
<コメント>
94000人の遅発性アルツハイマー病の患者サンプルから、新たな5個の遺伝子候補が見出されたことから、治療薬開発が飛躍することが期待されます。すでに治験に入っているアンギオテンシンII阻害剤による治療効果が期待されます。そして、今後は、ADAM10の活性を上げる薬剤開発、及びIQCK遺伝子機能の解析研究に注力されていくことでしょう。脂質との関与が判明しているWWOXの機能制御も十分に検討の余地がありそうです。
今回の研究で施行されたHLAの詳細解析の結果、DR15が、重要な役割を担うことが明確にされました。DR15は、既に、糖尿病発症を阻止する遺伝子であることが報告されています。これまでアルツハイマー病発症と高い相関があることが示されてきた因子である「認知症の母親がたの家族歴、低い教育歴、低い社会経済的状況、心血管病、糖尿病」についても、今回の研究で確かめられました。あらゆる角度から、本研究の高い信憑性が伺え「アミロイドβ、タウ、免疫、脂質」が、遅発性アルツハイマー病発症のキーワードとなることが確認されたことは意義があったのではないでしょうか。
一方で、ACEローカスのなかで、ACEのスコアが低くなってしまった点については、今後のスコア化のアルゴリズムの改善が求められると思います。
いずれにせよ、遺伝子の立場からの治療法が創生されるのを待ちつつ、今出来ることはといえば、適度な運動を習慣化し、良い睡眠をとる、地中海食を摂取し、芸術を楽しみ、社交性を失わず、生涯勉強を怠らず(次世代には教育を与え!)、心臓疾患、糖尿病是正に向けて、粛々と努力することには、間違いがないようです。
文献1
Lambert, J. C., Ibrahim-Verbaas, C. A., Harold, D., Naj, A. C., Sims, R., Bellenguez, C., ... & Grenier-Boley, B. (2013). Meta-analysis of 74,046 individuals identifies 11 new susceptibility loci for Alzheimer's disease. Nature genetics, 45(12), 1452.
文献2
Kunkle, B. W., Grenier-Boley, B., Sims, R., Bis, J. C., Damotte, V., Naj, A. C., ... & Bellenguez, C. (2019). Genetic meta-analysis of diagnosed Alzheimer’s disease identifies new risk loci and implicates Aβ, tau, immunity and lipid processing. Nature genetics, 51(3), 414.
愛し野塾 第210回 糖尿病患者の死因・その変遷を辿る
糖尿病に罹患し、合併症を併発することで、死亡リスクが高まることは、広く認知されてきました。特に、心筋梗塞・脳卒中に代表される「大血管障害」の併発は、死亡リスクを顕著に上げることが示されてきました。死亡率は、糖尿病に罹患すると、「75%上昇する」と算定され、60歳の方では、非糖尿病患者に比べて、糖尿病患者は、5年ほど命が縮まる可能性がある、と評価されています(文献1)。心血管病以外の糖尿病の合併症のうち、死亡リスクに関与する疾患は、糖尿病そのもの、腎臓病、がん、感染症、肝臓病、外的因子が挙げられています。
1990年から2010年にかけての米国の統計から、糖尿病患者において、心血管病の発症率は年次とともに減少傾向にあることが報告されました。一方で、慢性腎臓病、がん、加齢に伴う疾患群などの合併症が占める割合が増大しています。つまり、糖尿病患者の死因に変化が生じている可能性が指摘されています。また、2000年から2010年の10年間では、糖尿病に起因する死亡率は、16%も低下したことも報告されてています(文献2)。
今回、「時代の変遷ともに糖尿病罹患患者の死因に変化が生じている」とした仮説を検証するために、米国疾病予防管理センター(CDC)が大規模なコホート研究を展開しましたので解説します(文献3)。
さて、糖尿病患者では、死因の特定が難しいと考えられてきました。その理由には、糖尿病にも関わらず確定診断がついていない方が多いこと、糖尿病は、無症状もしくは、ごく軽い症状しかないことが多く、発見が遅れてしまいがちであること、そのため糖尿病による死亡だったのかどうか、判明しづらいことが挙げられています。本CDCの研究は、こういった問題を見据え、縦断的、かつ長期的な、緻密な観察を完遂した見事なものだ、と印象付けられました。
<対象>
CDC主催の、健康状態、ヘルスケアへのアクセスに関する、年次の横断研究である「国民健康面談調査」のデータを用いました。1地区あたり35000家族を選択し、1家族から1人の大人と、1人の子供について調査しました。回答率は、1980年から2014年の間で、78-97%でした。2015年末までに、18歳以上、67万7060人のサンプルが集積され、そのうち5万200人が糖尿病でした。
問診法によって糖尿病か否かを確認しました。死因の特定には、1999年までは、ICD-9、その後はICD-10 コードを使用し、4つのカテゴリーに分類しました。1:全死亡、2:全血管、3:全がん、4:全非がん非血管病です。15個の疾病については、個別に調査しました(心臓病、悪性疾患、慢性肺病、偶発事故、脳血管病、アルツハイマー病、糖尿病、インフルエンザ、肺炎、ネフローゼ、自傷行為、敗血症、慢性肝臓病、本態性高血圧、パーキンソン病、肺臓炎)。
<結果>
米国の糖尿病診断者は、1980年から2010年にかけて、620万人から2110万人に激増しました。糖尿病患者は、非糖尿病患者に比べて、年齢が高く、教育レベルが低く、肥満程度が高いことが分かりました(P<0.05)。
糖尿病患者は、非糖尿病患者に比べると、全死亡、血管病、がん、非がん非血管病による死亡は、すべての調査期間で高値を示しました。期間中のハザード比は、全死亡で2.1から1.6に分布し、時間経過とともに低下していました(p<0.001)。血管病も同じ傾向となりました(ハザード比は1.8から2.3、(p<0.001)。非がん非血管病も同じ傾向でした(ハザード比は1.7から2.4でした(p<0.001)。ただしがんは、期間通して一定のハザード比を示しました(1.3から1.4)。
1988年から1994年、2010年から2015年を比較すると、全死亡は、10年ごとに20%低下、血管病は、10年ごとに32%低下、がんによる死亡は、16%低下していました。
非がん非血管病による死亡率は、10年ごとに8%低下していましたが、有意差はありませんでした。糖尿病患者は、非糖尿病患者に比較して、死亡率の低下は、全死亡(P<0.001)、血管病(P=0.0214)、非がん非血管病(P<0.001)と有意な低下がありましたが、がんによる死亡には、有意差がありませんでした。
性別をみると、男性での全死亡率が、女性での全死亡率よりも改善の程度は大きいことがわかりました(10年あたりの改善率は12.4% vs 3.3%)。年齢層別の全死亡率のうち、65歳から74歳群が、最も改善率が良く、20-44歳では改善を認めませんでした(10年あたりの改善率は25.9% vs 9.2%)。死亡率改善のパターンは糖尿病患者でも非糖尿病患者でも同様でした。
こうしたトレンドに伴い、死亡の原因疾患の変化が、顕著に認められました。糖尿病患者の血管病に伴う死亡は、全死亡に占める割合が、1988年から1994年の47.8%から2010年から2015年の34.1%に低下しました。この比率の低下分は、非がん非血管病による死亡比率の増大によりオフセットされていました。非がん非血管病の比率は、33.5%から46.5%に増大していたのです。がんによる死亡率は、おおよそ同じレベルで推移していました(15.9% vs 19.9%)。非糖尿病患者の場合もほぼ同様の結果を認めましたが、がんによる死亡率が高い水準で推移していました(24.9%vs 26.8%)。
この調査であらかじめ選択してあった15個の疾患群のうち、8個の疾患(心臓病、悪性疾患、脳血管疾患、糖尿病、インフルエンザあるいは肺炎、ネフローゼ、敗血症、慢性肝臓病)については、糖尿病患者は、非糖尿病患者に比べて高いリスクを、経過期間を通して維持していました。1988年から2015年までを5分割して比較した場合、糖尿病患者は、非糖尿病患者に比べて、ハザード比で、腎炎あるいはネフローゼによる死亡が、2.9から5.2と高値、敗血症は、1.4から2.9と高値、慢性肝臓病は1.8から3.9、心臓病は1.9から2.4、脳血管障害は、1.6から1.9と高値を示しました。
年次経過に伴って死亡率が低下した疾患群は、「心臓病、悪性疾患、脳血管障害、糖尿病、インフルエンザ、肺炎」でした。一方、死亡率は、偶発事故が3倍に増加、また、慢性呼吸器疾患、パーキンソン病、本態性高血圧、腎臓病で増加していました。
<コメント>
「血管病による死亡」が、糖尿病患者の死因の半分を占めていた時代は終わり、いまや3分の1まで減少するところにいたりました。一方で、「非がん非血管病」が死因の半分を占めるようになりました。「血圧、喫煙、脂質異常」にならんで、「糖尿病」が冠動脈疾患のリスク因子の一角を占めるという意識が患者ならびに医療側の両方に高まり、治療に専念できる体制が整ったことが伺えます。本研究で浮き彫りとなった、非がん非血管病として「腎臓疾患・呼吸器疾患」のリスク管理は、重点課題です。特段、腎臓疾患を改善する手立ては、治療薬という観点から、現時点ではあまり期待できず、「減塩・体重コントロール・脱水の回避」を重点的に管理指導してゆかなければなりません。
また、死因として「偶発事故」が3倍も増えたことは見過ごせない項目です。インスリン強化療法などの治療法の採用頻度が上がり、低血糖発作に伴う転倒などのリスクが増えた可能性も考えられます。
若年者における死亡率の改善が認められなかったことは、大きな懸念事項です。肥満に伴って発症した2型糖尿病の若年者の増加が、その一因とされます。今後の肥満対策は、国家主導の下、管理すべき時代に入ったと言えるのではないでしょうか。
本研究の注意点として、糖尿病診断が自己申告であったこと、また、1型、2型糖尿病の区別が出来ていないこと、病名コードがICD-9からICD-10へと変わったこと、が、バイアスとなった可能性が挙げられます。加えて、面接後の糖尿病罹患の有無について精査されておらず、得られたデータはバイアス補正していなかったこともあり、これらを含め、将来的に解決を要する課題といえましょう。
今後、糖尿病診療を続けていく上で、第一に「心血管病の予防」、そして、これまで以上に「腎臓疾患・呼吸器疾患・がん・肝臓疾患」の発症予防に注意を払い、「転倒などの偶発事故のリスク」を警鐘し、適切な血糖コントロールの管理指導によって回避することの意義を教えられたように感じる、秀逸な論文でした。
ref.1
Emerging Risk Factors Collaboration. (2011). Diabetes mellitus, fasting glucose, and risk of cause-specific death. New England Journal of Medicine, 364(9), 829-841.
ref.2
Murphy SL •Kochanek KD •Xu J •Heron M
Deaths: final data for 2012.
Natl Vital Stat Rep. 2015; 63: 1-117
ref.3
Gregg, E. W., Cheng, Y. J., Srinivasan, M., Lin, J., Geiss, L. S., Albright, A. L., & Imperatore, G. (2018). Trends in cause-specific mortality among adults with and without diagnosed diabetes in the USA: an epidemiological analysis of linked national survey and vital statistics data. The Lancet, 391(10138), 2430-2440.
愛し野塾 第209回 糖質制限食を3年継続すると運動能力が落ちる
ダイエットとして隆盛している糖質制限食、その効用については、さまざまに議論されています。私は、この食事療法に対して反対の立場であり、「本当は怖い糖質制限」を上梓するとともに(文献1)、愛し野塾でも、最新論文を踏まえながら、糖質制限食は、死亡率を上げる懸念が強まっていること(184回 愛し野塾)、血中脂質にも悪影響があることを(188回愛し野塾)紹介してきました。今回、新たな視点として、「運動能力」に与える影響について、糖質制限食が危険である可能性が指摘されましたので、議論したいと思います。
これまで、糖質制限食などを含む食事療法による介入効果を評価するアウトプットとして、体重・糖尿病などの慢性疾患のコントロール、全死亡率・がん発症・心血管病発症に対する効果が、よく用いられてきました。「健康に資する食事療法」とは、死亡率改善・がん・心血管病発症予防・血糖値・血圧・脂質改善に、有意な効果があることが重要である、と考えられているからです。
一方で、特に既往症もなく健康なかたもまた「食事療法」にあらゆる期待を寄せています。予防医学的な理由や審美的な理由から、ダイエット効果を期待したり、また、運動パフォーマンスの効率的な向上や、トレーニング効果を最大限に引き上げるために、食事は大変重要な役割を果たしていることは、言うまでもありません。スポーツ栄養学に基づく研究では、「パフォーマンス」をアウトプットとして、もっとも効率的な食事の摂取方法が問われてきました。すでに短期間の糖質制限食摂取のパフォーマンスへの効果を検証した報告があるものの、その効果の有無については、未だ議論があるところです(文献2,3)。
今回、「中年期の健康なかた」を対象として、糖質制限食の良し悪しを、運動能力の観点から検討した論文が、発表されました(文献4)。糖質制限研究は、そのアドヒアランスの低さから、前向き研究に向かないことが知られ、研究の質としては高いとはいえない「後ろ向き研究」が採用されてきました。ご紹介する研究は、中年期の健康なかたが、糖質制限食を3年以上続け、運動能力に与える影響について世界で初めて検証され、高く評価された研究報告となりましたので、解説したいと思います。
<方法>
本研究は、後ろ向きの観察研究です。「糖質制限食を少なくとも3年施行した」と自己申告した40歳から60歳、BMI20−29.9、体重50−90kg、収縮期血圧は100−140mmHg、拡張期血圧は60−90 mmHgの条件を満たす、慢性疾患に罹患していない健康な男性15人を対象としました。除外条件は、薬物を使用、アルコールと喫煙、高血圧、運動負荷試験を最後まで遂行できなかったかたとしました。運動負荷試験によって、激しい運動をすると医学的に危険と判定された3人のかたが除外されました。全対象者は、中強度から高強度の運動を定期的に行なっていない、セダンタリーな生活を送るかたでした。最終的に、糖質制限期間は、最低3年、最長で6.5年、平均期間4.58年の12人の男性が選ばれました。また対照群として、年齢、体重、身長をマッチさせた12人の男性が選ばれました。
試験のデザイン:運動試験の会場に、朝8時から9時半の間に集合し、サイクロエルゴメーターを施行しました。最大運動量に達した後、3分後に、HR(心拍数)、VO2、VCO2、RER(呼吸商)を測定しました。採血検査は運動前後に施行されました。
<結果>
糖質制限食群、対照群、各12人でした。それぞれの平均年齢は順に、50.75歳と50.17歳、平均身長は、172cmと170cm、体重はいずれも70Kg、体脂肪はいずれも20%、BMIはいずれも24.0と、全指標で両群間に差はありませんでした。
エネルギー摂取量は、糖質制限食:2075kcal、対照群:1870Kcalで、糖質制限食で多い傾向にありましたが、統計的有意差を認めませんでした。全摂取カロリーに占める脂質摂取の割合は、対照群:36%に対し、糖質制限食:65%と有意に高く(P<0.001)、炭水化物摂取の全摂取カロリーに占める割合については、対照群:49%、糖質制限食:22.5%と、糖質制限食で有意な低下を示しました(P<0.001)。驚くべきことに、タンパク摂取には有意差がありませんでした(対照群が14%、糖質制限が12%)。糖質制限食群は、低減した糖質摂取量を脂質摂取で補填していることが判明し、これまで指摘されてきたタンパク摂取過多ではないことがわかりました。
血液データの解析から、安静時のβヒドロキシ酪酸は、対照群:0.10mmol/Lに対し、糖質制限食群:0.51 mmol/Lで有意に高値を示しました(P<0.001)。最大運動後も同じ傾向を示しました。糖質制限食群は、自己申告どおり糖質制限を遵守していることが証明されました。安静時の血中遊離脂肪酸(FFA)も、対照群(0.676mmol/L)に対して、糖質制限食群(0.764mmol/L)で有意に高く(P<0.05)、最大運動後、その差(0.675mmol/L vs 0.995mmol/L)は、増大しました(P<0.05)。安静時の血中LDLコレステロールは、対照群:136mg/dlに対して、糖質制限食群:172mg/dlで有意に高値を示しました。運動後の血中LDLコレステロールは、対照群:122mg/dlに対して、糖質制限食群で189mg/dlと有意に高い値でした(P<0.001)。これらの結果は、「糖質制限食の継続によって脂質プロファイルに異常を来たす」としたこれまでの報告と一致するものでした。血中尿酸レベルは対照群(5.34 mmol/l)、糖質制限食群(5.85 mmol/l)と差を認めず、またタンパク摂取量が両群で変わらないことも裏付けられました。血中乳酸は、糖質制限食群で有意な低下を認め(糖質制限食群1.43mmol/l、対照群1.79mmol/l)、筋肉と肝臓のグリコーゲン減少に相応した反応であることが示唆されました。
最大ワークロードは、対照群:175Wに対し、糖質制限食群:145Wで、有意に低い値を示しました。同様に、総ワーク量は、対照群:112.2KJに対し、糖質制限食で:78.3KJと有意に低い値を示しました。糖質制限食を守った結果、運動能力が低下する可能性が示唆されました。運動負荷前後の心拍数は、対照群で72→161、糖質制限食群で85→161で、安静時心拍数は、糖質制限食群で有意に高く(P<0.005)、一方で、最大心拍数は同値でした。運動負荷前後の酸素摂取量(VO)
は、対照群:357(安静時)→2547ml/min(最大負荷時)に対し、糖質制限食群:399(安静時)→2429 ml/min(最大負荷時)で、VO2MAXは、糖質制限食群で有意な低下を認めました(P<0.001)。
呼吸商(RER)は、対照群で0.82→1.16に対し、糖質制限食群で0.75→1.01で、最大負荷時の呼吸商は、糖質制限食群で有意な低下を認めました。
<コメント>
糖質制限食を3年続けた平均年齢50歳男性では、運動能力の有意な低下を認め、その原因として肝臓と筋肉のグリコーゲンの減少が示唆されました。肝臓並びに筋肉のグリコーゲンの減少によって、グリコーゲン分解(glycogenolysis)の抑制と、脂質酸化の促進が生じて、糖質がATP産生に利用されにくくなることが考察されています。
今回解説した研究は、後ろ向き研究、かつ対象者数男性のみ12人ときわめて少ない印象です。今後、前向きの研究を検討し、男女を対象に、また対象者数を増やし、より厳密な研究に発展することを期待するところです。そのための、アドヒアランスを高める工夫も必要でしょう。
糖質制限食を3年遵守することは、並大抵ではありません。1年以上の前向きの研究を行った場合、糖質制限食を遵守できるのは半分程度とされ、研究のバイアスとなります。このため、今回のような糖質制限食を遵守したひとのみを対象にした後ろ向き研究には意味があると考えます。実際この研究に参加した糖質制限食群では、満足度が高いこと、気分の改善がみられたこと、この食事療法を達成する熱意があることが記されています。高いモチベーションを有した男性が、3年も続けた糖質制限食が、結果的に運動能力を悪化させた可能性が示唆されたことは、研究バイアスを払拭した条件であるようにも思われます。残念なのは、糖質制限開始時の運動能力、血中脂質についてのデータが十分とはいえず、データが出揃った論文の発表が待たれます。
文献1 本当は怖い「糖質制限」(祥伝社新書319) 岡本 卓 (2013/6/3)
文献2 Burke, L. M., Ross, M. L., Garvican‐Lewis, L. A., Welvaert, M., Heikura, I. A., Forbes, S. G., ... & Hawley, J. A. (2017). Low carbohydrate, high fat diet impairs exercise economy and negates the performance benefit from intensified training in elite race walkers. The Journal of physiology, 595(9), 2785-2807.
文献3
Havemann, L., West, S. J., Goedecke, J. H., Macdonald, I. A., Gibson, A. S. C., Noakes, T. D., & Lambert, E. V. (2006). Fat adaptation followed by carbohydrate-loading compromises high-intensity sprint performance. Journal of Applied Physiology.
文献4
Pilis, K., Pilis, A., Stec, K., Pilis, W., Langfort, J., Letkiewicz, S., ... & Chalimoniuk, M. (2018). Three-Year Chronic Consumption of Low-Carbohydrate Diet Impairs Exercise Performance and Has a Small Unfavorable Effect on Lipid Profile in Middle-Aged Men. Nutrients, 10(12), 1914.
これまで、糖質制限食などを含む食事療法による介入効果を評価するアウトプットとして、体重・糖尿病などの慢性疾患のコントロール、全死亡率・がん発症・心血管病発症に対する効果が、よく用いられてきました。「健康に資する食事療法」とは、死亡率改善・がん・心血管病発症予防・血糖値・血圧・脂質改善に、有意な効果があることが重要である、と考えられているからです。
一方で、特に既往症もなく健康なかたもまた「食事療法」にあらゆる期待を寄せています。予防医学的な理由や審美的な理由から、ダイエット効果を期待したり、また、運動パフォーマンスの効率的な向上や、トレーニング効果を最大限に引き上げるために、食事は大変重要な役割を果たしていることは、言うまでもありません。スポーツ栄養学に基づく研究では、「パフォーマンス」をアウトプットとして、もっとも効率的な食事の摂取方法が問われてきました。すでに短期間の糖質制限食摂取のパフォーマンスへの効果を検証した報告があるものの、その効果の有無については、未だ議論があるところです(文献2,3)。
今回、「中年期の健康なかた」を対象として、糖質制限食の良し悪しを、運動能力の観点から検討した論文が、発表されました(文献4)。糖質制限研究は、そのアドヒアランスの低さから、前向き研究に向かないことが知られ、研究の質としては高いとはいえない「後ろ向き研究」が採用されてきました。ご紹介する研究は、中年期の健康なかたが、糖質制限食を3年以上続け、運動能力に与える影響について世界で初めて検証され、高く評価された研究報告となりましたので、解説したいと思います。
<方法>
本研究は、後ろ向きの観察研究です。「糖質制限食を少なくとも3年施行した」と自己申告した40歳から60歳、BMI20−29.9、体重50−90kg、収縮期血圧は100−140mmHg、拡張期血圧は60−90 mmHgの条件を満たす、慢性疾患に罹患していない健康な男性15人を対象としました。除外条件は、薬物を使用、アルコールと喫煙、高血圧、運動負荷試験を最後まで遂行できなかったかたとしました。運動負荷試験によって、激しい運動をすると医学的に危険と判定された3人のかたが除外されました。全対象者は、中強度から高強度の運動を定期的に行なっていない、セダンタリーな生活を送るかたでした。最終的に、糖質制限期間は、最低3年、最長で6.5年、平均期間4.58年の12人の男性が選ばれました。また対照群として、年齢、体重、身長をマッチさせた12人の男性が選ばれました。
試験のデザイン:運動試験の会場に、朝8時から9時半の間に集合し、サイクロエルゴメーターを施行しました。最大運動量に達した後、3分後に、HR(心拍数)、VO2、VCO2、RER(呼吸商)を測定しました。採血検査は運動前後に施行されました。
<結果>
糖質制限食群、対照群、各12人でした。それぞれの平均年齢は順に、50.75歳と50.17歳、平均身長は、172cmと170cm、体重はいずれも70Kg、体脂肪はいずれも20%、BMIはいずれも24.0と、全指標で両群間に差はありませんでした。
エネルギー摂取量は、糖質制限食:2075kcal、対照群:1870Kcalで、糖質制限食で多い傾向にありましたが、統計的有意差を認めませんでした。全摂取カロリーに占める脂質摂取の割合は、対照群:36%に対し、糖質制限食:65%と有意に高く(P<0.001)、炭水化物摂取の全摂取カロリーに占める割合については、対照群:49%、糖質制限食:22.5%と、糖質制限食で有意な低下を示しました(P<0.001)。驚くべきことに、タンパク摂取には有意差がありませんでした(対照群が14%、糖質制限が12%)。糖質制限食群は、低減した糖質摂取量を脂質摂取で補填していることが判明し、これまで指摘されてきたタンパク摂取過多ではないことがわかりました。
血液データの解析から、安静時のβヒドロキシ酪酸は、対照群:0.10mmol/Lに対し、糖質制限食群:0.51 mmol/Lで有意に高値を示しました(P<0.001)。最大運動後も同じ傾向を示しました。糖質制限食群は、自己申告どおり糖質制限を遵守していることが証明されました。安静時の血中遊離脂肪酸(FFA)も、対照群(0.676mmol/L)に対して、糖質制限食群(0.764mmol/L)で有意に高く(P<0.05)、最大運動後、その差(0.675mmol/L vs 0.995mmol/L)は、増大しました(P<0.05)。安静時の血中LDLコレステロールは、対照群:136mg/dlに対して、糖質制限食群:172mg/dlで有意に高値を示しました。運動後の血中LDLコレステロールは、対照群:122mg/dlに対して、糖質制限食群で189mg/dlと有意に高い値でした(P<0.001)。これらの結果は、「糖質制限食の継続によって脂質プロファイルに異常を来たす」としたこれまでの報告と一致するものでした。血中尿酸レベルは対照群(5.34 mmol/l)、糖質制限食群(5.85 mmol/l)と差を認めず、またタンパク摂取量が両群で変わらないことも裏付けられました。血中乳酸は、糖質制限食群で有意な低下を認め(糖質制限食群1.43mmol/l、対照群1.79mmol/l)、筋肉と肝臓のグリコーゲン減少に相応した反応であることが示唆されました。
最大ワークロードは、対照群:175Wに対し、糖質制限食群:145Wで、有意に低い値を示しました。同様に、総ワーク量は、対照群:112.2KJに対し、糖質制限食で:78.3KJと有意に低い値を示しました。糖質制限食を守った結果、運動能力が低下する可能性が示唆されました。運動負荷前後の心拍数は、対照群で72→161、糖質制限食群で85→161で、安静時心拍数は、糖質制限食群で有意に高く(P<0.005)、一方で、最大心拍数は同値でした。運動負荷前後の酸素摂取量(VO)
は、対照群:357(安静時)→2547ml/min(最大負荷時)に対し、糖質制限食群:399(安静時)→2429 ml/min(最大負荷時)で、VO2MAXは、糖質制限食群で有意な低下を認めました(P<0.001)。
呼吸商(RER)は、対照群で0.82→1.16に対し、糖質制限食群で0.75→1.01で、最大負荷時の呼吸商は、糖質制限食群で有意な低下を認めました。
<コメント>
糖質制限食を3年続けた平均年齢50歳男性では、運動能力の有意な低下を認め、その原因として肝臓と筋肉のグリコーゲンの減少が示唆されました。肝臓並びに筋肉のグリコーゲンの減少によって、グリコーゲン分解(glycogenolysis)の抑制と、脂質酸化の促進が生じて、糖質がATP産生に利用されにくくなることが考察されています。
今回解説した研究は、後ろ向き研究、かつ対象者数男性のみ12人ときわめて少ない印象です。今後、前向きの研究を検討し、男女を対象に、また対象者数を増やし、より厳密な研究に発展することを期待するところです。そのための、アドヒアランスを高める工夫も必要でしょう。
糖質制限食を3年遵守することは、並大抵ではありません。1年以上の前向きの研究を行った場合、糖質制限食を遵守できるのは半分程度とされ、研究のバイアスとなります。このため、今回のような糖質制限食を遵守したひとのみを対象にした後ろ向き研究には意味があると考えます。実際この研究に参加した糖質制限食群では、満足度が高いこと、気分の改善がみられたこと、この食事療法を達成する熱意があることが記されています。高いモチベーションを有した男性が、3年も続けた糖質制限食が、結果的に運動能力を悪化させた可能性が示唆されたことは、研究バイアスを払拭した条件であるようにも思われます。残念なのは、糖質制限開始時の運動能力、血中脂質についてのデータが十分とはいえず、データが出揃った論文の発表が待たれます。
文献1 本当は怖い「糖質制限」(祥伝社新書319) 岡本 卓 (2013/6/3)
文献2 Burke, L. M., Ross, M. L., Garvican‐Lewis, L. A., Welvaert, M., Heikura, I. A., Forbes, S. G., ... & Hawley, J. A. (2017). Low carbohydrate, high fat diet impairs exercise economy and negates the performance benefit from intensified training in elite race walkers. The Journal of physiology, 595(9), 2785-2807.
文献3
Havemann, L., West, S. J., Goedecke, J. H., Macdonald, I. A., Gibson, A. S. C., Noakes, T. D., & Lambert, E. V. (2006). Fat adaptation followed by carbohydrate-loading compromises high-intensity sprint performance. Journal of Applied Physiology.
文献4
Pilis, K., Pilis, A., Stec, K., Pilis, W., Langfort, J., Letkiewicz, S., ... & Chalimoniuk, M. (2018). Three-Year Chronic Consumption of Low-Carbohydrate Diet Impairs Exercise Performance and Has a Small Unfavorable Effect on Lipid Profile in Middle-Aged Men. Nutrients, 10(12), 1914.
愛し野塾 第208回 乳がん術後の痛みと「こころ」
乳がんは、日本人女性のがん罹患率の第1位、また、その死亡率は、第5位であることが報告されています(文献1)。一方で、乳がん摘出後の10年生存率は、83%にまで達しました。いまや、医療技術の進歩によって、早期発見率の上昇、また外科術による治療効果が期待され、発症しても寿命を全うできる高い可能性を持つがんである、という認識が広がっています。
一方で、術後、患者さんの25-60%が、3-6ヶ月以上に渡る、術創、およびその近傍に広がる痛みに悩んでいることは、あまり知られていないかもしれません。術後継続する想定外の痛みを抱え、日常生活が思うように過ごせない、体がいうことを利かない、出来ていた事が出来ない、といった悩みを抱えるかたが、かなりいらっしゃるのです。乳がんは、乳房以外の手術後に比較して、慢性疼痛の生じる頻度が高いことを踏まえ、「乳がん患者に特異的なリスク因子が、乳がんの術後疼痛に関与する」と仮説を立て、これを検証するために、2016年調査が行われました(文献2)。
さて、この調査は、1万9813人を対象とした大規模なメタ解析で、信頼性も高く、77個の候補因子の中から、5つの重要因子抽出に成功しました。すなわち、1)年齢が若い、2)放射線療法の併用、3)腋下リンパ節切除をしている、4)術後急性期に強い痛みを認める、5)術前にも痛みを認める、でした。これら5因子のひとつである「腋下リンパ節切除」は、慢性疼痛に寄与する最大の因子で、特異的に乳がん外科術に認めることが、注目されています。
通常、鎮痛に有効な麻薬性鎮痛薬やその関連合成鎮痛薬などのアルカロイドおよびモルヒネ様活性を有する内因性または合成ペプチド類のオピオイドは、乳がんの痛みに対しては、顕著な鎮痛効果があるとはいえず、それどころか、重篤な有害事象も散見され、オピオイドは使いづらいことが知られています。加えて、「乳がん術後に生じる慢性疼痛が、不安障害やうつ病などの精神的苦痛をもたらす」ことも昨今の調査によって浮き彫りになってきました。一般的には、慢性疼痛に続く、精神的苦痛をもたらす介在因子には、「痛みの破局化」があることは良く知られています。「破局化」とは、「痛みを必要以上に大きく見積もり、自分なりに評価してしまうこと。痛みによって茫然自失し、無気力になってしまうこと。痛みを何度も反芻してしまうこと。」と定義されています。また、痛みの破局化は、痛みの慢性化を引き起こす因子であることも知られています。世界では、毎年3億人のかたが乳がん外科術を受けられています。慢性疼痛をいかに緩和するか、具体的な対策の確立が早急に求められているのです。
2019年2月12日、乳がん術後に疼痛持続を訴える患者を対象に、痛みの破局化、がん再発への恐れの感情、精神的苦痛との関係性、について検討され(文献3)、「痛みの理解」のために、多くのヒントが得られました。ここで解説を試みようと思います。
<対象>
転移を認めない乳がん患者のうち、乳房温存術の施行後、術後経過観察目的に最初にマンモグラフィー検査を受けた女性を対象としました(サバイバーグループと呼称)。対照群には、乳がん、あるいはそのほかのがんを認めず、スクリーニング目的にマンモグラフィー検査を受けた女性を選び、非がんグループとしました。「サーバイバーグループ」は、417人で、平均年齢は、59.4歳でした。88.7%が白人、50.4%が大学卒業の学歴、69.3%が結婚しているあるいはパートナーがいる、82.7%が閉経後でした。「非がんグループ」は、平均年齢が57、4歳、白人が78.7%、大学卒業が58.9%、結婚あるいはパートナーがいるかたが63.9%、閉経後が72.7%でした。非がんグループに対して、サーバイバーグループは、有意に年齢が高く(p<0.05)、有意差は認めないものの、BMIが高い、黒人の比率が少ない、教育レベルが低い、閉経後の女性が多い、といった傾向を認めました。そのため、統計的手法によって有意差検定をする際、人種、年齢、BMI、教育、閉経をバイアスとして、補正に用いました。また、乳房と無関係な部位の痛みについても、バイアスとして考慮し、補正に用いました。構造方程式モデルでは、「慢性乳房痛、破局化、痛みががんを示す心配、乳がんリスクの認知、精神的苦痛」の5つの因子についてSobelテストを用いて、間接的な関係について検討を加え、RMSEA、CFIを用いて結果の妥当性が検証されました。
<方法>
診断、及び治療経過の情報取得は、電子カルテから、それ以外は、質問票記入法で自己申告で情報を得ました。乳房の痛み、痛みの位置、痛みの破局化、マンモグラフィー検査施行中の乳房圧迫にともなう痛み(痛みの破局化スケール)、マンモグラフィー検査に伴う精神的苦痛(スタンフォード急性ストレス反応質問票)、乳がんのリスク因子の認知、乳がん発症に対する心配、不安、そして、鬱的、不安症状(病院不安うつ病スケール)について評価しました。
<結果>
慢性乳房痛は、サバイバーグループで、非がんグループに比較して、有意に多くの方に発生していました(50.6%対17.5%、p<0.001)。痛みの程度を考慮したサブ解析から、サバイバーグループでは、非がんグループに比べて、「高いレベルの痛み」が高率に発生していることがわかりました(21.8%対4.8%、P<0.001)
サバイバーグループ内では、慢性乳房痛を認めるかたの方が、「不安、うつ症状、マンモグラフィー時の精神的苦痛、破局化、痛みががんを示す心配」が、慢性乳房痛を認めないかたに比較して、有意に高い割合で認められました。また、驚くべきことに非がんグループでも同じ傾向が観察されました。
<構造方程式モデル>
慢性乳房痛の存在と、破局化(P=0.03)及び、痛みががんを示す心配(P<0.001)との間に、直接的な関連性があることが示されました。また、慢性乳房痛は、精神的苦痛を直接惹起するものではなく、仲介する因子の存在、すなわち、破局化(P=0.008)及び、痛みががんを示す心配(P<0.001)が、見出されました。
これらのことから、「慢性乳房痛」が、「破局化」ならびに「痛みががんを示す心配」をそれぞれ独立因子として、引き起こすこと。その結果として、精神的苦痛をきたすこと、が示唆されました。この精神的苦痛は、うつ病、不安障害を引き起こす可能性が示されました。また、この結果は、サバイバーグループでも非がんグループでも認められました。
<コメント>
乳がん術後に慢性疼痛を訴える患者さんには、鎮痛を促す処方、また丁寧に話を聞く姿勢がこれまで同様求められます。また、外科術を受けている、受けていないに関わらず、慢性乳房痛を診る際には、不安障害、うつ症状の出現を、事前に予測すること、そして、そこに介在する因子として、「破局化」、並びに「痛みががんをしめす心配があること」に十分注意を払うこと、が明確に示されました。破局化、がんを示す心配については、これまでの調査報告から、認知行動療法、マインドフルネス、アクト療法の有効性が示されています。今後、慢性乳房疼痛がある患者さんに積極的に適用されるべきでしょう。また、今回の研究は横断研究であり、今後は、縦断研究、無作為対照試験の手法を用いた、さらに厳密な検討を要するでしょう。医療者だけでなく家庭や職場でも、慢性乳房疼痛に悩む方への理解を深め、また寄り添って差し上げられるよう、痛みのコントロール、こころの管理について、私たちは、丁寧に、学びを深めてゆかなければなりません。
文献1
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
文献2
Wang, L., Guyatt, G. H., Kennedy, S. A., Romerosa, B., Kwon, H. Y., Kaushal, A., ... & Parascandalo, S. R. (2016). Predictors of persistent pain after breast cancer surgery: a systematic review and meta-analysis of observational studies. Cmaj, 188(14), E352-E361.
文献3
Bovbjerg, D. H., Keefe, F. J., Soo, M. S., Manculich, J., Van Denburg, A., Zuley, M. L., ... & Shelby, R. A. (2019). Persistent breast pain in post-surgery breast cancer survivors and women with no history of breast surgery or cancer: associations with pain catastrophizing, perceived breast cancer risk, breast cancer worry, and emotional distress. Acta Oncologica, 1-6.
愛し野塾 第207回 中年期の不安障害と将来の認知症
2019.2.24
わが国の認知症患者は、その数が300万人を超え、超高齢化社会を迎え、制御不能なレベルに迫っています。認知症が進むと、人間の尊厳が損なわれ、排泄、入浴、移動、食事、さらにはコミュニケーションなどの基本的な生活動作に支障をきたし、介護者による介入が必要なります。この超高齢化社会を予想し、試行錯誤を繰り返してきた認知症の根本治療の開発は、全世界の研究者が知恵を絞った、汗と涙の結晶とされるアミロイド β除去をターゲットにした治療開発が頓挫してしまい、根本治療開発は暗中模索状態となってしまっています。現実的には、病気のリスク因子を同定し、それを回避するための手段をとることを最善とするようになったのも、自然な流れといえましょう。現在までに、糖尿病、高血圧などの心血管病リスク因子が、認知症のリスク因子と重複することが判明し、生活習慣病の是正に力点がおかれています。
翻って、65歳以上のかたの占める人口が全国民の27.7%と、4人に1人を超え、認知症予防の有効策として、中年期での介入が模索されています。特に、2006年のメタ解析研究で、うつ病は、認知症のリスク因子となりうること、認知症発症率を2倍に上昇させる、という報告(文献1)は、大きな反響と議論を呼びました。2017年に発表された、「中年期のうつ病は認知症のリスク因子ではなく、前駆症状にすぎない」、あるいは、「うつ病と認知症は、それぞれ同一の原因から、発症するものである」との2方向の考え方が示され(文献2)、現在、論争が続いています。いずれにせよ、医療側は、中年期のうつ病の患者を診るときには、認知症発症の懸念にも留意し、うつ病治療を進めてゆくべきでしょう。
うつ病の約4割以上に併発するともいわれる「不安障害」は、認知症との関連では、あまり研究が進んでいませんでした。仮に中年期の不安障害が、認知症のリスク因子になっているのであれば、認知症予防の観点から新しい治療法の探索が必須でしょう。今回、この仮説のもと、メタ解析研究が施行され、良好な結果が得られ、BMJに発表になりました(文献3
)。
<方法>
軽度認知障害(以下、MCI)から認知症に進行する平均期間が5年であること、認知症の前駆症状は認知症発症の5年前から認められることから、「不安障害が、認知症の前駆症状ではなく、リスク因子となっているかどうか」を厳格に検討するため、少なくとも認知症発症の10年前から存在が確認された不安障害についてMedline, PsycINFO,Embaseをシステマティックにサーチしました。また、PSTDと強迫性障害の診断のあるかたは、対象から除外しました。DSMIII-IVあるいはICD−10を基準に認知症の診断を行い、65歳以上発症の遅発性の認知症を対象にしました。
<結果>
3509本の研究論文を精査し、結果として、4本の研究(試験1、試験2、試験3、試験4)(文献4,5,6,7)をメタ解析の対象としました。不安障害の診断は、2本がICD-10,1本(試験2)がSTAI(State Trait Anxiety Inventory, 特性不安尺度)、1本(試験3)がSTPI(State Trait Personality Inventory, 特性人格尺度)に基づくものでした。
認知症の診断は、DMSIII―IV基づくものが2本(試験2、3)、ICD−10に基づくものが1本でした(試験4)。レビー小体を用いた診断基準を用いたものが残りの1本(試験1)でした。
不安障害を発症してから認知症発症と診断されるまでの観察期間は、少なくとも17.3年で、最大は、1生涯にわたるものでした。平均年齢は、56.1歳から78.7歳でした。教育歴は、3本で記載されており、教育歴9年以上が対象者の95%を占めました。対象人数は、試験1が23人(試験全体の人数は441人)、試験2が585人(試験全体の人数は1160人)、試験3が403人(試験全体の人数は1082人)、試験4が379人(試験全体の人数は27136人)でした。試験登録時にうつ病によるバイアス補正をしました。各試験の女性の比率は、0%から56.6%、前向き研究が2本(試験2,3)、後ろ向き研究が2本(試験1,4)でした。試験2、3は試験開始時に認知症の患者を除外していましたが、試験1、4は認知症患者の除外はなされていませんでした。ただし、試験1は、カルテを参照し、生涯記録を精査しており、試験4では、最終の平均年齢が78.7歳で、平均の振り返り期間が20年だったため、試験登録時に認知症患者が混入していたとするバイアスはほぼなかったのではないかと考えられました。
<不安障害と認知症発症との関係>
中年期に不安障害のある方の認知症発症のオッズ比は、試験1が7.4倍、試験2が1.62倍、試験3が1.48倍、試験4が1.61倍と、いずれも有意な上昇を認めました。試験1では、生涯にわたる不安障害を精査しており、オッズ比が上昇したと考えられています。試験3では、試験登録から5年以内の認知症発症者を除外した対象者でも、不安障害と認知症発症に相関を認めました。平均観察期間は14.7年と長期でした。いずれの結果も、「不安障害は、認知症の前駆症状ではなく、リスク因子である可能性を示している」と判断されました。
<研究の質の評価>
研究の質を、ニューキャッスルーオタワ法で評価した結果、1本が「8」、残り3本が「7」で、いずれも高評価の判定でした。全ての研究がうつ症状に関与する項目(地理的条件、血管病や精神疾患のリスク因子など)によるバイアスが補正されたため質の高い研究として評価されました。試験1では、不安障害単独のほうが、うつ病や、うつ病と不安障害並存よりも、認知症発症リスクを高めるという結果が得られました。試験2-4は、不安障害とうつ病の認知症発症に対するリスク比較はしていませんでした。
<コメント>
メタ解析の結果、「中年期の不安障害が認知症のリスクになる」ことが明確に示されました。「不安障害は、認知症の前段階であるMCI発症のリスク因子である」という報告と同様の結果となりました。「不安障害を、認知症の前駆症状ではなく、リスク因子として捉える」のは問題ないように感じます。
また、生涯にわたる不安障害と認知症発症を分析した結果、有意なオッズ比の上昇を認めたことから、中年期のみならず、青年期からの不安障害も、認知症発症の観点から注意を要するかもしれません。さらに、本研究から、「不安障害」は、うつ病よりも強い認知症リスク因子である可能性が示されたことも注目するべきでしょう。「うつ病が認知症のリスク因子か、前駆症状か」という論議は、不安障害とうつ病の並存性の高さから判断すると、「うつ病も認知症のリスク因子となっている可能性が高い」と論文では述べられている点は、共感できるものがあります。
それでは、現実的に、中年期の不安障害に対して、どのような対策をとればいいのでしょうか。ベンゾジアゼピン系薬剤が主たる治療薬ですが、統合失調症では死亡率をあげる可能性も示唆されていること、また薬物依存性が懸念され、薬物療法は避けたいところです。これについて、論文著者は認知行動療法、マインドフルネスを推奨しています。私としては、ラフターヨガに注目しています。今後、さらに、不安障害、うつ病に有効な、切れ味の良い、何より、患者さんに受け入れられやすい、精神療法の開発を期待するところです。
Ref 1.
Ownby, R. L., Crocco, E., Acevedo, A., John, V., & Loewenstein, D. (2006). Depression and risk for Alzheimer disease: systematic review, meta-analysis, and metaregression analysis. Archives of general psychiatry, 63(5), 530-538.
Ref 2.
Singh-Manoux, A., Dugravot, A., Fournier, A., Abell, J., Ebmeier, K., Kivimäki, M., & Sabia, S. (2017). Trajectories of depressive symptoms before diagnosis of dementia: a 28-year follow-up study. JAMA psychiatry, 74(7), 712-718.
Ref.3
Gimson, A., Schlosser, M., Huntley, J. D., & Marchant, N. L. (2018). Support for midlife anxiety diagnosis as an independent risk factor for dementia: a systematic review. BMJ open, 8(4), e019399.
Ref4
Boot, B. P., Orr, C. F., Ahlskog, J. E., Ferman, T. J., Roberts, R., Pankratz, V. S., ... & Knopman, D. S. (2013). Risk factors for dementia with Lewy bodies: a case-control study. Neurology, 81(9), 833-840.
Ref.5
Gallacher, J., Bayer, A., Fish, M., Pickering, J., Pedro, S., Dunstan, F., ... & Ben-Shlomo, Y. (2009). Does anxiety affect risk of dementia? Findings from the Caerphilly Prospective Study. Psychosomatic Medicine, 71(6), 659-666.
Ref.6
Petkus, A. J., Reynolds, C. A., Wetherell, J. L., Kremen, W. S., Pedersen, N. L., & Gatz, M. (2016). Anxiety is associated with increased risk of dementia in older Swedish twins. Alzheimer's & Dementia, 12(4), 399-406.
Ref.7
R Zilkens, R., G Bruce, D., Duke, J., Spilsbury, K., & B Semmens, J. (2014). Severe psychiatric disorders in mid-life and risk of dementia in late-life (age 65-84 years): a population based case-control study. Current Alzheimer Research, 11(7), 681-693.
翻って、65歳以上のかたの占める人口が全国民の27.7%と、4人に1人を超え、認知症予防の有効策として、中年期での介入が模索されています。特に、2006年のメタ解析研究で、うつ病は、認知症のリスク因子となりうること、認知症発症率を2倍に上昇させる、という報告(文献1)は、大きな反響と議論を呼びました。2017年に発表された、「中年期のうつ病は認知症のリスク因子ではなく、前駆症状にすぎない」、あるいは、「うつ病と認知症は、それぞれ同一の原因から、発症するものである」との2方向の考え方が示され(文献2)、現在、論争が続いています。いずれにせよ、医療側は、中年期のうつ病の患者を診るときには、認知症発症の懸念にも留意し、うつ病治療を進めてゆくべきでしょう。
うつ病の約4割以上に併発するともいわれる「不安障害」は、認知症との関連では、あまり研究が進んでいませんでした。仮に中年期の不安障害が、認知症のリスク因子になっているのであれば、認知症予防の観点から新しい治療法の探索が必須でしょう。今回、この仮説のもと、メタ解析研究が施行され、良好な結果が得られ、BMJに発表になりました(文献3
)。
<方法>
軽度認知障害(以下、MCI)から認知症に進行する平均期間が5年であること、認知症の前駆症状は認知症発症の5年前から認められることから、「不安障害が、認知症の前駆症状ではなく、リスク因子となっているかどうか」を厳格に検討するため、少なくとも認知症発症の10年前から存在が確認された不安障害についてMedline, PsycINFO,Embaseをシステマティックにサーチしました。また、PSTDと強迫性障害の診断のあるかたは、対象から除外しました。DSMIII-IVあるいはICD−10を基準に認知症の診断を行い、65歳以上発症の遅発性の認知症を対象にしました。
<結果>
3509本の研究論文を精査し、結果として、4本の研究(試験1、試験2、試験3、試験4)(文献4,5,6,7)をメタ解析の対象としました。不安障害の診断は、2本がICD-10,1本(試験2)がSTAI(State Trait Anxiety Inventory, 特性不安尺度)、1本(試験3)がSTPI(State Trait Personality Inventory, 特性人格尺度)に基づくものでした。
認知症の診断は、DMSIII―IV基づくものが2本(試験2、3)、ICD−10に基づくものが1本でした(試験4)。レビー小体を用いた診断基準を用いたものが残りの1本(試験1)でした。
不安障害を発症してから認知症発症と診断されるまでの観察期間は、少なくとも17.3年で、最大は、1生涯にわたるものでした。平均年齢は、56.1歳から78.7歳でした。教育歴は、3本で記載されており、教育歴9年以上が対象者の95%を占めました。対象人数は、試験1が23人(試験全体の人数は441人)、試験2が585人(試験全体の人数は1160人)、試験3が403人(試験全体の人数は1082人)、試験4が379人(試験全体の人数は27136人)でした。試験登録時にうつ病によるバイアス補正をしました。各試験の女性の比率は、0%から56.6%、前向き研究が2本(試験2,3)、後ろ向き研究が2本(試験1,4)でした。試験2、3は試験開始時に認知症の患者を除外していましたが、試験1、4は認知症患者の除外はなされていませんでした。ただし、試験1は、カルテを参照し、生涯記録を精査しており、試験4では、最終の平均年齢が78.7歳で、平均の振り返り期間が20年だったため、試験登録時に認知症患者が混入していたとするバイアスはほぼなかったのではないかと考えられました。
<不安障害と認知症発症との関係>
中年期に不安障害のある方の認知症発症のオッズ比は、試験1が7.4倍、試験2が1.62倍、試験3が1.48倍、試験4が1.61倍と、いずれも有意な上昇を認めました。試験1では、生涯にわたる不安障害を精査しており、オッズ比が上昇したと考えられています。試験3では、試験登録から5年以内の認知症発症者を除外した対象者でも、不安障害と認知症発症に相関を認めました。平均観察期間は14.7年と長期でした。いずれの結果も、「不安障害は、認知症の前駆症状ではなく、リスク因子である可能性を示している」と判断されました。
<研究の質の評価>
研究の質を、ニューキャッスルーオタワ法で評価した結果、1本が「8」、残り3本が「7」で、いずれも高評価の判定でした。全ての研究がうつ症状に関与する項目(地理的条件、血管病や精神疾患のリスク因子など)によるバイアスが補正されたため質の高い研究として評価されました。試験1では、不安障害単独のほうが、うつ病や、うつ病と不安障害並存よりも、認知症発症リスクを高めるという結果が得られました。試験2-4は、不安障害とうつ病の認知症発症に対するリスク比較はしていませんでした。
<コメント>
メタ解析の結果、「中年期の不安障害が認知症のリスクになる」ことが明確に示されました。「不安障害は、認知症の前段階であるMCI発症のリスク因子である」という報告と同様の結果となりました。「不安障害を、認知症の前駆症状ではなく、リスク因子として捉える」のは問題ないように感じます。
また、生涯にわたる不安障害と認知症発症を分析した結果、有意なオッズ比の上昇を認めたことから、中年期のみならず、青年期からの不安障害も、認知症発症の観点から注意を要するかもしれません。さらに、本研究から、「不安障害」は、うつ病よりも強い認知症リスク因子である可能性が示されたことも注目するべきでしょう。「うつ病が認知症のリスク因子か、前駆症状か」という論議は、不安障害とうつ病の並存性の高さから判断すると、「うつ病も認知症のリスク因子となっている可能性が高い」と論文では述べられている点は、共感できるものがあります。
それでは、現実的に、中年期の不安障害に対して、どのような対策をとればいいのでしょうか。ベンゾジアゼピン系薬剤が主たる治療薬ですが、統合失調症では死亡率をあげる可能性も示唆されていること、また薬物依存性が懸念され、薬物療法は避けたいところです。これについて、論文著者は認知行動療法、マインドフルネスを推奨しています。私としては、ラフターヨガに注目しています。今後、さらに、不安障害、うつ病に有効な、切れ味の良い、何より、患者さんに受け入れられやすい、精神療法の開発を期待するところです。
Ref 1.
Ownby, R. L., Crocco, E., Acevedo, A., John, V., & Loewenstein, D. (2006). Depression and risk for Alzheimer disease: systematic review, meta-analysis, and metaregression analysis. Archives of general psychiatry, 63(5), 530-538.
Ref 2.
Singh-Manoux, A., Dugravot, A., Fournier, A., Abell, J., Ebmeier, K., Kivimäki, M., & Sabia, S. (2017). Trajectories of depressive symptoms before diagnosis of dementia: a 28-year follow-up study. JAMA psychiatry, 74(7), 712-718.
Ref.3
Gimson, A., Schlosser, M., Huntley, J. D., & Marchant, N. L. (2018). Support for midlife anxiety diagnosis as an independent risk factor for dementia: a systematic review. BMJ open, 8(4), e019399.
Ref4
Boot, B. P., Orr, C. F., Ahlskog, J. E., Ferman, T. J., Roberts, R., Pankratz, V. S., ... & Knopman, D. S. (2013). Risk factors for dementia with Lewy bodies: a case-control study. Neurology, 81(9), 833-840.
Ref.5
Gallacher, J., Bayer, A., Fish, M., Pickering, J., Pedro, S., Dunstan, F., ... & Ben-Shlomo, Y. (2009). Does anxiety affect risk of dementia? Findings from the Caerphilly Prospective Study. Psychosomatic Medicine, 71(6), 659-666.
Ref.6
Petkus, A. J., Reynolds, C. A., Wetherell, J. L., Kremen, W. S., Pedersen, N. L., & Gatz, M. (2016). Anxiety is associated with increased risk of dementia in older Swedish twins. Alzheimer's & Dementia, 12(4), 399-406.
Ref.7
R Zilkens, R., G Bruce, D., Duke, J., Spilsbury, K., & B Semmens, J. (2014). Severe psychiatric disorders in mid-life and risk of dementia in late-life (age 65-84 years): a population based case-control study. Current Alzheimer Research, 11(7), 681-693.
愛し野塾 第206回 心不全治療・薬剤開発最前線
2015年国内統計では、心不全患者数は100万人を超え、さらに2020年には、120万人に達することが推定されました。急性もしくは慢性の心不全の分類については、それぞれ半数を占めると考えられています。心不全になると、心臓機能の低下から、身体能力の低下、自立した生活の困難、また生活の質の低下が懸念されます。
米国のメディケア保険加入者を対象にした調査では、急性心不全で一旦入院すると、退院後一年以内に、70%のかたが、死亡あるいは再入院の憂き目にあうと報告されています。心不全の薬物療法とは別の新たな対策として、「心臓リハビリ」が治療のオプションとして登場しました。2009年、HF―ACTION研究によって(文献1)、心臓リハビリが慢性心不全患者の死亡率、入院率を減少させることが示されました。しかし、現実的に心臓リハビリが大規模に始まると、リハビリを継続できるかたが多くないことが、わかりました。実際、HF―ACTION研究でも、リハビリの実行率は60%しかないことが問題とされていました。これについて、REHAB―HF研究で検証され(文献2)、リハビリが敬遠される理由として、心臓以外の疾患要素が多いこと、例えば、臨床的診断に至らなかったうつ病、認知機能の低下、フレイル、関節炎や神経疾患などの高頻度の発症などが、浮き彫りにされ、リハビリを継続できない共存疾患の存在が明らかにされました。例えば、心不全患者に多く併発を認める糖尿病の患者の場合、自己血糖の管理、治療費などの医療費、通院時間に関わる負担は重く、心不全の治療や予防にまで至らないことは想像に固くありません。うつ病を併発しているかたは、従来のうつ病薬に対する薬剤抵抗性を示す傾向が示唆されています。薬剤治療が困難なうつ病患者に対して別の治療法の選択肢の一つに認知行動療法があるのですが、同じ医療機関内で、心臓リハビリと認知行動療法ができる場所は、非常に限られています。また認知機能の低下は、78%のかたに認められ、これもまた心臓リハビリを積極的に行うことが難しい理由の一つでしょう。
こうした事情を鑑み、心不全患者には、身体のリハビリだけでなく、治療薬の問題、こころの問題、社会的な問題も同時に注目し、視野を広げた上で、解決強化をはかることが重要である、といった認識が広まりました。「ポリファーマシー」が、これら諸問題解説の鍵となる可能性も指摘されています。薬を減らし、医療者ー患者を結ぶアドヒアランスが高く維持され、また受け入れられやすいリハビリを開発すること、そして、何より、心不全の根本的治療薬の開発が待ち望まれる状況となっていました。
さて、2014年に登場した慢性心不全の画期的特効薬とされるサクビトリルーバルサルタン(文献3)は、既存薬からの切り替えが難しいこともあり、実臨床に浸透するにはいたりませんでした。今回、同薬の急性心不全治療の有効性が検証され、良好な結果が報告されました(文献4)。論文は、2月7日号NEJMにイエール大学らのグループが報告しました。
<対象>
イジェクションフラクション(EF)が40%未満、NTproBNPが1600以上、BNPが400以上の条件を満たし、米国の129の医療機関で、急性心不全で入院し、入院後24時間から10日以内の症例のうち、いまだ入院中で、循環動態が安定しているかたを対象としました。また、登録前6時間以内に、血圧が100mmHg以上であること、静脈注射の利尿剤の量が増えていないこと、血管拡張剤は使用していないこと、登録前24時間以内に、イオノトロピックスを使用していないことを条件としました。サクビトリルーバルサルタン投与(目標値は、サクビトリル97mg,バルサルタン103mg)か、エナラプリル投与(10mg)かを無作為に割付けました。
<結果>
881人が抽出され、440人がサクビトリルーバルサルタン群、441人がエナラプリル群に無作為に割り付けられました。年齢は61−63歳、女性は25.7%−30.2%、BMIは30.5−30.0、心不全の既往は67.7%―63.0%、収縮期血圧はいずれも118、EFは24−25、NTproBNPは4821−4710、で、両群間で患者プロフィールに差はありせんでした。無作為割付前に、93%のかたが、フロセミドの静脈注射を受け、11%のかたが、ICUで管理され、7,7%のかたがイオノトロプ治療を受けました。入院期間は5.2日でした。
サクビトリルーバルサルタン投与群は、エナラプリル群に比較して、NTproBNPの低下を認め(29%低下、P<0.001)。この有効性は、投与後1週目から認められました。腎機能悪化、高カリウム、症状のある低血圧、血管浮腫は、両群間に差を認めませんでした。
<コメント>
入院を要した重症の急性心不全患者の治療薬として、従来の薬に比して、新規薬剤サクビトリルーバルサルタンに統計的有意かつ、有効な作用があることが証明され、心不全治療に大きな前進をもたらすことになりました。これまで、治療薬として、値段が高いこともあり、なかなか実臨床では浸透していませんでしたが、今回の研究で、急性期の入院患者に処方が可能となり、退院後も使用継続される可能性が高まりました。これまでの標準治療薬と比較して、副作用の発現頻度が変わらなかった点も確認され、実臨床での使用頻度が増えるのではないか、とエディトリアルで議論されているのは、もっともなことです(文献5)。
一方で、心不全の経過を、血液マーカーのみでしか評価していないことはこの研究の弱みでしょう。退院後の再入院の頻度や退院後の死亡率についても今後の検証を待たなければなりません。
2015年に米国FDAの承認を受けているサクビトリルーバルサルタンが、今後、日本でも、治療選択薬の一つとして、適用される日は近いのではないでしょうか。
文献1
O’Connor, C. M., Whellan, D. J., Lee, K. L., Keteyian, S. J., Cooper, L. S., Ellis, S. J., ... & Rendall, D. S. (2009). Efficacy and safety of exercise training in patients with chronic heart failure: HF-ACTION randomized controlled trial. Jama, 301(14), 1439-1450.
文献2
Flint, K. M., & Forman, D. E. (2018). Lessons From the First 202 REHAB-HF Participants: Will Adherence be the Achilles’ Heel of Exercise Rehabilitation Among Older Adults Hospitalized for Heart Failure?.
文献3
McMurray, J. J., Packer, M., Desai, A. S., Gong, J., Lefkowitz, M. P., Rizkala, A. R., ... & Zile, M. R. (2014). Angiotensin–neprilysin inhibition versus enalapril in heart failure. New England Journal of Medicine, 371(11), 993-1004.
文献4
Velazquez, E. J., Morrow, D. A., DeVore, A. D., Duffy, C. I., Ambrosy, A. P., McCague, K., ... & Braunwald, E. (2019). Angiotensin–neprilysin inhibition in acute decompensated heart failure. New England Journal of Medicine, 380(6), 539-548.
文献5
PIONEERing the In-Hospital Initiation of Sacubitril-Valsartan.
Jarcho J. N Engl J Med. 2019 Feb 7;380(6):590-591. doi: 10.1056/NEJMe1900139. No abstract available.
登録:
投稿 (Atom)

