2019/05/07
愛し野塾 第205回 新時代の健康食生活と食糧危機対策
日本で消費される食料、その食材の多くは諸外国から輸入されています。日本の食料自給率(食料自給率=自分の国で生産している食料÷自分の国で消費する食料)は、カロリーベースで減少傾向を示し、1965年の73%から、2017年の38%へと約50年で半減しています。一方、世界一といわれるオーストラリアの自給率は、238%、続いて、アメリカ:130%、フランス:127%、ドイツ:95%、イギリス:63%、と先進諸国の中でも、日本はもっとも低い自給率となっています。確かに、国土の4分の3が山地、かつ農地が少ないことを考えれば、この数値は受け入れざるを得ないのかもしれません。実際、もっとも低い自給率を示す東京都が1%、一方、北海道は、184%と高値を示しますが、自給率の低下の理由は土地の制限ばかりではないようです。嗜好の変化、とくに健康に良くないのでは?と疑問を持たざるを得ない食材の多用が大きく影響していることがわかってきました。
さて、グローバルな視野から鑑みるに、世界の飢餓人口の増加は続いており「食糧難」で8億人以上のひとが飢えに苦しんでいることが、報告されています。専門家の試算では、今の食料生産・消費を続けていると、消費が生産を上回り、2050年には食料事情は立ち行かなくなると推定されます。2050年以降も、世界のひとびとすべてが健康的な生活を送ることができる「持続可能な食料システム」の構築は、世界中で取り組まなければならない重要な課題です。また、このシステムは、同時に環境破壊から地球を守ることが期待されます。なぜなら食料生産による土地活用が、とりもなおさず最大の土地破壊、汚染、温室効果の起爆剤になっているからです。不健康な食事が、死亡率、疾病率上昇に与える影響は、避妊なしのセックス、アルコール、ドラッグ、たばこよりも危険と言う人もいるくらいです!(4 Global Panel on Agriculture and Food Systems for Nutrition. Food systems and diets: facing the challenges of the 21st century. London: Global Panel, 2016.) 。さて、2050年以降も持続可能な食料システムを構築するため、健康的な食事の促進、環境破壊阻止を目論んだ計画が、ハーバード大学のウイレット博士らによって作成され、EAT-Lancet Commissionに掲載されました(文献1)。今回は、この論文を解説してみます。
第一に、博士らは、「すべての人の健康に資する参考となるダイエット(レファレンスダイエット)」の作成にとりかかりました。これまでの研究成果をもとに作成されたレファレンスダイエットは、「野菜、フルーツ、全粒穀物、マメ科植物、ナッツ、不飽和脂肪を主たる食材とし、一方、魚と鶏肉は少量から中等量、赤身肉、加工肉、砂糖、精製穀物、デンプン野菜は中止・あるいは少量摂取にとどめること」、を土台に作成されました。このダイエットを遵守することによって、「2050年に100億人の人口に到達しても、地球上のすべてのひとびとは生き延びることが可能となる。ただし、わずかでも赤身肉、乳製品の消費増大があれば、狂いが生じ、地球規模の食料危機、環境破壊が招来されることになるだろう」と主張、警告しています。
このレファレンスダイエットのポイントは、「動物性主体の食事から、植物性主体の食事への切り替え」です。「わずかな種類の作物が家畜のための飼料として大量に消費されている、という現状こそ、食料事情逼迫の最大因子である」という前提に則り、健康的、かつ生物学的多様性のある食物生産に移行させ、家畜飼育を縮小化が必要である、という主張です。BBCの2月4日電子版(文献2)では、牛の場合、与える飼料、水の量、使う土地の広さ、温室ガス排出量について、生産される食肉量の効率を算出した結果、鶏肉と比較すると3分の1から10分の1の低効率であり、また豚は牛よりも生産効率はよいが、鳥よりは劣ることを指摘しています。「牛肉と豚肉」の摂取を控え、「鶏肉」への切り替えを図ることが有効だ、いう主張はうなづけるところです。一方で、農業が、世界の土地の40%を使用し、温室ガス排出の30%が食料生産によるものであり、真水の70%を使用している事実も見過ごすことはできません。
さて、「不健康な食事」には、高カロリー、かつ砂糖添加物、飽和脂肪酸が含まれる加工された食品や赤身肉などが挙げられます。不健康な食事習慣が積み重なると肥満、糖尿病などの生活習慣病や、いくつかの種類のがんの発症リスク、死亡率が上昇します。同時に環境破壊は促進し、「人間の体にも、環境にもネガティブな、ルーズルーズ」の食事、「持続不可能な食料事情」へと陥るのです。
では、人の体にもよく、環境にもよい、ウインウインの食事とは具体的にはどのようなものでしょうか。博士らが提案している、健康に資するダイエット「2303キロカロリー」に相当するものを以下に列挙しました。
(1) 全粒穀物(玄米、麦、コーンなど)、232グラム
(2) デンプン野菜 ポテト 50グラム
(3) 野菜 300グラム
(4) フルーツ 200グラム
(5) 乳製品 ミルク 250グラム
(6) タンパク質 牛肉 7グラム、豚肉 7グラム、鶏肉 29グラム、卵 13グラム、魚 28グラム、豆(ピーナッツ 25グラム、ドライビーン 50グラム、大豆食品 25グラム)、木の実 25グラム
(7) 脂質 パームオイル 6.8グラム、不飽和脂肪酸 40グラム、ラード 5グラム
(8) 砂糖 31グラム
<たんぱく質についての考察>
たんぱく質の中でも、健康に懸念をもたらす食材として、「加工肉(例:ハムやソーセージ、ベーコンなど)」を挙げています。これは直腸・結腸癌の発症リスクとの関連性を示唆する科学的根拠に基づき、WHOは、塩分や保存剤で処理された加工肉を、第一群の発がん物質と認定し、未加工の赤身肉も、第二群の発がん物質に認定しています。前向きのコホート研究では、13.1万人の男女を対象に食事の内容に関する厳格な調査を32年間行なった結果、タンパク源を、加工肉から植物性へ代替することによって、全死亡は32%低下し、未加工肉を植物性へ代替すると、同じく12%低下することを報告しています(文献3)。この調査結果を根拠に、牛肉と豚肉をあわせた一日至適摂取量は、14グラムと制限され、加工肉は摂取量ゼロが推奨値とされました。あらゆる栄養学的調査から1日に摂取されるタンパク質は、Kg体重あたり0.8グラムが適切とされ、つまり、体重70Kgの人では、56グラムで、全体のカロリーの10%となります。これにより、この範囲内で、そのほかのタンパク源になるものの摂取量が決定されました。
まず牛乳です。WHOは、カルシウム摂取量は、1日あたり500mgを推奨しています。カルシウムの過剰摂取による前立腺癌の発症リスクも考慮し、牛乳の適切な摂取量は、1日あたり250ccとしました。
次に魚です。中枢神経系、心血管系が健全に機能するために「ω3脂肪酸」摂取の必要性を重視し、魚摂取量を1日あたり28グラムとしました。栄養価の高い卵は、1週間あたり1.5個としました。
ナッツは、不飽和脂肪酸、食物繊維、ビタミン、ミネラル、抗酸化物、フィトステロールなどの健康に良い栄養素を豊富に含んでいます。地中海食に加えて毎日30グラムのナッツを摂取すると、心血管病発症リスクが28%も低下したという報告(文献4)などからも、ピーナッツと木ノ実を合わせ、1日50グラム摂取を適切としました。また、マメ科植物のもつLDL―Cを低下させ、血圧を低下させる良好な作用や、大豆に含まれるフィトエストロゲンの乳がん予防効果も期待され、ドライビーンは、1日あたり50グラム、大豆は、25グラム摂取が推奨されました。
<炭水化物についての考察>
玄米などの「未精製穀物」の摂取は、冠動脈疾患、2型糖尿病、全死亡リスクを低下させ、一方で、芋類の過剰摂取は、2型糖尿病、血圧上昇、体重増加リスクを上昇させることから、全粒穀物1日あたり232グラム、デンプン植物50グラム摂取を妥当としました。
<フルーツと野菜>
フルーツと野菜の摂取が、心血管病発症予防に有効であること、また、がん予防にも有効である可能性が示唆されていることから、フルーツ1日あたり200グラム、野菜300グラム摂取を適切としました。
<脂質>
脂質の種類の観点から、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸摂取が、健康への負の影響と、その一方で、不飽和脂肪酸摂取による健康への効果は多数報告されてきました。最も消費されている脂質は、マーガリン、ショートニングなどに含まれてい「パームオイル」ですが、日本でのひとりあたりの消費量は、年間5kg、1日あたり13.7グラムといわれています。大豆油に比較して、パームオイルの不飽和脂肪酸含有量が低く、飽和脂肪酸が多く含まれています。パームオイルの摂取によって血中LDL-Cは上昇し、さらに心筋梗塞リスクを上げることが報告されてきました。パームオイルの適切な摂取量は、日本人の摂取量の約半量となる6.8グラム、不飽和脂肪酸は、40グラムと示されました。エクストラバージンオリーブオイルを地中海食に添加すると、心血管病予防効果が30%も増強されることが、スペインの研究で明らかにされたことが、この論拠となっています(文献5)。
<砂糖>
砂糖で甘み付けした飲料の過剰摂取は、体重増加、2型糖尿病の発症、心血管病による死亡リスクをあげることが複数報告され、最大で1日31グラム、かつ、全カロリーの5%未満とすることが提案されました。
さて、上記、レファレンスダイエットを遵守すれば、2030年には年間あたりの死亡数を1110万人も減らすことができる、と推定しています。まさに驚くべき効果ではないでしょうか!しかし、問題は、実際に、その計画を遂行できるのかどうか、でしょう。各国・各地域の利害問題を受け止め、世界のリーダーが結束し、人類、そして地球を守れるのか、いままさにその瀬戸際に人類はたたされているのです。まずは、私たち一人一人がその意識を認識しなければなりません。次世代のために、サステイナブルな豊かな地球を残さなければならない、誰かがやる、のではなく、自分自身がはじめなければならない、のが今なのです。今晩のおかずから、赤身肉を減らし、加工肉をやめることができるでしょうか。決して簡単なことではありません。迫り来る食糧問題は、もはや人ごとではないのです。
文献1
Food in the Anthropocene: the EAT-Lancet Commission on healthy diets from sustainable food systems. Willett W, Rockström J, Loken B, Springmann M, Lang T, Vermeulen S, Garnett T, Tilman D, DeClerck F, Wood A, Jonell M, Clark M, Gordon LJ, Fanzo J, Hawkes C, Zurayk R, Rivera JA, De Vries W, Majele Sibanda L, Afshin A, Chaudhary A, Herrero M, Agustina R, Branca F, Lartey A, Fan S, Crona B, Fox E, Bignet V, Troell M, Lindahl T, Singh S, Cornell SE, Srinath Reddy K, Narain S, Nishtar S, Murray CJL.
Lancet. 2019 Feb 2;393(10170):447-492. doi: 10.1016/S0140-6736(18)31788-4. Epub 2019 Jan 16. Review. No abstract available.
文献2
BBC
Which country eat the most meat? Hannah Ritchie
https://www.bbc.com/news/health-47057341
文献3
Association of Animal and Plant Protein Intake With All-Cause and Cause-Specific Mortality. Song M, Fung TT, Hu FB, Willett WC, Longo VD, Chan AT, Giovannucci EL. JAMA Intern Med. 2016 Oct 1;176(10):1453-1463. doi: 10.1001/jamainternmed.2016.4182.
文献4
Association of nut consumption with total and cause-specific mortality. Bao Y, Han J, Hu FB, Giovannucci EL, Stampfer MJ, Willett WC, Fuchs CS. N Engl J Med. 2013 Nov 21;369(21):2001-11. doi: 10.1056/NEJMoa1307352.
文献5 Primary prevention of cardiovascular disease with a Mediterranean diet. Estruch R, Ros E, Salas-Salvadó J, Covas MI, Corella D, Arós F, Gómez-Gracia E, Ruiz-Gutiérrez V, Fiol M, Lapetra J, Lamuela-Raventos RM, Serra-Majem L, Pintó X, Basora J, Muñoz MA, Sorlí JV, Martínez JA, Martínez-González MA; PREDIMED Study Investigators.
N Engl J Med. 2013 Apr 4;368(14):1279-90. doi: 10.1056/NEJMoa1200303. Epub 2013 Feb 25. Erratum in: N Engl J Med. 2014 Feb 27;370(9):886. Retraction in: N Engl J Med. 2018 Jun 21;378(25):2441-2442. Corrected and republished in: N Engl J Med. 2018 Jun 21;378(25):e34.
愛し野塾 第204回 パーキンソン病治療の進歩
パーキンソン病は、手の震えなどの「振戦を認めること」、「動作が緩慢になること」、他動的に四肢の筋肉を動かしたときに抵抗を認める「筋強剛が存在すること」、転びやすくなるなど「姿勢保持に障害をきたすこと」の4大特徴を有する、「難治性の運動疾患」です。1000人に1人~1.5人の頻度で発症し、高齢者では、その頻度は10倍に増すことが知られています。2040年の患者数は、地球規模で1400万人に達すると推定されています。
さて、「根本治療薬」の開発は、鋭意進められているものの、未だ「症状緩和」にのみ効果を認める薬剤しかありません。また症状緩和剤は、一定期間をこえると薬効の低下を認めることから、薬剤開発は、「薬効を持続させること」に集中してきました。2019年2月号のLancetでは、症状緩和剤のひとつであるレボドパの新規剤型である吸入剤の臨床第3相試験の良好な結果が報告(文献1)されましたが、1月24日号のNEJMでは、「レボドパには、根治作用を認めない」と結論づけた論文が掲載され(文献2)、同じく同号で、「パーキンソン病の薬剤開発は、症状緩和薬ではなく、今や、根本治療薬の開発に注力することを期待する」とエディトリアルで論説されています(文献3)。
パーキンソン病脳病理の特徴には、神経細胞内に認めるαシヌクレインの凝集塊、中脳の黒質ドパミン神経細胞の減少が挙げられます。αシヌクレイン凝集塊による神経細胞死のプロセス、及び、ひとつの細胞から別の細胞へ拡散するメカニズムの解明が、根本治療薬開発の鍵として期待されてきましたが、未だ満足のいく研究の成果が得られていないのが実情です。
1月31日NEJMに、αシヌクレインにより誘導される細胞死、細胞間拡散メカニズムの解明において、治療に直結する「ブレークスルー」があったとする論説が掲載されました(文献4)。これは、ジョンスホプキンス大学のグループが発表した昨年のKam博士らのサイエンスの報告内容(文献5)に基づく論説で、非常に興味深いものでした。
まず、Kam博士らは、動物実験によって、「αシヌクレインの作用」を検討しました。マウス脳に、あらかじめ試験管内で凝集塊形成させたαシヌクレインを注入したところ、一酸化窒素(NO)が誘導され、DNA障害が生じること、次に、DNA障害がポリADPリボースポリメラーゼ活性を上げることで、ポリADPリボース(PAR)形成が促され、翻って、PARが、αシヌクレインに結合することで、αシヌクレイン凝集を促進し、神経毒性を発揮すること、を明らかにしました。マウス脳では、αシヌクレインの細胞死、細胞間拡散が「PAR形成」を要として遂行されていることから、「パーキンソン病患者におけるPAR形成の促進の可能性」の仮説を立て、これを検証するために、パーキンソン病患者の脳脊髄液中のPARを測定しました。その結果、「パーキンソン病患者におけるPARの増加」を認め、動物実験の結果との整合性が得られました。まさに「PARがパーキンソン病の診断、病勢のマーカーになる可能性」が、にわかに生じたわけです。
さらに、 Kam博士らは、実臨床で汎用されているPAR形成を抑止させる「PARポリメラーゼ阻害剤(PARP阻害剤)」をマウスに用いた結果、αシヌクレインの凝集塊形成の抑制、さらに細胞間拡散、及び細胞死の阻害を認めました。つまり、PARP阻害剤がパーキンソン病治療薬となる可能性が見出されたのです。
さて、PARP阻害剤のひとつである「オラパリブ」は、卵巣がん治療薬として2018年、日本で保険適用とされています。既存の薬剤を別の疾患治療に用いる「別目的利用:薬剤リパーパシング(repurposing)」によって、今後、仮にパーキンソン病患者へ応用するならば、長期使用が予想され、何より、有害事象の発生に十分注意をしながら薬効評価をしてゆくことになるでしょう。また、パーキンソン病患者の脳脊髄液中のPARが、診断、病勢のマーカーとして検査適用されれば、早期診断や、治療効果を、随時検証できるツールとなる可能性が広がります。そのためにもパーキンソン病患者の脳脊髄液のPAR濃度測定の意義については、大規模な検証を経て、今回の結果が確認されることを期待するところです。
さて、「αシヌクレイン」は、レビー小体型認知症の原因ともされます。認知症の3大疾患の一角を担うこの認知症は、認知症全体の20%を占めます。もしも、PARP阻害剤が、レビー小体型認知症の治療に有効ともなれば、素晴らしいことです。この方向での研究の発展も期待したいと思います。今後、αシヌクレインを巡って、パーキンソン病、そして認知症の臨床の立場からも、PAR、PARP阻害剤の効果の検証について、目が離せません!
文献1
Safety and efficacy of CVT-301 (levodopa inhalation powder) on motor function during off periods in patients with Parkinson's disease: a randomised, double-blind, placebo-controlled phase 3 trial.
LeWitt PA, Hauser RA, Pahwa R, Isaacson SH, Fernandez HH, Lew M, Saint-Hilaire M, Pourcher E, Lopez-Manzanares L, Waters C, Rudzínska M, Sedkov A, Batycky R, Oh C; SPAN-PD Study Investigators.
Lancet Neurol. 2019 Feb;18(2):145-154. doi: 10.1016/S1474-4422(18)30405-8
文献2
Randomized Delayed-Start Trial of Levodopa in Parkinson's Disease.
Verschuur CVM, Suwijn SR, Boel JA, Post B, Bloem BR, van Hilten JJ, van Laar T, Tissingh G, Munts AG, Deuschl G, Lang AE, Dijkgraaf MGW, de Haan RJ, de Bie RMA; LEAP Study Group.
N Engl J Med. 2019 Jan 24;380(4):315-324. doi: 10.1056/NEJMoa1809983.
文献3
When to Start Levodopa Therapy for Parkinson's Disease.
Bressman S, Saunders-Pullman R.
N Engl J Med. 2019 Jan 24;380(4):389-390. doi: 10.1056/NEJMe1814611
文献4
PARP Inhibitors and Parkinson's Disease.
Olsen AL, Feany MB.
N Engl J Med. 2019 Jan 31;380(5):492-494. doi: 10.1056/NEJMcibr1814680
文献5
Poly(ADP-ribose) drives pathologic α-synuclein neurodegeneration in Parkinson's disease.
Kam TI, Mao X, Park H, Chou SC, Karuppagounder SS, Umanah GE, Yun SP, Brahmachari S, Panicker N, Chen R, Andrabi SA, Qi C, Poirier GG, Pletnikova O, Troncoso JC, Bekris LM, Leverenz JB, Pantelyat A, Ko HS, Rosenthal LS, Dawson TM, Dawson VL.
Science. 2018 Nov 2;362(6414). pii: eaat8407. doi: 10.1126/science.aat8407.
さて、「根本治療薬」の開発は、鋭意進められているものの、未だ「症状緩和」にのみ効果を認める薬剤しかありません。また症状緩和剤は、一定期間をこえると薬効の低下を認めることから、薬剤開発は、「薬効を持続させること」に集中してきました。2019年2月号のLancetでは、症状緩和剤のひとつであるレボドパの新規剤型である吸入剤の臨床第3相試験の良好な結果が報告(文献1)されましたが、1月24日号のNEJMでは、「レボドパには、根治作用を認めない」と結論づけた論文が掲載され(文献2)、同じく同号で、「パーキンソン病の薬剤開発は、症状緩和薬ではなく、今や、根本治療薬の開発に注力することを期待する」とエディトリアルで論説されています(文献3)。
パーキンソン病脳病理の特徴には、神経細胞内に認めるαシヌクレインの凝集塊、中脳の黒質ドパミン神経細胞の減少が挙げられます。αシヌクレイン凝集塊による神経細胞死のプロセス、及び、ひとつの細胞から別の細胞へ拡散するメカニズムの解明が、根本治療薬開発の鍵として期待されてきましたが、未だ満足のいく研究の成果が得られていないのが実情です。
1月31日NEJMに、αシヌクレインにより誘導される細胞死、細胞間拡散メカニズムの解明において、治療に直結する「ブレークスルー」があったとする論説が掲載されました(文献4)。これは、ジョンスホプキンス大学のグループが発表した昨年のKam博士らのサイエンスの報告内容(文献5)に基づく論説で、非常に興味深いものでした。
まず、Kam博士らは、動物実験によって、「αシヌクレインの作用」を検討しました。マウス脳に、あらかじめ試験管内で凝集塊形成させたαシヌクレインを注入したところ、一酸化窒素(NO)が誘導され、DNA障害が生じること、次に、DNA障害がポリADPリボースポリメラーゼ活性を上げることで、ポリADPリボース(PAR)形成が促され、翻って、PARが、αシヌクレインに結合することで、αシヌクレイン凝集を促進し、神経毒性を発揮すること、を明らかにしました。マウス脳では、αシヌクレインの細胞死、細胞間拡散が「PAR形成」を要として遂行されていることから、「パーキンソン病患者におけるPAR形成の促進の可能性」の仮説を立て、これを検証するために、パーキンソン病患者の脳脊髄液中のPARを測定しました。その結果、「パーキンソン病患者におけるPARの増加」を認め、動物実験の結果との整合性が得られました。まさに「PARがパーキンソン病の診断、病勢のマーカーになる可能性」が、にわかに生じたわけです。
さらに、 Kam博士らは、実臨床で汎用されているPAR形成を抑止させる「PARポリメラーゼ阻害剤(PARP阻害剤)」をマウスに用いた結果、αシヌクレインの凝集塊形成の抑制、さらに細胞間拡散、及び細胞死の阻害を認めました。つまり、PARP阻害剤がパーキンソン病治療薬となる可能性が見出されたのです。
さて、PARP阻害剤のひとつである「オラパリブ」は、卵巣がん治療薬として2018年、日本で保険適用とされています。既存の薬剤を別の疾患治療に用いる「別目的利用:薬剤リパーパシング(repurposing)」によって、今後、仮にパーキンソン病患者へ応用するならば、長期使用が予想され、何より、有害事象の発生に十分注意をしながら薬効評価をしてゆくことになるでしょう。また、パーキンソン病患者の脳脊髄液中のPARが、診断、病勢のマーカーとして検査適用されれば、早期診断や、治療効果を、随時検証できるツールとなる可能性が広がります。そのためにもパーキンソン病患者の脳脊髄液のPAR濃度測定の意義については、大規模な検証を経て、今回の結果が確認されることを期待するところです。
さて、「αシヌクレイン」は、レビー小体型認知症の原因ともされます。認知症の3大疾患の一角を担うこの認知症は、認知症全体の20%を占めます。もしも、PARP阻害剤が、レビー小体型認知症の治療に有効ともなれば、素晴らしいことです。この方向での研究の発展も期待したいと思います。今後、αシヌクレインを巡って、パーキンソン病、そして認知症の臨床の立場からも、PAR、PARP阻害剤の効果の検証について、目が離せません!
文献1
Safety and efficacy of CVT-301 (levodopa inhalation powder) on motor function during off periods in patients with Parkinson's disease: a randomised, double-blind, placebo-controlled phase 3 trial.
LeWitt PA, Hauser RA, Pahwa R, Isaacson SH, Fernandez HH, Lew M, Saint-Hilaire M, Pourcher E, Lopez-Manzanares L, Waters C, Rudzínska M, Sedkov A, Batycky R, Oh C; SPAN-PD Study Investigators.
Lancet Neurol. 2019 Feb;18(2):145-154. doi: 10.1016/S1474-4422(18)30405-8
文献2
Randomized Delayed-Start Trial of Levodopa in Parkinson's Disease.
Verschuur CVM, Suwijn SR, Boel JA, Post B, Bloem BR, van Hilten JJ, van Laar T, Tissingh G, Munts AG, Deuschl G, Lang AE, Dijkgraaf MGW, de Haan RJ, de Bie RMA; LEAP Study Group.
N Engl J Med. 2019 Jan 24;380(4):315-324. doi: 10.1056/NEJMoa1809983.
文献3
When to Start Levodopa Therapy for Parkinson's Disease.
Bressman S, Saunders-Pullman R.
N Engl J Med. 2019 Jan 24;380(4):389-390. doi: 10.1056/NEJMe1814611
文献4
PARP Inhibitors and Parkinson's Disease.
Olsen AL, Feany MB.
N Engl J Med. 2019 Jan 31;380(5):492-494. doi: 10.1056/NEJMcibr1814680
文献5
Poly(ADP-ribose) drives pathologic α-synuclein neurodegeneration in Parkinson's disease.
Kam TI, Mao X, Park H, Chou SC, Karuppagounder SS, Umanah GE, Yun SP, Brahmachari S, Panicker N, Chen R, Andrabi SA, Qi C, Poirier GG, Pletnikova O, Troncoso JC, Bekris LM, Leverenz JB, Pantelyat A, Ko HS, Rosenthal LS, Dawson TM, Dawson VL.
Science. 2018 Nov 2;362(6414). pii: eaat8407. doi: 10.1126/science.aat8407.
愛し野塾 第203回 CAR-Tで固形がんを制圧するために
手の施しようがなかった再発性、あるいは治療抵抗性B細胞リンパ球性白血病をターゲットに、その奏功率を劇的に上げ、1回の投与で、少なくとも4年は効果が持続するため、値段に見合う価値があるものとして評価されています(文献1)。既存治療では、生存率の中央値はわずか3ヶ月、長くて7.5ヶ月、6ヶ月の生存率は、ほぼ0%に近い値でしたが、CAR-T療法では、なんと6ヶ月の生存率が90%に達します。
治療方法は単純明快です。患者さん自身から採取したT細胞に、がんを破壊する遺伝子を組み込み(CAR-Tと呼称)、このCAR-Tを患者に戻します。CAR-Tはがんを破壊するだけでなく、体内で増殖させることができるため、良好な効果が持続します。
血液がんに対して認められた目覚しい成果が突破口となり、あらゆる悪性疾患の治療に応用しようとする動きがあり、中でも、固形がんへのCAR-T療法の応用が模索されています。しかし、現有のCAR-T療法では、固形がんが持つ特有の微小環境(がんの周囲に存在する血管など)に行く手を阻まれてしまい、効力も、また持続力も不十分な状況でした(文献2)。
今回、この微小環境を逆手にとって、CAR-T療法の動物実験での成功が、医学誌NEJMに発表されました(文献3)。オリジナル論文は、昨年、Samaha博士らによって、Natureに発表されています(文献4)。一刻も早い治療法の確立が待ち望まれる、「ヒト固形がんを標的としたCAR-T療法の実現」に向け、大きな一歩を踏み出した本報告について解説を行いたいと思います。
<背景>
難病の多発性硬化症は、免疫系が自己の脳や脊髄などの中枢神経を攻撃し、神経細胞の軸索を覆っているミエリンが障害、すなわち「脱髄」され、様々な症状を起こす自己免疫疾患です。現在、特効薬であるナタリズマブは、血管内皮細胞に存在する接着分子VCAM-1と、免疫細胞表面にある「インテグリン」の結合をブロックし、異常な免疫細胞が中枢神経に入り込むのを阻止します。この時、多発性硬化症の血管内皮では、別の接着分子ALCMAが増えており、まず、異常免疫細胞がALCAMに結合し、その後、VCAM-1や、ICAM-1を介して、血管内から血管外に出て、中枢神経に到達することが判明しています。(文献5)。
<実験>
動物モデルとして、グリオブラストーマ脳腫瘍マウスを用いました。この脳腫瘍は、45ー65歳の男性に主に発症し、頭痛、痙攣、正確変化、認知症、運動麻痺が生じ、週単位で症状が進行することもあることが知られる悪性度の高い疾病です。治療には、手術、放射線療法、化学療法が試みられますが、効力は乏しく、生存期間の中央値はわずか1年です(文献6)。そのため、早期の抜本的治療法開発が望まれています。
さて、Samahaらは、第一に、中枢神経に生じる、極めて悪性度が高い固形がんの、腫瘍に栄養を供給している血管内皮細胞の詳細観察に注目し、本来あるべき免疫細胞の「インテグリン」と接着する分子である「VCAM-1の消失」と「ICAM-1の減少」を検出しました。すなわち、正常な免疫細胞が、がん血管に結合できず、固形がんに到達できないようになっているメカニズムを明らかにしたのです。
第二に、多発性硬化症で認める「ALCAMの増加」が生じているのか、検証した結果、がん血管内皮細胞におけるALCAMの著しい増加を検出しました。そこで、ALCAMに結合する分子(CD6)をCAR-Tに発現させ、がん血管特異的にCAR-Tを結合させました。CD6の細胞外領域にある3つのドメイン構造のうち、細胞膜にもっとも近いドメインがALCAM結合作用をもつことから、ALCAM結合を増大させるために、5個タンデムに持つ分子(5HS)を作成し、CAR-Tに発現させました。このCAR-Tは、予想通り、腫瘍血管に豊富にあるALCAMを目印として、腫瘍に結合、かつ腫瘍縮小効果が認められたのです。
もっとも重要なポイントである、「腫瘍細胞以外の正常細胞への障害性」について検討した結果、CAR-Tは、正常の中枢神経はもとより、腎臓、脾臓、肺にも検出されませんでした。つまり、このCAR-Tは、腫瘍細胞を特異的に攻撃し、正常の脳神経や、そのほかの臓器に障害を与えることはなかったのです。
このCD6の発現を採用した「新しい実験系」の成功の裏には、腫瘍血管細胞のALCAMとCAR-Tの結合によって生じるCD6の細胞内シグナル伝達によってCAR-Tの膜表面にLFA-1を増やす分子機構を用いたことがあるのです。LFA-1は、腫瘍血管細胞にあるICAM-1と結合することで、CAR-Tの変形を促し、血管内部から、血管外部への移動を可能にするのです。腫瘍血管のICAM-1は減少していましたが、 LFA-1の増加が、CAR-T細胞の中枢神経への到達を可能にしたと考えられました。
腫瘍血管特異的にCAR-Tを結合させる、つまりホーミング(帰巣する)システムの構築は、「腫瘍血管に目印になる分子を見つけること」が鍵です。今回、腫瘍血管に特異的に発現するALCAMを見出し、これを「目印」としました。同様にグリオブラストーマ以外の固形がんの腫瘍血管にある特異的な分子さえ同定できれば、それを目印に標的された固形がんの破壊を可能にするのではないでしょうか。
ただ、ヒトに安全に適用するためには、もうしばらくかかりそうです。特に、血液がんのCAR-T療法の際認められるサイトカイン放出症候群のような有害反応が、大規模に生じる可能性があることです。また、実際、グリオブラストーマ以外の腫瘍血管に目印となるような分子マーカーが同定できるかも判りません。グリオブラストーマにおけるALCAMを目印にしたCAR-T治療後、他臓器の障害が、長期的にも生じないのかどうか、さらに、固形がんについては、ヒトでは、効果が低いのではないか?との懸念もあります。
しかし、固形がんを標的にした、CAR-T治療の実現にむけ、いよいよ具体的に検証する段階に入ったのではないでしょうか。
文献1
Maude, S. L., Laetsch, T. W., Buechner, J., Rives, S., Boyer, M., Bittencourt, H., ... & Qayed, M. (2018). Tisagenlecleucel in children and young adults with B-cell lymphoblastic leukemia. New England Journal of Medicine, 378(5), 439-448.
文献2
Long, K. B., Young, R. M., Boesteanu, A. C., Davis, M. M., Melenhorst, J. J., Lacey, S. F., ... & Fraietta, J. A. (2018). CAR T cell therapy of non-hematopoietic malignancies-detours on the road to clinical success. Frontiers in immunology, 9, 2740.
文献3
Brown, M. H., & Dustin, M. L. (2019). Steering CAR T Cells into Solid Tumors. New England Journal of Medicine, 380(3), 289-291.
文献4
Samaha, H., Pignata, A., Fousek, K., Ren, J., Lam, F. W., Stossi, F., ... & Baker, M. L. (2018). A homing system targets therapeutic T cells to brain cancer. Nature, 561(7723), 331.
文献5
Major, E. O. (2009). Reemergence of PML in natalizumab-treated patients—new cases, same concerns. New England Journal of Medicine, 361(11), 1041-1043.
愛し野塾 第202回 炭水化物の「質」と疾病発症の関係
生命維持に必須な栄養素である「炭水化物」。一方でその過剰摂取、主にスクロースを主体とした糖分がもたらすネガティブな側面として、齲歯、肥満、2型糖尿病、心血管病発症などが、報告されてきました。2015年には、WHOは、砂糖の摂取を、全摂取カロリーの10%未満に制限するよう、勧告を発行しました。
一方で、バーキット博士らが、アフリカでの研究成果をもとに提唱している「炭水化物摂取による疾病誘発の原因には、精製炭水化物摂取偏重に伴う、食物繊維の摂取不足が介在する」という説が、注目されています(文献1)。いわゆる先進諸国における近年の大腸疾患の増加は、途上国であるアフリカに比較しても顕著であり、「その原因は、精製炭水化物の摂取が多いからである」、とするユニークな仮説です。その後、大腸疾患以外の多くの疾患群の発症においても、精製炭水化物が関与することを示す報告が相次ぎました(文献2)。2018年には、炭水化物摂取による疾病誘発のメカニズムは、糖質の過剰摂取というよりは、食物繊維の摂取不足によるものである、すなわち「糖質の質」の問題である可能性が高い、とした、論説がハーバード大学から発表されました(文献3)。
さて、白米は、玄米を精製してできますが、精製の過程で、食物繊維が減少します。白米摂取後、食後血糖の上昇は顕著ですが、玄米は、白米ほどではありません。食後の血糖の上がる程度を、グライセミックインデックス(GI)を用いて指数化すると、玄米のGIは、56、白米は80と大きな開きがあります。玄米も白米も、含まれている糖分は、ほぼ同じにもかかわらず、食後血糖の上昇が、玄米で少ない理由は、「玄米に含まれる高い食物繊維量にある」と考えられています。150グラムの白米と玄米を比較すると、ともに約250Kcalであるものの、食物繊維含有量は、白米の0.45グラムに対し、玄米では2.11グラムと、4.6倍もの差があるのです。同じカロリーの糖質を摂取するなら、食物繊維含有量の多い玄米のほうが、白米よりも、疾病予防に寄与する、というわけです。実際、各国の食事ガイドラインを見ると、未精製炭水化物である全粒穀物の摂取を推奨しているのもうなづけるところです。
さて、健康維持に最適な食物繊維摂取量は、判然としていません。科学的エビデンスが不十分であること、かつ、食物繊維摂取の指標は、「食物繊維摂取量」「全粒穀物摂取量」「GI」「グライセミックロード」など複数存在し、疾病抑止に最適な指標については、未だ不明瞭なままなのです。
さて、2019年1月10日「炭水化物摂取と疾病との関係について」質的観点から、問題解決に取り組んだ研究が、ランセットに発表されましたので、まとめたいと思います(文献4)。
<方法>
認知度の高い各国ガイドラインに従い、システマティックレビュー、メタ解析を行い、WHOの栄養ガイダンス専門委員会が選定したPICO(Population, Intervention, Comparison, Outcome)テーブルで定義されたアウトカムについて検討が行われました。また、炭水化物の質的検討は、食物繊維摂取、グライセミックインデックス、グライセミックロード、全粒穀物摂取の観点から行われました。
・前向き研究について
アウトカムは、全死亡、冠動脈疾患死亡、脳卒中死亡、冠動脈疾患発症率、脳卒中、2型糖尿病、大腸がん発症を評価した論文を対象としました。肥満に伴う発症頻度の上昇を認める、乳癌、子宮内膜がん、食道がん、前立腺がんなどについても検討を加えました。
・臨床研究
肥満、空腹時血糖、インスリン、インスリン感受性、HbA1c、中性脂肪、コレステロール、血圧を評価した「論文」を対象としました。食事性の評価については、少なくとも4週間の無作為割付けで検討した研究を対象とし、体重減少を目的とした研究や、食物繊維サプリを使った研究は、除外しました。また栄養素配分、運動などのライフスタイル因子について、コントロール群と介入群で、バランスが取れている研究を選択しました。
急性、慢性疾患に罹患していない成人、子供を対象としましたが、前糖尿病、軽症から中等症の高血圧、高コレステロール血症、メタボリック症候群の場合、罹患していても対象としました。アウトカムに影響を及ぼすと判断される薬物使用をしているかた、妊娠しているかた、授乳中のかた、摂食障害のあるかたについては、対象から除外しました。
質が高く、バイアスリスクが低い研究を担保するため、システマティックレビュー、メタ解析には、ROBISアセスメントツールを用い、前向き研究については、ニューキャッスル・オタワスケールを使用、臨床研究には、コクラン基準を適用し検討しました。研究資金はWHOによって提供されました。
<結果>
185本の前向き研究から1.35億人年、また、58本の臨床研究から4635人の成人を選出し、メタ解析をしました。子ども対象の研究は1本で、成人の研究とは分けて、解析が行われました。
・食物繊維の摂取量
食物繊維摂取量が多くなると、疾病リスクは、15%から31%低下することが判明しました。全死亡:15%低下、冠動脈疾患死:31%低下、冠動脈疾患発症率:24%低下、2型糖尿病発症:16%低下、直腸結腸癌:16%低下、がん死:13%低下し、収集されたデータは、中等度の質であると判定されました。データの質は低いと判定されましたが、脳卒中死:20%低下、脳卒中発症:22%低下を認めました。また、体重:0.37Kg減少、HbA1c:0.35%低下、総コレステロール:0.15mmol/L低下、収縮期血圧:1.27mmHg低下していました。
一日あたりの食物繊維摂取量と、全死亡、冠動脈疾患発症、2型糖尿病発症、直腸結腸がん発症、それぞれの関係を調査した結果、食物繊維摂取量の増加に伴って、いずれも容量依存性に低下を認め、25グラムから29グラム摂取で、最大の効果が得られることがわかりました。食物繊維摂取量が8グラム増えるごとに、全死亡は7%低下、冠動脈疾患は19%低下、2型糖尿病は15%低下、結腸直腸がんは 8%低下しました。
食物繊維を含む食品の違いや、食物繊維が水溶性か否かで結果に違いがあるかどうか検討した結果、前向き研究、および臨床研究の両方で、差異を認めない結果が得られました。
・全粒穀物摂取量
全粒穀物の摂取量が多いグループでは、13%から33%の疾病リスクの低下を認めました。全死亡:19%低下、冠動脈疾患死:34%低下、冠動脈疾患発症率:20%低下、2型糖尿病発症:33%低下、直腸結腸癌:13%低下、がん死:16%低下、脳卒中死:26%低下、脳卒中発症:14%低下していました。直腸結腸癌では、データの質は中等度を示し、それ以外は、全てデータの質が低いと判定されました。また、体重:0.62kg減少、HbA1c:0.54%低下、総コレステロール:0.09mmol/L低下、収縮期血圧:1.01mmHg低下していました。一日あたりの全粒穀物摂取量と、全死亡、冠動脈疾患発症、2型糖尿病発症、直腸結腸がん発症との関係を調べると、いずれの項目も容量依存性の低下を認め、全粒穀物摂取が15グラム増えるごとに、全死亡は6%低下、冠動脈疾患は7%低下、2型糖尿病は12%低下、結腸直腸がんは3%低下を示しました。
・GI
結果の「質」は、全死亡、冠動脈疾患発症、2型糖尿病発症、直腸結腸がん発症、脳卒中発症、脳卒中死、冠動脈疾患死、がん死のいずれにおいても、低い、あるいは、きわめて低いと判断されました。同様に、GIと、全死亡、冠動脈疾患発症、2型糖尿病発症、直腸結腸がん発症とのそれぞれの関係についても、いずれも容量依存性の変化を認めませんでした。体重は0.29Kg減少、収縮期血圧は0.17mmHgの減少で、得られた結果の質は高く、信憑性のあるものでしたが、食物繊維摂取量、全粒穀物摂取量に比較して、その効果は小さいと評価されました。
<コメント>
大規模メタ解析によって、「食物繊維摂取量の増加に伴って生じる全死亡の減少、冠動脈疾患、2型糖尿病、結腸直腸がん発症の低下」が明らかにされました。また、食物繊維の摂取は、体重、血圧、コレステロール値、それぞれの低下にも寄与していることが示され、疾病の発症抑制メカニズムに踏み込んだ結果が得られました。食物繊維の摂取容量依存性の効果が示されたこともまた、高い信頼性を担保する結果だと評価される所以でしょう。結腸直腸がん以外にも、乳癌及び、食道がんの発症抑制効果も判明し、あらゆるがんの発症予防への福音となるのではないでしょうか。
本研究の膨大なデータ解析から、推奨される食物繊維摂取量は、1日あたり25gから29gであることが示されました。日本政府は、約20gの食物繊維の摂取を薦めていますが、十分とはいえないかもしれません。2018年版国民栄養調査では、日本人平均食物繊維摂取量は、14.4gと報告されています。今後、積極的に食物繊維を摂取するよう努力が必要ですね。
さて、全粒穀物摂取でも食物繊維摂取と同様の良好な効果が認められましたが、食物繊維摂取ほどの高い相関はありませんでした。食物繊維を含む食品には、果物や野菜があるためではないか、と推察されます。今後、詳細の検討が加えられることを期待します。
さて、GIやグライセミックロードは、臨床的指標として、あまり有効でないこと、またそれは、2017年の論文内容(文献5)を支持する結果でした。しかし、これらの指標は「証拠に基づく医療」とは別に、メディアでの注目度が高く、日常臨床でも汎用されている点で、驚き、かつ、残念な気がします。一方で、今回の研究では、糖尿病や重症の高脂血症のかたが除外されていました。GI、及びグライセミックロードを用いたこれまでの臨床データから、これら指標から算出される食事療法を行えば、糖尿病や重症高脂血症患者にとって著しく有効である、という考え方を完全に否定するものではないでしょう。ただし、フルクトースやスクロース添加した食品や、飽和脂肪酸と炭水化物を両方含む食品(菓子類)はGIが低く出ることが知られています。GIは必ずしも万能ではないことを留意するべきでしょう。GIとグライセミックロードについては、さらなる検討が必要だろうと思います。
今回、炭水化物摂取量と疾病との関係については、検討されませんでした。炭水化物の「質か量か」どちらに、疾病対策を目的に重点を置くべきか、という問いに対する答えは、持ち越されました(文献6)。未だ、糖質制限食が席巻している現況をかんがみると、今後の検討は必須とされましょう。
さて、食物繊維25グラムの摂取とは、現実的に、どのような食事摂取によって可能なのでしょうか。食物100g当たりの食物繊維含有量は、納豆で6.7g、玄米で2g、バナナ1.1g、アーモンド10.4g、ほうれん草2.5gなどです。25g取るのは、なかなか至難の技ですね。食物繊維を増やすべく、時には主食の白米をやめ、玄米にする、また、豆類、野菜、果物のバランスの良い摂取を意識したいところです。また、今回の研究では、「加工食品」に含まれる食物繊維摂取についての検討は行われいません。「自然食品摂取に限った研究」であったことも、注意をしたいところです。
<文献>
1)Burkitt, D.P., Walker, A.R.P. and Painter, N.S., 1972. Effect of dietary fibre on stools and transit-times, and its role in the causation of disease. The Lancet, 300(7792), pp.1408-1411.
2)Aune, D., Keum, N., Giovannucci, E., Fadnes, L.T., Boffetta, P., Greenwood, D.C., Tonstad, S., Vatten, L.J., Riboli, E. and Norat, T., 2016. Whole grain consumption and risk of cardiovascular disease, cancer, and all cause and cause specific mortality: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective studies. bmj, 353, p.i2716.
3)Ludwig, D.S., Hu, F.B., Tappy, L. and Brand-Miller, J., 2018. Dietary carbohydrates: role of quality and quantity in chronic disease. BMJ, 361, p.k2340.
4)Reynolds, A., Mann, J., Cummings, J., Winter, N., Mete, E. and Te Morenga, L., 2019. Carbohydrate quality and human health: a series of systematic reviews and meta-analyses. The Lancet. pii: S0140-6736(18)31809-9. doi: 10.1016/S0140-6736(18)31809-9. [Epub ahead of print]
5)Clar, C., Al‐Khudairy, L., Loveman, E., Kelly, S.A., Hartley, L., Flowers, N., Germano, R., Frost, G. and Rees, K., 2017. Low glycaemic index diets for the prevention of cardiovascular disease. Cochrane Database of Systematic Reviews, (7). Cochrane Database Syst Rev. 2017 Jul 31;7:CD004467. doi: 10.1002/14651858.CD004467.pub3. Review.
6)Chambers, E.S., Byrne, C.S. and Frost, G., 2019. Carbohydrate and human health: is it all about quality?. Lancet. 2019 Jan 10. pii: S0140-6736(18)32468-1. doi: 10.1016/S0140-6736(18)32468-1.
愛し野塾 第201回 EPA摂取の心血管病予防効果の検証
<はじめに>
1978年、グリーンランドに居住するエスキモー最大の民族であるイヌイットの研究から、「オメガ3不飽和脂肪酸(EPAとDHA)が豊富に含まれる食物を摂取することで、心血管病予防効果が期待できる」ことが報告され、脂肪酸の健康に果たす役割の重要性が初めて認識されました(文献1)。約30年後の2009年には、日本のJELIS研究で、EPAを毎日1.8グラム摂取すると、心血管病が19%抑制されることが示され(文献2)、EPA摂取の重要性が確立しました。2010年の順天堂大学の研究で、世代ごとの血中赤血球のEPA、およびDHA濃度の調査から、高齢者に比較して若年者では、EPA・DHA濃度が有意に低く、さらにEPA・DHA濃度とインスリン抵抗性が逆相関することもわかり、若年者のEPA・DHAの摂取不足が、日本人の今後の寿命を短くするのではないか、と議論され、EPA・DHA摂取が強く推奨されるようになりました(文献3)。
ところが、2018年、EPA補充療法には、心血管病予防効果がない、との欧米の主張が相次ぎ(文献4、5)、EPAを補った場合の効用について、是か非かの論争がまきおこっていました。
これまでの各研究成果間に齟齬が生じた原因として、EPAの補充量が、論文ごとに違うことによるバイアス、また、魚摂取量の多い日本人は、EPAの血中濃度93μg/ml(文献2)と高値を示す一方で、魚摂取量の少ない欧米人では、EPA血中濃度はわずか26.1μg/ml(文献6)と、72%も低く、人種の違いによるEPA摂取量の違いが、バイアスになっている可能性が指摘されていました。
今回、その論争に終止符を打つ、インパクトのある論文がNEJMに2本発表(文献6、7)になりましたので、まとめたいと思います。REDUCE-IT研究とVITAL研究と呼ばれる大規模研究で、前者は、「EPA投与が心血管病予防に効果あり」との結論、後者は、「EPAが心血管病予防に効果なし」との結論です。
<対象と方法>
REDUCE―IT研究(文献6)
対象は、心血管病がすでにあるか、糖尿病をもつ人で、心血管病発症リスクが高いかたです。TGが135-499mg/dlの値を示し、LDL-Cは41-100mg/dlにスタチンでコントロールされていることを条件としました。心血管病の既往があるかたが70%含まれることから、いわゆる2次予防の研究と位置付けられました。米国、カナダ、オランダ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ人が、参加者の71%を占めました。対象者は、EPA1日4グラム投与群とプラセボ投与群(ミネラルオイル投与)に無作為に割り付けられました。
VITAL研究(文献7)
対象を、米国の男性50歳以上、女性55歳以上としました。ビタミンD摂取との関係も含めて精査をした研究です。高血圧治療中は、49.8%でした。心血管病既往のないかたの心血管病発症予防、1次予防と位置付けられました。
対象者は、EPA460mg,DHA380mg投与群とコントロール群(オリーブオイル投与)に無作為に割り付けました。
<結果>
[サイズ:2]REDUCE-IT、VITAL研究についての対象者、方法、結果の概要を表にまとめてました。
REDUCE-ITは、心血管病ハイリスクの方を対象としていること、VITALに比較してEPA投与量が多いことが特徴です。JELISについても、表に併記しましたが、JELISでもEPA投与量は、VITALよりも多く設定されていました。残念ながら、VITALでは、試験終了後のEPA濃度が不明ですが、REDUCE-ITでは、試験開始時EPA血中濃度が26.1μg/mlから試験終了時144μg/mlまで上昇していました。JELISでは、試験開始時96μg/ml→試験終了時169μg/mlとやはり上昇が見られました。
<心血管病リスクに対する効果>
REDUCE―ITでは、EPA投与群は、対照群に比較して、心血管病の発症が有意に25%低下していました。心血管病による死亡にも、EPA投与群は、対照群に比較して、20%有意に低下していました。EPAの心血管病リスク低下効果は、中性脂肪の初期値、EPA投与後の中性脂肪の値のいかんにかかわらず、同様に認められました。
一方、VITALでは、EPA投与群は、対照群に比較して、心血管病発症率低下は8%にとどまり、有意差はありませんでした。心血管病による死亡にも差はありませんでしたが、心筋梗塞発症、心筋梗塞による死亡では、EPA群で有意に良好な結果が得られました。
<コメント>
[サイズ:2]REDUCE―IT研究は、すでにスタチン投与により、LDL―Cが70台に低下させた患者を対象とした場合、EPA4グラム投与によって心血管イベントを25%も低下させたことは、大きな成果と評価されるでしょう。中性脂肪の初期の値、試験終了後の値の如何にかかわらず、EPA摂取効果を認めたことから、EPAの心血管病への良好な効果は、中性脂肪低下作用以外の要因による効果と考えられ、今後の研究による発症抑制効果のメカニズムの解明に期待がかかります。
VITAL研究は、EPA+DHA0.84グラム投与による心血管病予防効果が見られませんでした。しかし、心筋梗塞予防、心筋梗塞による死亡率の低減効果が示唆されました。
REDUCE―IT研究とVITAL研究の結果の差は、なぜ生じたのでしょう。
JELIS研究では、1.8グラムのEPA投与により、1次予防も2次予防も18−19%の心臓血管病リスク低下効果がありました。このデータをもとにして考察すると、VITAL研究がネガティブスタディーになった理由は、1次予防を主に対象にしたことが問題なのではなく、EPAの投与量が少なすぎたことが問題であった可能性が強く示唆されます。現在行われている米国、日本、ノルウエーの3つの臨床試験(文献8)により、この点の問題解決が図られることを期待します。また、REDUCE―IT研究で報告された有害事象の不整脈については、詳細な原因究明が必要でしょう。
今回の結果からは、高容量のEPA摂取効果が明らかにされました。EPAプラスDHAではどうなのか、米国、ノルウエーの研究での検証を期待したいと思います(文献8)。今回得られた研究成果から、心血管予防を目的にするには、EPAあるいは、EPAプラスDHAで1グラムの摂取では不十分で、「約2グラムの摂取を目指すことが必要」であることがわかりました。青魚摂取への意識を高め、料理方法を工夫して、毎日食べることを習慣づけることが大切と考えられますね。
文献1
Dyerberg, J., Bang, H. O., Stoffersen, E., Moncada, S., & Vane, J. R. (1978). Eicosapentaenoic acid and prevention of thrombosis and atherosclerosis?. The Lancet, 312(8081), 117-119.
文献2
Yokoyama, M., Origasa, H., Matsuzaki, M., Matsuzawa, Y., Saito, Y., Ishikawa, Y., ... & Kita, T. (2007). Effects of eicosapentaenoic acid on major coronary events in hypercholesterolaemic patients (JELIS): a randomised open-label, blinded endpoint analysis. The Lancet, 369(9567), 1090-1098.
文献3
Yanagisawa, N., Shimada, K., Miyazaki, T., Kume, A., Kitamura, Y., Ichikawa, R., ... & Sumiyoshi, K. (2010). Polyunsaturated fatty acid levels of serum and red blood cells in apparently healthy Japanese subjects living in an urban area. Journal of Atherosclerosis and Thrombosis, 17(3), 285-294.
文献4
Aung, T., Halsey, J., Kromhout, D., Gerstein, H. C., Marchioli, R., Tavazzi, L., ... & Chew, E. Y. (2018). Associations of omega-3 fatty acid supplement use with cardiovascular disease risks: meta-analysis of 10 trials involving 77 917 individuals. JAMA cardiology, 3(3), 225-234.
文献5
ASCEND Study Collaborative Group. (2018). Effects of n− 3 fatty acid supplements in diabetes mellitus. New England Journal of Medicine, 379(16), 1540-1550.
文献6
Bhatt, D. L., Steg, P. G., Miller, M., Brinton, E. A., Jacobson, T. A., Ketchum, S. B., ... & Tardif, J. C. (2019). Cardiovascular risk reduction with icosapent ethyl for hypertriglyceridemia. New England Journal of Medicine, 380(1), 11-22.
文献7
Manson, J. E., Cook, N. R., Lee, I. M., Christen, W., Bassuk, S. S., Mora, S., ... & D’Agostino, D. (2019). Marine n− 3 fatty acids and prevention of cardiovascular disease and cancer. New England Journal of Medicine, 380, 23-32.
文献8
Ganda, O. P., Bhatt, D. L., Mason, R. P., Miller, M., & Boden, W. E. (2018). Unmet need for adjunctive dyslipidemia therapy in hypertriglyceridemia management. Journal of the American College of Cardiology. Jul 17;72(3):330-343.
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