2019/05/07
愛し野塾 第200回 「動脈硬化」の視覚化が治療効果を促す
生活習慣の乱れが、積み重なって発症するあらゆる疾患の中で、心血管病の発症はその中心と言っても過言ではありません。医療経済学の視点から、心血管病の代表疾患である、脳血管障害に年間1兆7730億円、虚血性心疾患に年間7503億円が費やされています(平成25年度の統計)。健康的な自立した生活を継続するためにも、また国家予算を圧迫しないためにも、予防策を確立することは喫緊の課題です。
心血管病の予防策として、「禁煙、運動、スタチン服薬、降圧剤服薬を遵守すること」は長く掲げられて参りました。しかし、言うは易く行うは難し、現状では、「喫煙しているかたが禁煙に転じること」、「セダンタリーな生活を送っている方が、立位中心の動的な生活を行うこと」、「運動をしても高コレステロール血症が是正されないかたが、スタチン服薬をすること」、「運動、減塩をしても血圧が高いかたが、降圧剤を適切に服薬する」といった持続的な行動変容を実現するためには、患者さんだけでなく、それを促すべき医師の側にも、高い壁があり、治療開始にあたっては、高いモチベーションが必要であることが示されています。
欧米で行われている積極的な取り組みとして、コレステロール値や、血圧値,喫煙状況などの数値から簡便に算出可能なFRS(フラミンガム・リスク・スコア)やSCORE(European systematic coronary risk evaluation)があり、そうしたツールを用いて、将来の動脈硬化発症のリスクを正確に指摘し、患者自身の意識向上を図り、治療意欲を高めようとしてきました。
さて、一方で、FRSやSCOREが異常範囲に到達しても、予防策にまでは至らないという実態が報告されるようになりました。たとえ数値に異常があっても、たった今、実際に動脈硬化があるのか、それともないのか、が判然としないことが原因として指摘されています。そこで、医師、そして患者の双方のモチベーションを上げるには、動脈硬化の進行があるのかどうか、画像を用いて視覚的に認識してもらうことが有効かもしれないと提案されました。動脈硬化は、頸動脈のエコーで、簡便かつ安価に調べることができます。しかし、その後、動脈硬化を示す画像データの利用は、治療意欲をあげる、もしくは意欲をあげる効果はない、という両方の結果が報告され、混乱を来たしていました(文献1、2)。今回、この議論について、大規模、かつ精密に、無作為対照試験が行われ、良好な結果が得られましたので報告します。論文は、平成30年12月3日に、スエーデンのグループが「ランセット」に報告しました(文献3)。
<方法>
住民の心血管病スクリーニングと予防を目指し、1990年代に開始された「ヴァスターボッテン・介入プログラム(VIP)」の一部として、「最適な心血管病予防に必要な無症候性動脈硬化症可視化研究(VIPVIZA)」がスウェーデンで施行されました。まず、ヴァスターボッテンの住民全員に、封書で、40歳、50歳、60歳の段階で、心血管病リスク因子のスクリーニングデータの記載、健康的な生活を促進するための意欲を持たせる面接、ガイドラインに基づく薬物療法への参加を呼びかけました。一年に6500人から7000人の住人からのレスポンスがあり、2007年から2016年の間、参加率は全住民の68%におよび、対象者選択バイアスは小さいものと見積もられました。
VIPで行われる個人面談の際、VIPVIZAへの勧誘が行われ、承諾者は、スエーデンの3地区で専門技師による頚動脈超音波検査が施行されました。血管年齢を算出しグリーン(プラークなし、10歳若い)、レッド(プラークあり、10歳年寄り)などと、色分けされました。
<介入群> 介入群に割り付けられた患者には、エコー画像、血管年齢説明図、健康的生活や薬物療法による治療効果、心血管病予防についての概略が説明されました。医者にも同様の説明がありました。2-4週間後にさらに、患者には、試験参加ナースによるコンタクトがあり、結果内容について再確認しました。さらに6ヶ月後にも、試験参加ナースによる結果説明をしました。
<コントロール群> 対照群には、画像診断は施行はしたものの、医師、患者の双方へ説明hされませんでした。
VIPVIZA参加条件は、1)40歳の場合、60歳以下の一等親血縁者の心血管病の家族歴があること、2)50歳の場合、少なくともひとつの心血管病のリスク因子があること(喫煙、糖尿病、高血圧、LDL-Cが180mg/dl以上、男性腹囲102cm以上、女性腹囲88cm以上、60歳以下の一等親血縁者の心血管病の家族歴)、3)60歳であること、でした。
除外条件は、(1)頸動脈エコーで、50%以上の狭窄があること、(2)他の研究に参加中、あるいは研究のプロトコールを破った場合、としました。両群ともに、心血管病のガイドライン下で治療が施され、治療には、ヘルスケアセンターの医師とナース以外は、試験参加チームによる関与はありませんでした。
<結果>
2013年から2016年の間に登録された3532人が、コントロール群1783人、介入群1749人に、無作為に割り付けられました。3175人が、1年後のフォローアップ精査を受けました。
試験開始時のFRSの平均値は、介入群、コントロール群とも12.9%(FRSが20%を超える心血管病リスクがハイリスクと推定されるかたは、全体の18%を占めました)、SCOREは、1.27~1.29点(5点を超えるハイリスク以上ものは、2%)でした。44%~46%のかたにプラークを認め、IMTの平均は、0.77mmでした。IMTから計測された血管年齢のレッド群(実年齢よりも10歳以上血管年齢が高い群)は、全体の43%を占めました。糖尿病は5%、高血圧は、51%~53%、LDL―Cは、3.55~3.57mmol/Lでした。
介入群の1年後のFRSは、12.24%、コントロール群は13.31%で、介入による有意な低下を認めました(P=0.0017)。1年後のSCOREは、介入群1.42、コントロール群1.58で、介入による有意な低下を示しました(P=0.0010)。性別、教育歴の検討から、男女差を認めず、教育歴とは無関係に、同じ結果が得られることがわかりました。
介入によるFRSに及ぼす影響を検討した結果、ハイリスクグループにおける顕著なFRS低下を認め、FRSで20%以上を示した症例では、介入群で3.42低下、コントロール群で1.26低下しました。SCOREも同様の結果を認め、SCOREによって分類されたハイリスク群では、介入群で2.38低下、コントロール群で0.48上昇しました。
総コレステロール、及びLDL―Cは、介入群、コントロール群、ともに低下を認め、年齢、性別、教育歴による補正後の分析から、介入群の有意な低下を認めました。コントロール群に比較すると、介入群では、有意な脂質降下剤使用を認め、統計的有意差はないものの、収縮期血圧、HDL―C、体重、腹囲、喫煙のそれぞれの項目でも介入群は、コントロール群に対して良好な効果を示しました。
FRSとSCOPEに対して、最も介入の効果を認めたコントロール群は、エコー検査の結果、動脈硬化が最も進んだかたでした。
<コメント>
今回、精度の高い条件下で「画像を用いた動脈硬化の説明が、患者・医師双方の行動変容につながり、治療に意欲的になる」という可能性が示され、日常臨床に大きなインパクトを与えました。血管が動脈硬化を起こし、血管年齢が実際の年齢よりも老化しつつあることを認識することで、医師も患者も、治療の実現に積極的になる、ということでしょう。この研究で判明した「FRSやSCOPEの値が比較的低くても、動脈硬化の比率が極めて高い方がいること」は特筆されるべき点です。高コレステロール血症、高血圧などを検出したら、即、頚動脈エコーをする意義が高まったと感じました。
さて、この研究の問題点は、試験期間は十分な長さとは言えないこと、エンドポイントがFRSやSCOPEに設定され、心筋梗塞や、脳卒中といったハードエンドポイントになっていなかったことです。より長期のハードエンドポイントも評価する研究の施行が期待されます。
CTやMRI検査が身近になり、動脈硬化の診断も急速に進歩しましたが、これらの検査は、高価で、検査受諾への説得も簡単ではない上、放射線被爆、造影剤アナフィラキシーなどのリスクが付きまといます。エコーは安全で安価、簡便な検査です。日常診療に汎用され、ますます、早期発見・早期治療の実現の味方となるのではないでしょうか。
文献1Impact of carotid plaque screening on smoking cessation and other cardiovascular risk factors: a randomized controlled trial.
Arch Intern Med. 2012; 172: 344-352
文献2Impact of carotid atherosclerosis detection on physician and patient behavior in the management of type 2 diabetes mellitus: a prospective, observational, multicenter study.
BMC Cardiovasc Disord. 2016; 16: 220
文献3Lancet. 2018 Dec 3. pii: S0140-6736(18)32818-6. doi: 10.1016/S0140-6736(18)32818-6. [Epub ahead of print]
Visualization of asymptomatic atherosclerotic disease for optimum cardiovascular prevention (VIPVIZA): a pragmatic, open-label, randomised controlled trial.
愛し野塾 第199回 グルテンフリーの功罪
グルテンフリー食品(GFD)は、過去30年の間に、セールスが劇的に増え、2016年の米国のマーケットサイズは、2兆円にも達する勢いで、2011年の2倍と算出されています。ソーシャルメディア、新聞などの既存のメディアによる宣伝が功を奏したことが、旋風を引き起こしたと考えられています。免疫が関与する炎症性疾患としての、セリアック病や、グルテン・アタキシアは、グルテンフリー食品の恩恵を浴するのはよく知られており、こうした疾患では、グルテン・タンパクに対する免疫異常により、小腸の粘膜や、小脳のプルキンエ細胞が攻撃を受けることが知られています。小麦アレルギーにもグルテンが関与していることが知られています。しかし、セリアック病、グルテン・アタキシア、小麦アレルギーは希少疾患であり、人口の1%未満と推定される一方で、グルテンに対する免疫異常を示さない大多数のひとが、グルテンフリー食品に夢中になっている現状を鑑み、こうした健康なかたがたへのグルテンフリーの影響について、研究の進展が認められる様になりました。
過敏性腸症候群(IBS)患者は、食事性の影響が顕著である一方で、特に、FODMAPS(脂質、炭水化物、グルテン、などが少ない食事)でその症状が抑制されることが報告されています。そして、セリアック病に罹患していないにもかかわらずIBS様症状を呈する方が、小麦、ライ、大麦のような穀類を食すると、腹痛、腹満、便通異常、倦怠感が生じることがわかってきました。グルテンを食すると、IBS様の症状を呈すること、グルテンフリー食品で症状が改善すること、そして、セリアック病や小麦アレルギーがないこと、といった条件を満たすかたは、総称して非セリアック病グルテン過敏症(NCGS)と診断されるようになりました。
さて、一方で、グルテンを避けることで将来に発症しうる病気を予防できる、と信じているかたは、多くの場合、セリアック病、小麦アレルギー、グルテン・アタキシアに罹患しておらず、NCGSも認めず、PWAG(people who avoid gluten:グルテンを避ける人)と呼ばれています。ただし、PWAGには、NCGSも含まれる場合があります。2009年から2014年の間に行われた米国の疫学調査では、5年間の調査期間中にセリアック病の有病率は変化がないにもかかわらず、PWAGの人数は、3倍に上昇しました。GFDを摂取しているかたの72%がPWAGとされます。また、NCGSの有病率は、0.6%から13.0%と考えられており、PWAGのかたのほとんどは、グルテン過敏症ではないと考えられ、グルテンを避ける必要が本当にあるのかどうか、疑問視されています。
グルテンは、プロラミンと呼ばれる一群のタンパクで、主に、グルテニンとグリアジンから構成されます。グルテンは、美味な生地の基礎となるもので、パン製品を作る上で欠かせません。構成アミノ酸にプロリンとグルタミンが多いため、小腸での消化吸収は円滑に進まず、グルテン関連疾患を引き起こす原因になると推定されています。また、遺伝的な背景として、HLA―DQ2の関連が知られています。さらに、アルファ2グリアジンは、トランスグルタミネースによる切断を受け、生成された57-89アミノ酸は、T細胞を刺激することも知られるようになりました。同様のメカニズムを介して、別のグルテンペプチドも、免疫活性化を引き起こし、グルテン関連疾患を招来していることが推測されています。
さて、問題は、遺伝子改変植物の生成過程で、新しい腸内抗原が作られることで、小麦のグルテニンとグリアジン、ライのセカリン、大麦のホルデインは、セリアック病を惹起する新たな抗原のソースになることが危惧されています。また、グルテン過敏を来たすメカニズムとして、グルテンを含む小麦などの、比較的新規の穀物に対して、腸が適正な消化機能を発揮するまでには、腸自身が進化、成熟しきれていないという仮説があります。疫学的には、セリアック病とNCGSでは、グルテンに対する反応が異なる可能性も指摘されています(文献1)。
<グルテンとIBS>
2016年、下痢型IBSの患者41人に対して、栄養士の指導下で6週間のGFD投与を行った研究がアジズ博士らによって発表されました。IBS重症度スコアが50ポイント以上改善した割合は、71%に及び、さらにHLA-DQ2/8陽性者は、うつ症状や活動性の改善を認めました(HLA-DQ2/8陰性者と比較)。研究終了後18ヶ月後に至っても、73%の患者で臨床的改善を示しました。IBSの方には、GFDの摂取が有効であること、また遺伝的背景がその病態に関与している可能性が示されました(文献2)。
<NCGS>
2018年フランカビラ博士らは、消化器症状があるが、セリアック病や小麦アレルギーのない1114人に対して、グルテン添加し、グルテン感受性を調べたところ、わずか36人のみが、グルテン感受性を有することがわかりました。確かにNCGSは存在するものの、比較的、NCGSの頻度は少ない可能性が示唆されました(文献3)。
<統合失調症などの病態>
統合失調症で認めた高い抗グリアジン抗体の検出頻度から、統合失調症とグルテン摂取との関連が長らく疑われていました。しかし、2017年のメタ解析以降、統合失調症と、セリアック病、抗グリアジン抗体、グルテン制限による症状軽減効果との因果関係は薄いとして、この仮説は正しくない可能性が高くなっています(文献4)。そのほか、アトピー、線維筋痛症、子宮内膜症、骨盤痛などもグルテン感受性との関連が疑われていますが、その根拠に関しては今後の検討を待つ状況です。
<PWAG>
一般的に、PWAGは、GFDは、西洋食に比べ健康によい、体重減少が期待できる、という信念を持っている、といわれています。実際、2017年に発表された、2009年から2014年までのNHAENESの解析から、1年間GFDを実践した結果、体重、腹囲が減少し、HDL-Cが上昇することが示されました(文献5)。その一方で研究のバイアスとして、後ろ向きの研究であったことや、わずか1.3%のかたがGFDを施行していたに過ぎなかったこと、ほとんどのGFD施行者が、そもそも健康意識の高い女性であったことなどが挙げられています。
<GFDの問題点>
2005年、米国のトンプソン博士らによって行われた、セリアック病患者47人にGFDを摂取させた調査から(文献6)、カルシウム、鉄、ファイバーのそれぞれについて、推奨される摂取量に到達していたのは、男性では、63%、100%、88%であったのに対し、女性では、それぞれわずか31%、44%、46%と、摂取不足が指摘されました。また、別の研究からは、脂質、トランス脂肪酸、タンパク、塩分の摂取量が、GFDで多くなる傾向が示されています。実際、血中総コレステロールが高くなる可能性も指摘されています。
2017年BMJで発表された、ヘルスプロフェッショナル・フォローアップ・スタディーとナース・ヘルス・スタディーとを統合した、前向きの食事質問票を用いた検討(男性45303人、女性64714人)では、グルテン摂取量を、多い、中くらい、少ない、の3グループに分け、それぞれの冠動脈疾患のリスクを検討した結果(文献7)、グルテン摂取が少ないと、冠動脈疾患が増える傾向が示されました。グルテン摂取を避けると同時に、健康によいといわれてきた全粒食物の摂取が減るためではないかと推察されています。また、GFDは、グルテン含有の食品に比べて、値段が205%から267%程度高いと試算されています。加えて、GFDを追求するあまり、家庭で食事をする機会が増え、社会性を失い、強迫性障害に至る可能性も指摘されています。
<コメント>
グルテンフリー食品への注目が高まる一方で、必ずしも、全ての人に推奨されるものではないこともまた、わかってきました。特に、冠動脈疾患を指摘されているかたは、研究の動向次第では、再確認する必要があるでしょう。また、有効性が示されているIBS、NCGSのかたでも、グルテンフリー食品摂取の健康上の利益について詳らかにすべく、より大規模に、前向きに、かつ長期の研究が行われることが期待されます。また、GFDで認めたカルシウム、鉄、ファイバーの不足の可能性から、こうした物質をより多く含んだGFDが作られることが必要となるように思われます。
遺伝子組み替え食品とセリアック病の悪化、またIBSの症状を呈する新規の病態に発展させないよう、食品への監視体制も重要と感じられます。
長期的には、グルテン感受性の評価の簡便化など方法論の確立、またGFDの効果を認める個々の症例を特定する技術開発も必要ではないかと思いました。
文献1
Gastroenterol Hepatol (N Y). 2018 Feb;14(2):82-91.
Health Benefits and Adverse Effects of a Gluten-Free Diet in Non-Celiac Disease Patients.
文献2
Aziz, I., Trott, N., Briggs, R., North, J. R., Hadjivassiliou, M., & Sanders, D. S. (2016). Efficacy of a gluten-free diet in subjects with irritable bowel syndrome-diarrhea unaware of their HLA-DQ2/8 genotype. Clinical Gastroenterology and Hepatology, 14(5), 696-703.
文献3
Am J Gastroenterol. 2018 Mar;113(3):421-430. doi: 10.1038/ajg.2017.483. Epub 2018 Jan 30.
Randomized Double-Blind Placebo-Controlled Crossover Trial for the Diagnosis of Non-Celiac Gluten Sensitivity in Children.
文献4
Brietzke, E., Cerqueira, R. O., Mansur, R. B., & McIntyre, R. S. (2018). Gluten related illnesses and severe mental disorders: a comprehensive review. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 84, 368-375.
文献5
Kim, H. S., Demyen, M. F., Mathew, J., Kothari, N., Feurdean, M., & Ahlawat, S. K. (2017). Obesity, metabolic syndrome, and cardiovascular risk in gluten-free followers without celiac disease in the United States: results from the National Health and Nutrition Examination Survey 2009–2014. Digestive diseases and sciences, 62(9), 2440-2448.
文献6
Thompson, T., Dennis, M., Higgins, L. A., Lee, A. R., & Sharrett, M. K. (2005). Gluten‐free diet survey: are Americans with coeliac disease consuming recommended amounts of fibre, iron, calcium and grain foods?. Journal of Human Nutrition and Dietetics, 18(3), 163-169.
文献7
Lebwohl, B., Cao, Y., Zong, G., Hu, F. B., Green, P. H., Neugut, A. I., ... & Willett, W. C. (2017). Long term gluten consumption in adults without celiac disease and risk of coronary heart disease: prospective cohort study. bmj, 357, j1892.
愛し野塾 第198回 フレイル予防のための早期介入の有効性
2014年に日本老年医学会によって提唱された「フレイル」と呼ばれる新しい概念は、すなわち、加齢に伴って罹患しやすくなる慢性疾患などを契機に、運動機能及び認知機能などの心身の活動低下や生活機能の低下、などの脆弱性が高まった状態を意味しますが、重要なポイントは、適切な介入や支援によって、予防できること、また健康な状態へ戻る可能性がある点です。日本の診断基準は、(1)体重減少(意図しないもので、年間4.5Kgから5Kg以上の減少)、(2)疲れやすい(週に3-4日以上感じる)、(3)歩行速度低下、(4)握力の低下、(5)身体活動量の低下で、3項目以上が当てはまる場合です。1-2項目だけの場合は、プレフレイルと定義されます(文献1)。
わが国人口のうち、フレイルに該当する割合は、2013年の65歳以上の調査で、11.5%、80歳以上に限ると34.9%に増加します(文献2)。ヨーロッパの報告では、65歳以上のフレイル人口は17%、プレフレイルは42.3%、女性により多いと発表されています(文献3)。
フレイルになると、肺炎、転倒、骨折、入院、寝たきりになるリスクが増え、死亡率も高くなります。フレイルは、加齢とともに減少する食事量から低栄養状態に至り、筋肉量が減少することに原因があると考えられています。したがって、並存する慢性疾患のコントロールはもちろん、感染症対策をとりながら、いかに筋肉量を維持していくかが治療の重要なポイントになります。昨今耳にするレジスタンストレーニングやアミノ酸摂取の推奨は、それが所以ですね。一方、別の考え方として、フレイルは、多数の疾患によってもたらされた、障害の積算であるとする説があります。この場合最優先となるのは、疾患対策となります。
さて、フレイル予防の観点から、市民の中から、プレフレイルのかたをいち早く見つけ出し、介入することの重要性が提唱されるようになりました。今回、「栄養、運動、ポリファーマシー、社会とのつながり」の4点に注目し、プレフレイルのかたをフレイルにしない試みが行われ、良好な結果が得られましたので報告します(文献4)。
<対象>
施設に入所していない80歳以上の一般市民のうち、バルセロナのボレルPHCに属している32,621人のうち、プレフレイルの条件を満たしている方を対象としました。除外条件は(1)進行した認知症、(2)緩和ケアを受けている、(3)余命が6ヶ月未満、(4)コントロール不能の狭心症など容態が不安定、(5)フレイルと診断されている、(6)慢性の重篤な病態がある、(7)車椅子、(8)盲目、(9)別の臨床試験に登録されている、でした。
<方法>
参加者は、2重盲検法によってコントロール群と介入群に割り付けられました。介入群は、問診から、5種類以上の投薬をされている場合、無駄な投薬がないかどうか検討されました。次に、地中海食の専門家が、食事療法の指導をグループレッスンで行いました。引き続き行われた運動指導の詳細は、(1)エアロビック運動で、週に3日以上、30-60分歩行。(2)筋力、レジスタンス、バランス、協調をつける運動、週に3-4回。10回の反復から徐々に回数をあげ、15回までの反復、でした。
最後に、個人のおかれた社会的状況、プライベートな状況の把握、社会からの援助の状態の把握をしました。遠隔診療用の通信機器設置についても、介入の一部として検討しました。
<評価項目>
バースルインデックス法によって、日常生活の活動性を評価しました(100点:自立、60点以上:やや介助を要する、40-55点:中程度に介助を要する、20-35点:重度に介助を要する、20点未満は、完全介助)。身体機能テストは、TUG(タイムアップアンドゴー)テスト(10秒以下は、正常、11秒以上で転倒リスクあり)で評価し、転倒リスクはFTSST(11以下で適正、13.6以下で正常、13.7から16.6で、転倒リスクあり、16.7以上でフレイル)によって評価しました。
<結果>
2373人の中から、条件適合者200人が抽出され、介入群と非介入群にそれぞれ100人ずつ無作為に割り付けました。対象者の平均年齢は84.5歳、女性は、64.5%、教育レベルは、大卒19.5%、高卒41.5%、中卒39%、婚姻39%、配偶者との死別45.5%、単身9.5%、離婚8%、介護者がいるかた8%、喫煙しない68.5%、喫煙している5%、禁煙した26.5%、糖尿病25.5%、高血圧73%、脂質異常51%、COPD12%、骨粗鬆症35%、心不全2%、虚血性心疾患9.5%、不整脈16.5%、難聴51%、ポリファーマシー71.5%、便秘28%、うつ病18%、不眠38.5%、認知機能低下5.5%で、介入群と非介入群の間の特徴に、差はありませんでした。
<介入群>
運動のグループセッションの参加数は88人で、5回以上参加した方は、52人でした。地中海食のグループセッションの参加数は51人でした。社会とのつながりの介入として、遠隔診療用機器の設置をしたのは、64人でした。ポリファーマシーを72人に認め、不適切な処方と判断された62人のうち、30人が処方変更に応じました。
12ヶ月の試験期間を完遂したのは、全体の86.5%、介入群85人、非介入群88人でした。介入群では、フレイルの5項目について、試験開始時と12ヶ月後で、有意に変化している項目はありませんでしたが、非介入群では、3項目でおおよそ2倍の有意な悪化を認めました。すなわち、(1)疲労感を感じるひとの割合が、28.4%から59.1%に増加(P<0.001)、(2)歩行速度の低下が10.2%から22.7%に増加(P=0.01)、(3)身体活動の低下が10.2%から21.6%に増加(P=0.024)でした。
介入群では、非介入群に比較して有意に改善していた項目は、バースルインデックスを用いた機能評価(94.9から96.2へ増加(P=0.001))、地中海食へのアドヒアランス(7.8から8.2へ増加(P=0.011))、生活の質(7.1から6.2に改善(P<0.001))、TUG(13.4から12.4に改善(P=0.004))、FTSST(19.6から17.0に改善(P<0.001))でした。
<フレイルへの進行抑止>
試験期間中、フレイルと評価されたのは28人、内訳は、非介入群の23.9%、介入群の8.2%でした。非介入群は、介入群と比較すると、2.9倍のフレイルリスクを認めました。12人のかたが、プレフレイルから正常に戻りました。内訳は、非介入群1.1%、介入群14.1%で、介入によって有意な回復を認めました(P<0.001)。女性であること、配偶者と死別をした経験があることが、フレイルになるリスク因子であることもわかりました。両群間で、併発疾患の差はありませんでした。
フレイルに進行することで、全般的な機能状態悪化(OR1.19)、自立度低下(OR2.98)、栄養状態悪化(OR1.25)、生活の質悪化(OR1.98)、社会とのつながりの低下(OR1.35),歩行能力悪化(OR1.33)が認められました。
<コメント>
超高齢社会を迎えた今、健康寿命を伸ばすことの重要性は言うまでもありません。フレイル予防の観点から、ポリファーマーシーの改善、運動促進、地中海食の推奨、地域社会とつながりを重視し孤立を防ぐことで、プレフレイルからフレイルに移行することを、予防できる可能性が示された意義は大きいでしょう。今後、より大規模な研究によって、再現性が認められることを期待します。
本研究で認めた途中離脱者が13.5%と、予想されていた9%を超えていたことは懸念されます。今後、ドロップアウトを減らす方法の改善が望まれます。
フレイルの定義は、未だ国際的に統一されておらず、各研究間で検証方法が定まっていません。また、本研究では、80歳以下のかたは対象から外されていました。より汎用性のある結果を得るには、フレイルそのものの評価方や評価基準について、国際的な統一が必要でしょうし、対象年齢についてもより若い年齢層への拡大も必要だ思います。本研究の介入期間1年は短かいと言わざるをえず、今後は、より長期の検討を要するでしょう。また、非介入群は、通常のケアを受けていたこと、研究者は、介入群と非介入群の割り付けを患者ごとに認識していたことは、バイアスになっていないとは言えません。今後、こうしたバイアスを是正し、厳正な調査方法をとる必要があるのではないでしょうか。
いずれにせよ、プレフレイルの早期発見のための新規検診事業を実践し、多剤服用の是正、運動促進、地中海食の摂取、社会との繋がりの確保を行う努力を今すぐにでも 始める必要性を実感させられた調査結果であったことは、まちがいないと感じています。
文献1 https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/review_51_6_497.pdf
文献2
https://www.almediaweb.jp/news/ac20160719_01.html
文献3 Santos-Eggimann, B., Cuénoud, P., Spagnoli, J., & Junod, J. (2009). Prevalence of frailty in middle-aged and older community-dwelling Europeans living in 10 countries. The Journals of Gerontology: Series A, 64(6), 675-681.
文献4 Gené, L. H., Navarro, M. G., Kostov, B., Ortega, M. C., Colungo, C. F., Carpallo, M. N., ... & Sisó-Almirall, A. (2018). Pre Frail 80: Multifactorial Intervention to Prevent Progression of Pre-Frailty to Frailty in the Elderly. The journal of nutrition, health & aging, 22(10), 1266-1274.
愛し野塾 第197回 肥満とガン
2018.12.9
過体重や肥満として診断される人は、世界で19億人といると試算されています。肥満がもたらす健康への不利益は、もはや明白です。2型糖尿病や心血管病発症に関与し、最近では、がんや感染症のリスク因子でもあると指摘されています。例えば、「肥満」因子が発症原因に占める割合が49%に至るがんの存在も示されています(文献1)。一方、バリアトリック(胃の容積を縮小させる外科術)による減量に伴って、がんリスクも減少することが、報告されています(文献2)。このように「肥満とがん」の間には密接な関係があるにも関わらず、そのメカニズムは、免疫機能不全の観点から注目されてはいるものの、解明には至っていませんでした。例えば、肥満によって生じるナチュラルキラー(NK)細胞の機能低下によってがん及び、感染症発症抑制の効果が弱まる、という推測があります。がん細胞と接触し活性化したNK細胞では、そのエネルギー産生系は、酸化的リン酸化から解糖系へシフトし、がん細胞殺傷効果がもたらされます。
今回、ハーバード大のミシュレット博士らによって「肥満は、NK細胞での脂肪の取り込みを促進させ、解糖系へのシフトを抑制させる」という仮説が検証され、興味深い知見が得られました。論文は、Nature Immunologyに発表されました(文献3)。
<肥満マウスの遺伝子解析>
高脂質食を1週間、あるいは8週間連続的に投与されたマウスと、標準食を与えたマウスそれぞれのNK細胞を遺伝子解析をしました。高脂食摂取マウスでは、1週間後で107個、8週間後で3000個の遺伝子発現の増加を認めました。肥満マウスの脂質代謝に関与する遺伝子の増加を認め、特に、ldlr、Cd36、FABP、Cpt1bの増加が顕著でした。Prf1(パーフォリン)とグランザイム遺伝子は、有意に低下していました。遺伝子パスウエイ解析の結果、最もダウンレギュレーションを受けていたのは、細胞毒性を示す経路、また、mTOR経路の低下も認めました。アップレギュレーションされていたのは、PPARα/δシグナリングとグライセロリピッド代謝経路でした。すなわち、高脂食摂食マウスでは、血中FFAの増加によって、FFAをリガンドとするPPARα/δのシグナルが活性化し、がん殺傷に必要なNK細胞の細胞毒性惹起マシーナリーの機能不全が生じる可能性が示されました。
<肥満ヒトNK細胞>
マウスで認められた現象が、ヒトでも同様に生じるのか、フローサイトメトリーとELISAを用いた実験によって分析されました。肥満者及び、非肥満者からNK細胞を採取・精製し比較した結果、肥満者の循環血漿中NK細胞数は、より少ないこと、インターフェロンγの産生量も少ないこと、かつ腫瘍細胞の殺傷効果も小さいことが明らかになりました。肥満者のNK細胞膜表面のCD36発現量は多いことから、PPARα/δ経路の活性化が示唆され、マウス実験の結果と一致しました。また、グランザイム、パーフォリンの発現量は減少していました。肥満者NK細胞への脂肪滴の取り込みが証明され、脂肪の細胞内蓄積による細胞障害機能不全の可能性が示唆されました。
<ヒトでは、脂肪取り込みはNK細胞機能を抑止する>
肥満者では、マウス同様に循環血液中のFFAの増加を認め、特にパルミチン酸の増加が顕著でした。非肥満者のNK細胞を、FFA(パルミチン酸かオレイン酸)存在下に培養した結果、培養液中のFFAは、細胞内へ取り込まれました。細胞内に脂肪滴を認めたNK細胞では、パーフォリン粒子が欠失していました。脂肪滴の増大に伴いパーフォリン含有量は減り、脂肪滴の減少に伴い、パーフォリン含有量の増加を認めました。フローサイトメーターによる細胞分析から、あらかじめFFAを処理した結果、NK細胞でのグランザイムとパーフォリンの減少を認め、NK細胞への脂肪蓄積が、抗腫瘍効果を低減させることが判明しました。NK細胞を高濃度グルコース、及びインスリンで処理してもFFA処理時と同様の現象を認めず、脂肪滴の蓄積、パーフォリンやグランザイムの減少、抗腫瘍効果の減弱は、FFA処理によって認められる特異的な現象であることが示されました。
<mTOR経路の阻害>
mTORは、栄養や増殖因子に応答する代謝の要となる細胞内装置です。T細胞では、mTORの下流のグランザイム遺伝子発現によって解糖系を制御され、NK細胞では、インターフェロンγ制御にmTORは必須です。NK細胞では、その活性化におけるmTORの役割が重要であることから、肥満によるmTOR機能の阻害について検証されました。
ヒトNK細胞を、mTORの下流で働く、S6キナーゼの阻害剤であるSL0101-1に暴露した結果、抗腫瘍効果が減弱し、コンフォーカル顕微鏡によって、mTORが、パーフォリンやCD107aとライソゾームと存在位置が一致することが、観察されました。NK細胞のIL2やIL12による刺激下で、mTORによるリン酸化の増加、ライソゾーム関連オルガネラへの局在の増加を認めました。
NK細胞をFFA処理した結果、リン酸化mTORのライソゾーム関連オルガネラへの局在の有意な減少を認め、初代NK細胞株をがん細胞とともにインキュベーションした結果、mTOR下流のS6のリン酸化は、FFA処理によって有意に低下しました。すなわち、高脂質の環境下では、NK細胞におけるmTOR活性化の阻害によって機能異常が生じることが示されました。
<肥満でNK細胞の代謝は、負の影響を受ける>
好気的解糖に不可欠であるmTOR活性が、肥満によって抑制を受けることから、肥満が代謝に及ぼす影響を検討しました。肥満者から採取・調整されたNK細胞の2NDBG(蛍光色素でラベルしたグルコース)アップテイク量の減少を認めました。解糖系遺伝子群の発現量は、非肥満者のNK細胞に比べ、有意に減少していました。肥満者NK細胞の酸素消費率及び、細胞外酸化率を測定した結果、酸化的リン酸化、及び好気的解糖の減弱を認めました。すなわち、肥満は、細胞内代謝を麻痺状態にさせていることが示唆されました。
<PPARα/δ経路との関連について>
FFAをNK細胞に加えた結果認めたパーフォリン発現量の減少と同様に、PPARα/δのアゴニストを培養液中への添加によってパーフォリン発現量が減少しました。PPARα/δのアンタゴニストを添加し、FFAを加えるとパーフォリン発現減少は阻害され、また非肥満者から調整したNK細胞に、PPARα/δのアゴニストを添加すると解糖の減弱化を認めました。
<細胞障害作用減弱のメカニズム>
NK細胞が、がん細胞に障害を与えるメカニズムの解明するにあたり、がん細胞認識の最初のステップとなるNK細胞とがん細胞間のシナプス形成は、FFA前処理では阻害されませんでした。しかし、がん細胞を殺傷する働きを持つNK細胞内グラニュールのシナプスへ移動が阻害されることがわかりました。また、この細胞内輸送には、mTORの活性化が必要であることも示されました。
<コメント>
肥満が、がん発症のリスク因子であることが提唱されて以来、そのメカニズムの解明について注目されてきました。今回、肥満によるNK細胞内への脂肪滴の蓄積によって惹起された細胞内代謝傷害によって抗腫瘍効果が失われること、また重要な役割を担う分子として、mTORとPPARα/δが同定された意義は大きいのではないでしょうか。本研究から、NK細胞を介した抗腫瘍効果を高めるためには、mTORの活性化、PPARα/δの抑制が重要であることが示唆されました。今後の研究の展開が楽しみです。
臨床では、PPARα活性化剤が、中性脂肪低下作用がある薬剤として汎用されています。これらの性質を持つ薬剤が、肥満と同様に、NK細胞に脂肪滴を蓄積させ抗腫瘍効果を抑制していないかという点、さらに昨年PPAR活性化によりがんの誘発と再発が誘導されるとする論文がNature にでた点は、総じて、気がかりです(文献4)。臨床家としても、今後の検証、そして基礎研究の発展から、目が離せないところです。
文献1. Renehan, A. G., Tyson, M., Egger, M., Heller, R. F., & Zwahlen, M. (2008). Body-mass index and incidence of cancer: a systematic review and meta-analysis of prospective observational studies. The Lancet, 371(9612), 569-578.
文献2. Sjöström, L., Gummesson, A., Sjöström, C. D., Narbro, K., Peltonen, M., Wedel, H., ... & Jacobson, P. (2009). Effects of bariatric surgery on cancer incidence in obese patients in Sweden (Swedish Obese Subjects Study): a prospective, controlled intervention trial. The lancet oncology, 10(7), 653-662.
文献3. Nat Immunol. 2018 Dec;19(12):1330-1340. doi: 10.1038/s41590-018-0251-7. Epub 2018 Nov 12.
Michelet, X., Dyck, L., Hogan, A., Loftus, R. M., Duquette, D., Wei, K., ... & O’Farrelly, C. (2018). Metabolic reprogramming of natural killer cells in obesity limits antitumor responses. Nature immunology, 1.
文献4Nature. 2017 Jan 5;541(7635):41-45. doi: 10.1038/nature20791. Epub 2016 Dec 7.
Targeting metastasis-initiating cells through the fatty acid receptor CD36.
今回、ハーバード大のミシュレット博士らによって「肥満は、NK細胞での脂肪の取り込みを促進させ、解糖系へのシフトを抑制させる」という仮説が検証され、興味深い知見が得られました。論文は、Nature Immunologyに発表されました(文献3)。
<肥満マウスの遺伝子解析>
高脂質食を1週間、あるいは8週間連続的に投与されたマウスと、標準食を与えたマウスそれぞれのNK細胞を遺伝子解析をしました。高脂食摂取マウスでは、1週間後で107個、8週間後で3000個の遺伝子発現の増加を認めました。肥満マウスの脂質代謝に関与する遺伝子の増加を認め、特に、ldlr、Cd36、FABP、Cpt1bの増加が顕著でした。Prf1(パーフォリン)とグランザイム遺伝子は、有意に低下していました。遺伝子パスウエイ解析の結果、最もダウンレギュレーションを受けていたのは、細胞毒性を示す経路、また、mTOR経路の低下も認めました。アップレギュレーションされていたのは、PPARα/δシグナリングとグライセロリピッド代謝経路でした。すなわち、高脂食摂食マウスでは、血中FFAの増加によって、FFAをリガンドとするPPARα/δのシグナルが活性化し、がん殺傷に必要なNK細胞の細胞毒性惹起マシーナリーの機能不全が生じる可能性が示されました。
<肥満ヒトNK細胞>
マウスで認められた現象が、ヒトでも同様に生じるのか、フローサイトメトリーとELISAを用いた実験によって分析されました。肥満者及び、非肥満者からNK細胞を採取・精製し比較した結果、肥満者の循環血漿中NK細胞数は、より少ないこと、インターフェロンγの産生量も少ないこと、かつ腫瘍細胞の殺傷効果も小さいことが明らかになりました。肥満者のNK細胞膜表面のCD36発現量は多いことから、PPARα/δ経路の活性化が示唆され、マウス実験の結果と一致しました。また、グランザイム、パーフォリンの発現量は減少していました。肥満者NK細胞への脂肪滴の取り込みが証明され、脂肪の細胞内蓄積による細胞障害機能不全の可能性が示唆されました。
<ヒトでは、脂肪取り込みはNK細胞機能を抑止する>
肥満者では、マウス同様に循環血液中のFFAの増加を認め、特にパルミチン酸の増加が顕著でした。非肥満者のNK細胞を、FFA(パルミチン酸かオレイン酸)存在下に培養した結果、培養液中のFFAは、細胞内へ取り込まれました。細胞内に脂肪滴を認めたNK細胞では、パーフォリン粒子が欠失していました。脂肪滴の増大に伴いパーフォリン含有量は減り、脂肪滴の減少に伴い、パーフォリン含有量の増加を認めました。フローサイトメーターによる細胞分析から、あらかじめFFAを処理した結果、NK細胞でのグランザイムとパーフォリンの減少を認め、NK細胞への脂肪蓄積が、抗腫瘍効果を低減させることが判明しました。NK細胞を高濃度グルコース、及びインスリンで処理してもFFA処理時と同様の現象を認めず、脂肪滴の蓄積、パーフォリンやグランザイムの減少、抗腫瘍効果の減弱は、FFA処理によって認められる特異的な現象であることが示されました。
<mTOR経路の阻害>
mTORは、栄養や増殖因子に応答する代謝の要となる細胞内装置です。T細胞では、mTORの下流のグランザイム遺伝子発現によって解糖系を制御され、NK細胞では、インターフェロンγ制御にmTORは必須です。NK細胞では、その活性化におけるmTORの役割が重要であることから、肥満によるmTOR機能の阻害について検証されました。
ヒトNK細胞を、mTORの下流で働く、S6キナーゼの阻害剤であるSL0101-1に暴露した結果、抗腫瘍効果が減弱し、コンフォーカル顕微鏡によって、mTORが、パーフォリンやCD107aとライソゾームと存在位置が一致することが、観察されました。NK細胞のIL2やIL12による刺激下で、mTORによるリン酸化の増加、ライソゾーム関連オルガネラへの局在の増加を認めました。
NK細胞をFFA処理した結果、リン酸化mTORのライソゾーム関連オルガネラへの局在の有意な減少を認め、初代NK細胞株をがん細胞とともにインキュベーションした結果、mTOR下流のS6のリン酸化は、FFA処理によって有意に低下しました。すなわち、高脂質の環境下では、NK細胞におけるmTOR活性化の阻害によって機能異常が生じることが示されました。
<肥満でNK細胞の代謝は、負の影響を受ける>
好気的解糖に不可欠であるmTOR活性が、肥満によって抑制を受けることから、肥満が代謝に及ぼす影響を検討しました。肥満者から採取・調整されたNK細胞の2NDBG(蛍光色素でラベルしたグルコース)アップテイク量の減少を認めました。解糖系遺伝子群の発現量は、非肥満者のNK細胞に比べ、有意に減少していました。肥満者NK細胞の酸素消費率及び、細胞外酸化率を測定した結果、酸化的リン酸化、及び好気的解糖の減弱を認めました。すなわち、肥満は、細胞内代謝を麻痺状態にさせていることが示唆されました。
<PPARα/δ経路との関連について>
FFAをNK細胞に加えた結果認めたパーフォリン発現量の減少と同様に、PPARα/δのアゴニストを培養液中への添加によってパーフォリン発現量が減少しました。PPARα/δのアンタゴニストを添加し、FFAを加えるとパーフォリン発現減少は阻害され、また非肥満者から調整したNK細胞に、PPARα/δのアゴニストを添加すると解糖の減弱化を認めました。
<細胞障害作用減弱のメカニズム>
NK細胞が、がん細胞に障害を与えるメカニズムの解明するにあたり、がん細胞認識の最初のステップとなるNK細胞とがん細胞間のシナプス形成は、FFA前処理では阻害されませんでした。しかし、がん細胞を殺傷する働きを持つNK細胞内グラニュールのシナプスへ移動が阻害されることがわかりました。また、この細胞内輸送には、mTORの活性化が必要であることも示されました。
<コメント>
肥満が、がん発症のリスク因子であることが提唱されて以来、そのメカニズムの解明について注目されてきました。今回、肥満によるNK細胞内への脂肪滴の蓄積によって惹起された細胞内代謝傷害によって抗腫瘍効果が失われること、また重要な役割を担う分子として、mTORとPPARα/δが同定された意義は大きいのではないでしょうか。本研究から、NK細胞を介した抗腫瘍効果を高めるためには、mTORの活性化、PPARα/δの抑制が重要であることが示唆されました。今後の研究の展開が楽しみです。
臨床では、PPARα活性化剤が、中性脂肪低下作用がある薬剤として汎用されています。これらの性質を持つ薬剤が、肥満と同様に、NK細胞に脂肪滴を蓄積させ抗腫瘍効果を抑制していないかという点、さらに昨年PPAR活性化によりがんの誘発と再発が誘導されるとする論文がNature にでた点は、総じて、気がかりです(文献4)。臨床家としても、今後の検証、そして基礎研究の発展から、目が離せないところです。
文献1. Renehan, A. G., Tyson, M., Egger, M., Heller, R. F., & Zwahlen, M. (2008). Body-mass index and incidence of cancer: a systematic review and meta-analysis of prospective observational studies. The Lancet, 371(9612), 569-578.
文献2. Sjöström, L., Gummesson, A., Sjöström, C. D., Narbro, K., Peltonen, M., Wedel, H., ... & Jacobson, P. (2009). Effects of bariatric surgery on cancer incidence in obese patients in Sweden (Swedish Obese Subjects Study): a prospective, controlled intervention trial. The lancet oncology, 10(7), 653-662.
文献3. Nat Immunol. 2018 Dec;19(12):1330-1340. doi: 10.1038/s41590-018-0251-7. Epub 2018 Nov 12.
Michelet, X., Dyck, L., Hogan, A., Loftus, R. M., Duquette, D., Wei, K., ... & O’Farrelly, C. (2018). Metabolic reprogramming of natural killer cells in obesity limits antitumor responses. Nature immunology, 1.
文献4Nature. 2017 Jan 5;541(7635):41-45. doi: 10.1038/nature20791. Epub 2016 Dec 7.
Targeting metastasis-initiating cells through the fatty acid receptor CD36.
愛し野塾 第196回 中年期における生活習慣とアルツハイマー病の関係
日本国内で診断される人は、460万人に上る、ともいわれる認知症の患者さん、その主な原因となる「アルツハイマー病」の世界の患者数は、実に3400万人に達するといわれています。この数は、2050年には、さらに3倍にまで増えるだろう、と予想されています。一方で、未だ有効な治療法は確立しておらず、予防効果が期待されることには、いますぐ着手することが、求められています。
健康的な生活習慣を送り、血管病リスクを回避するための国家的な取り組みが、各方面の研究をもとに求められています。疫学調査として、これまで生活習慣と心血管病リスク因子と認知機能低下や認知症発症の関係を検討した調査結果から「中年期の高血圧、肥満、糖尿病、生活習慣の是正によって、アルツハイマー病の3人に1人は予防可能ではないか」と提唱しています。また、縦断的研究によって、認知症の発症には、20年を超えるほどの時間がかかること、発症段階の開始時期は中年期にあたることが、解明されました(文献1、2)。つまり、この中年期にターゲットを絞った対策を採らなければならない、ことが判明したということになります。予防という観点からは、高齢になってからの対策では、効果的な予防をするには、遅すぎるのではないか、と議論されるようになったのです。
高齢者の場合、知的活動と身体的活動を高いレベルで維持した場合、MCIの有無がアルツハイマー病発症の抑止に影響を与えるかどうかについては、議論がわかれてきました。その原因には、知的・身体的活動以外のバイアスの関与があげられ、病期発症時期である中年期ではなく、すでに病期の進んだ高齢者を対象としたことや、認知症発症と密接な関係があると考えはじめられてきた食事性の影響を考慮していないことなどが、指摘されています。
正常な認知機能を持つ中年期の方を対象にした研究では、加齢に伴って変化する脳のバイオマーカーの検査結果から、身体的活動の有効性が示されました。脳のバイオマーカーには、脳の代謝低下・萎縮・アミロイド沈着・血流低下・インスリン抵抗性などが、認知症発症リスクの予測する変数として用いられています。インスリン抵抗性を改善する食事療法である「地中海食」は、知的活動、運動、血管リスク因子で補正しても、MRIで測定した脳皮質の厚さを増やす効果が示されています。
今回、コーネル大学のウオルタース博士らによって行われた、中年期を対象に、生活様式、及び血管リスク因子と、ADバイオマーカーの関連について3年間調査された結果が発表になりましたのでまとめてみます。論文は、11月25日BMJに報告されました(文献3)。
<対象>
ニューヨーク大学とコーネル大学が主催する、2010年から2016年に行われた縦断的脳イメージング研究の参加者から、対象者がリクルートされました。研究登録時に、MRI,FDG-PET(脳細胞のグルコースの取り込みを評価することで代謝を精査)、PiB-PET(アミロイド沈着を評価)を施行し、少なくとも2年をあけて、検査が同様に施行されました。登録条件は、(1)30-60歳、(2)教育期間12年以上、(3)臨床認知スケール=0点、全般的悪化スケール=2点以下、ミニメンタルステート検査27点以上、ハミルトンうつ病スケール16点未満、除外条件は、(4)脳血管障害、糖尿病、脳外傷、神経変性疾患、うつ病、水頭症、脳腫瘍、MRIで脳梗塞あるかた、(5)メンタルの薬物療法を受けているかた、としました。家族歴を聴取し、APOE4のゲノタイプを決定しました。
・全般的認知機能測定について
記憶機能、実行機能と言語について、WAIS法などで2回評価されました。
・血管リスク因子の評価について
BMI、血圧、血中コレステロール、ホモシステイン測定、インスリン抵抗性(QUICKIスコアを用いました)、空腹時血糖について測定されました。
・生活習慣因子
ハーバード・ウイレット・準定量食事質問表によって、前年の食事内容について検討されました。30の食事グループに分類され、各摂取量が推量されました。地中海食スコアは、乳製品、肉、魚、フルーツ、マメ科植物、穀類、野菜について、各カロリーが算出され、健康に良好な食事とされるフルーツ、野菜、マメ科植物、穀類、魚について、性別特異的な平均摂取量よりも多い場合には、1点、健康に害のある食事として、肉と乳製品を平均摂取量よりも少ない場合には、1点、飽和脂肪酸と単負飽和脂肪酸の比率が平均よりも上の場合には、1点、少量から中等量のアルコールの場合には、1点と加算し、総計点数が高いほど、地中海食へのアドヒアランスが高いと判定されました。身体活動については、ミネソタ・余暇時間身体活動質問表から評価されました。
知的活動の評価には、25アイテム面接が施行され、本、新聞を読む、手紙、メールを書く、図書館にいく、ゲームをするなどについて、年齢別に評価しました。
・ADバイオマーカー
MRI,PiB―PET、FDG―PETを少なくとも2年の期間をあけて施行されました。縦断的MRI検査によって、嗅内皮質、後帯状皮質の厚さが測定されました。PETでは、楔前部・後帯状皮質をアルツハイマー病関連部位として評価され、前頭皮質を加齢関連部位として評価されました。
<結果>
対象として登録された86人中、70人が分析対象とになりました。平均年齢49歳、69%が女性、認知症と診断される人はいませんでしたが、全般的悪化スケールで、記憶障害を訴えたのが、69%、またアルツハイマー病の家族歴がある方が67%でした。少なくともひとつのAPOE4遺伝子を認めたのは39%でした。平均BMI:25、高血圧罹患率:14%、QUICKIスコア:0.32、血中ホモシステイン:7・9umol/Lでした。教育期間は平均16年でした。
MMSEは29点、即時文節記憶は7.2、遅延文節記憶は9.8、即時対連合記憶6.4点、遅延文節記憶は7.3点、対象物の名前づけ55点、デザインテスト8.1点、デジタルシンボル置き換えテスト66点、WAIS言語テスト68点でした。
地中海食スコアは4点(1-9点の幅)、身体活動スコアは9点(1-37点の幅)、知的活動スコアは4点(2-5年の幅)でした。
・認知低下の予測
登録時に高い血中ホモシステイン濃度を示した症例で、認知レベルの低下速度が速い傾向が見出されました(P=0.048)。登録時の知的活動レベルと登録時の認知機能との間に正の相関を認めましたが、認知レベル低下の速度との相関はありませんでした。
・アミロイドの沈着
いずれの因子も統計的有意な変化を認めませんでしたが、APOE4が検出された場合、前頭葉のアミロイド沈着の促進傾向が示されました(P=0.084)。運動量が多い症例に、後帯状皮質アミロイド沈着の軽減される傾向が見出されました(P=0.106)。また高い地中海食アドヒアランスによって、高前頭葉のアミロイド沈着の軽減する可能性も見出されました(P=0.104)。
・FDG変化
FDG-PETの結果から、登録時の前頭葉のFDGアップテイクと知的活動との間に有意な相関を認めました(P=0.042)。縦断的検討では、地中海食アドヒアランスが低いと、後帯状皮質のFDGアップテイクの有意な低下が示されました(P=0.048)が、前頭葉のFDGアップテイクは低下する傾向はあるものの有意差を認めませんでした(P=0.106)。また、加齢は、前頭葉のFDGアップテイク低下をもたらす傾向が示され(P=0.091)、一方で後帯状皮質への影響は認められませんでした。
・MRI変化
すべての因子相互の有意な相関は認められませんでしたが、APOE4が嗅内皮質の厚さの低下に関与する可能性が示されました(P=0.149)。
<コメント>
正常な認知機能を有する平均年齢49歳の男女を対象に調査を行った結果、3年と言う短期間で、地中海食アドヒアランスと、後帯状皮質のFDGアップテイクとの間に相関を認め、大変なインパクトをもたらした研究となりました。すでに知られているホモシステインの効果が、認知機能の観点から再確認されたことも重要なポイントです。後帯状皮質機能低下は、ADの初期病変に認められることがすでに知られており、得られた所見の意義は大きいと考えられます。今後、地中海食アドヒアランスとAD発症抑制との関係についての、より大規模、かつ長期的な調査が期待されます。一方で、本研究の対象者の教育期間は16年と高学歴だったことが、この結果に関与した可能性は否定できません。今後、教育歴を拡大して検討を行うことは必要でしょう。
アミロイドの沈着は、後帯状皮質機能低下をもたらす要因ともみなされるにもかかわらず、地中海食アドヒアランスと相関が認められなかったことについては、今後検討を要するでしょう。
認知機能に対するプラスの効果が認められている身体活動、とくに運動との相関が認められなかった点については、生活パタンや運動強度などの精査が必要ですし、長期的な研究の必要があるでしょう。対象者は、身体活動が比較的低いかたを対象としており、それがバイアスになったことも考えられます。
すでに明らかにされている地中海食の糖尿病予防効果(文献4)から、インスリン作用の適正化が、アルツハイマー病を予防する可能性も考えられます。
さあ、すくなくとも40代から、もっと言えば30代から、「食」への興味、関心を寄せてください。野菜中心に献立を考える。おやつにはフルーツを、そして青魚に親しみ、料理法にも関心を寄せ、オリーブオイルを使った料理を中心にしましょう、そして、セダンタリーな生活をやめ、まめまめしく動く生活を「今」まさにはじめましょう!
文献1
Sperling, R. A., Karlawish, J., & Johnson, K. A. (2013). Preclinical Alzheimer disease—the challenges ahead. Nature Reviews Neurology, 9(1), 54.
文献2
Dubois, B., Hampel, H., Feldman, H. H., Scheltens, P., Aisen, P., Andrieu, S., ... & Broich, K. (2016). Preclinical Alzheimer's disease: definition, natural history, and diagnostic criteria. Alzheimer's & Dementia, 12(3), 292-323.
文献3BMJ Open. 2018 Nov 25;8(11):e023664. doi: 10.1136/bmjopen-2018-023664.
Associations of lifestyle and vascular risk factors with Alzheimer's brain biomarker changes during middle age: a 3-year longitudinal study in the broader New York City area
文献4 Salas-Salvadó, J., Bulló, M., Estruch, R., Ros, E., Covas, M. I., Ibarrola-Jurado, N., ... & Romaguera, D. (2014). Prevention of diabetes with Mediterranean diets: a subgroup analysis of a randomized trial. Annals of internal medicine, 160(1), 1-10.
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