2019/05/07
愛し野塾 第198回 フレイル予防のための早期介入の有効性
2014年に日本老年医学会によって提唱された「フレイル」と呼ばれる新しい概念は、すなわち、加齢に伴って罹患しやすくなる慢性疾患などを契機に、運動機能及び認知機能などの心身の活動低下や生活機能の低下、などの脆弱性が高まった状態を意味しますが、重要なポイントは、適切な介入や支援によって、予防できること、また健康な状態へ戻る可能性がある点です。日本の診断基準は、(1)体重減少(意図しないもので、年間4.5Kgから5Kg以上の減少)、(2)疲れやすい(週に3-4日以上感じる)、(3)歩行速度低下、(4)握力の低下、(5)身体活動量の低下で、3項目以上が当てはまる場合です。1-2項目だけの場合は、プレフレイルと定義されます(文献1)。
わが国人口のうち、フレイルに該当する割合は、2013年の65歳以上の調査で、11.5%、80歳以上に限ると34.9%に増加します(文献2)。ヨーロッパの報告では、65歳以上のフレイル人口は17%、プレフレイルは42.3%、女性により多いと発表されています(文献3)。
フレイルになると、肺炎、転倒、骨折、入院、寝たきりになるリスクが増え、死亡率も高くなります。フレイルは、加齢とともに減少する食事量から低栄養状態に至り、筋肉量が減少することに原因があると考えられています。したがって、並存する慢性疾患のコントロールはもちろん、感染症対策をとりながら、いかに筋肉量を維持していくかが治療の重要なポイントになります。昨今耳にするレジスタンストレーニングやアミノ酸摂取の推奨は、それが所以ですね。一方、別の考え方として、フレイルは、多数の疾患によってもたらされた、障害の積算であるとする説があります。この場合最優先となるのは、疾患対策となります。
さて、フレイル予防の観点から、市民の中から、プレフレイルのかたをいち早く見つけ出し、介入することの重要性が提唱されるようになりました。今回、「栄養、運動、ポリファーマシー、社会とのつながり」の4点に注目し、プレフレイルのかたをフレイルにしない試みが行われ、良好な結果が得られましたので報告します(文献4)。
<対象>
施設に入所していない80歳以上の一般市民のうち、バルセロナのボレルPHCに属している32,621人のうち、プレフレイルの条件を満たしている方を対象としました。除外条件は(1)進行した認知症、(2)緩和ケアを受けている、(3)余命が6ヶ月未満、(4)コントロール不能の狭心症など容態が不安定、(5)フレイルと診断されている、(6)慢性の重篤な病態がある、(7)車椅子、(8)盲目、(9)別の臨床試験に登録されている、でした。
<方法>
参加者は、2重盲検法によってコントロール群と介入群に割り付けられました。介入群は、問診から、5種類以上の投薬をされている場合、無駄な投薬がないかどうか検討されました。次に、地中海食の専門家が、食事療法の指導をグループレッスンで行いました。引き続き行われた運動指導の詳細は、(1)エアロビック運動で、週に3日以上、30-60分歩行。(2)筋力、レジスタンス、バランス、協調をつける運動、週に3-4回。10回の反復から徐々に回数をあげ、15回までの反復、でした。
最後に、個人のおかれた社会的状況、プライベートな状況の把握、社会からの援助の状態の把握をしました。遠隔診療用の通信機器設置についても、介入の一部として検討しました。
<評価項目>
バースルインデックス法によって、日常生活の活動性を評価しました(100点:自立、60点以上:やや介助を要する、40-55点:中程度に介助を要する、20-35点:重度に介助を要する、20点未満は、完全介助)。身体機能テストは、TUG(タイムアップアンドゴー)テスト(10秒以下は、正常、11秒以上で転倒リスクあり)で評価し、転倒リスクはFTSST(11以下で適正、13.6以下で正常、13.7から16.6で、転倒リスクあり、16.7以上でフレイル)によって評価しました。
<結果>
2373人の中から、条件適合者200人が抽出され、介入群と非介入群にそれぞれ100人ずつ無作為に割り付けました。対象者の平均年齢は84.5歳、女性は、64.5%、教育レベルは、大卒19.5%、高卒41.5%、中卒39%、婚姻39%、配偶者との死別45.5%、単身9.5%、離婚8%、介護者がいるかた8%、喫煙しない68.5%、喫煙している5%、禁煙した26.5%、糖尿病25.5%、高血圧73%、脂質異常51%、COPD12%、骨粗鬆症35%、心不全2%、虚血性心疾患9.5%、不整脈16.5%、難聴51%、ポリファーマシー71.5%、便秘28%、うつ病18%、不眠38.5%、認知機能低下5.5%で、介入群と非介入群の間の特徴に、差はありませんでした。
<介入群>
運動のグループセッションの参加数は88人で、5回以上参加した方は、52人でした。地中海食のグループセッションの参加数は51人でした。社会とのつながりの介入として、遠隔診療用機器の設置をしたのは、64人でした。ポリファーマシーを72人に認め、不適切な処方と判断された62人のうち、30人が処方変更に応じました。
12ヶ月の試験期間を完遂したのは、全体の86.5%、介入群85人、非介入群88人でした。介入群では、フレイルの5項目について、試験開始時と12ヶ月後で、有意に変化している項目はありませんでしたが、非介入群では、3項目でおおよそ2倍の有意な悪化を認めました。すなわち、(1)疲労感を感じるひとの割合が、28.4%から59.1%に増加(P<0.001)、(2)歩行速度の低下が10.2%から22.7%に増加(P=0.01)、(3)身体活動の低下が10.2%から21.6%に増加(P=0.024)でした。
介入群では、非介入群に比較して有意に改善していた項目は、バースルインデックスを用いた機能評価(94.9から96.2へ増加(P=0.001))、地中海食へのアドヒアランス(7.8から8.2へ増加(P=0.011))、生活の質(7.1から6.2に改善(P<0.001))、TUG(13.4から12.4に改善(P=0.004))、FTSST(19.6から17.0に改善(P<0.001))でした。
<フレイルへの進行抑止>
試験期間中、フレイルと評価されたのは28人、内訳は、非介入群の23.9%、介入群の8.2%でした。非介入群は、介入群と比較すると、2.9倍のフレイルリスクを認めました。12人のかたが、プレフレイルから正常に戻りました。内訳は、非介入群1.1%、介入群14.1%で、介入によって有意な回復を認めました(P<0.001)。女性であること、配偶者と死別をした経験があることが、フレイルになるリスク因子であることもわかりました。両群間で、併発疾患の差はありませんでした。
フレイルに進行することで、全般的な機能状態悪化(OR1.19)、自立度低下(OR2.98)、栄養状態悪化(OR1.25)、生活の質悪化(OR1.98)、社会とのつながりの低下(OR1.35),歩行能力悪化(OR1.33)が認められました。
<コメント>
超高齢社会を迎えた今、健康寿命を伸ばすことの重要性は言うまでもありません。フレイル予防の観点から、ポリファーマーシーの改善、運動促進、地中海食の推奨、地域社会とつながりを重視し孤立を防ぐことで、プレフレイルからフレイルに移行することを、予防できる可能性が示された意義は大きいでしょう。今後、より大規模な研究によって、再現性が認められることを期待します。
本研究で認めた途中離脱者が13.5%と、予想されていた9%を超えていたことは懸念されます。今後、ドロップアウトを減らす方法の改善が望まれます。
フレイルの定義は、未だ国際的に統一されておらず、各研究間で検証方法が定まっていません。また、本研究では、80歳以下のかたは対象から外されていました。より汎用性のある結果を得るには、フレイルそのものの評価方や評価基準について、国際的な統一が必要でしょうし、対象年齢についてもより若い年齢層への拡大も必要だ思います。本研究の介入期間1年は短かいと言わざるをえず、今後は、より長期の検討を要するでしょう。また、非介入群は、通常のケアを受けていたこと、研究者は、介入群と非介入群の割り付けを患者ごとに認識していたことは、バイアスになっていないとは言えません。今後、こうしたバイアスを是正し、厳正な調査方法をとる必要があるのではないでしょうか。
いずれにせよ、プレフレイルの早期発見のための新規検診事業を実践し、多剤服用の是正、運動促進、地中海食の摂取、社会との繋がりの確保を行う努力を今すぐにでも 始める必要性を実感させられた調査結果であったことは、まちがいないと感じています。
文献1 https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/review_51_6_497.pdf
文献2
https://www.almediaweb.jp/news/ac20160719_01.html
文献3 Santos-Eggimann, B., Cuénoud, P., Spagnoli, J., & Junod, J. (2009). Prevalence of frailty in middle-aged and older community-dwelling Europeans living in 10 countries. The Journals of Gerontology: Series A, 64(6), 675-681.
文献4 Gené, L. H., Navarro, M. G., Kostov, B., Ortega, M. C., Colungo, C. F., Carpallo, M. N., ... & Sisó-Almirall, A. (2018). Pre Frail 80: Multifactorial Intervention to Prevent Progression of Pre-Frailty to Frailty in the Elderly. The journal of nutrition, health & aging, 22(10), 1266-1274.