「関節リウマチ」は、代表的な自己免疫疾患であり、持続的な炎症によって関節の痛みや腫れを生じさせ、関節破壊が徐々に進行すれば、手足・肘・膝関節などの変形や障害を認め、肺など内臓への症状に及ぶケースもある難しい疾患です。全人口の約0.5%に発症し、30歳から50歳までの年齢層に多発し、女性と男性の患者数の比は、3対1と女性に多い疾患です。病態の詳細は未だ不明ですが、免疫系に生じた異常から、関節滑膜組織にリンパ球やマクロファージが浸潤し、TNFαとIL−6などのサイトカインが放出され、滑膜細胞の増殖から、痛みと腫れが誘発されると考えられています。
関節リウマチ治療の薬物療法として、メトトレキサート(MTX)や、バイオ医薬品(抗TNFα抗体など現在9種類が市場にあります)が中心的役割を担ってきました。MTXは、我が国では1999年に認可され、初期投与される薬剤として位置付けられています。バイオ医薬品は2003年以来、使用され、有効性が高く、寛解にいたる症例も認められるようになりました。しかし、開発に高度な技術を要するバイオ医薬品は大変高額であり、患者さんへの経済的負担が大きく、MTXとバイオ医薬品に忍容性がないこと、効果が期待できないかたが少なくないこと、なども問題点として挙げられ議論されているところです。そういった背景から、MTX、及びバイオ医薬品に代わる薬剤が待ち望まれているのです。
さて、MTXやバイオ医薬品が出現した同じく20年前、免疫系の「要」となる細胞内因子「JAK」の発見があり、関節リウマチ治療のターゲットになるのではないかと期待されてきました。JAK阻害剤の薬剤開発が進み、バイオ医薬品が奏功しない、あるいは、効かなくなった症例を対象に使用したところ、JAK阻害剤の有効性を認め、まさに当該薬剤への期待が高まっているのです。
JAKには、JAK1、JAK2、JAK3、TYK2の4つのサブタイプがあります。JAK3のみ血液系細胞に特異的に発現し、JAK1,JAK2,TYK2は、すべての細胞に発現しています。JAK阻害剤のひとつである「トファシチニブ」は、JAK1、JAK2、JAK3の阻害効果を有し、JAK1、及び2の阻害剤「バリシチニブ」は、JAK阻害効果を認め、臨床汎用されています。しかし、さらに高い治療効果と安全性の実現のためには、前述の薬剤の低いサブタイプ選択性では不十分で、JAKサブタイプの特異的な阻害が、開発の重要なポイントであると考えられています。今回、JAK1のみを選択的に阻害する「ウパダシチニブ」を用いた第三相臨床試験の結果が医学誌ランセットに発表になりましたので、解説したいと思います(文献1)。
<対象>
本研究は、SELECT-BEYONDと命名され、2重盲検無作為化第3相試験で、26カ国、153医療機関が参加しました。 対象者は、少なくとも18歳で、2010年の米国リウマチ学会、ヨーロッパリウマチ学会の診断ガイドラインに従って、関節リウマチと診断され、研究開始時までに診断後3ヶ月以上経過している患者で、かつ、3ヶ月間以上、生物学的製剤で治療しているが、関節リウマチの活動性があるかた、あるいは、生物学的製剤に対して忍容性がないか、耐性のあるかた、少なくとも3ヶ月以上のcsDMARD(従来型抗リウマチ薬)の投与歴があり、4週間以上、臨床状況が安定している方を対象としました。先述の「関節リウマチの活動性がある状態」の定義は、「66関節のうち、少なくとも6箇所以上の関節で腫脹があること(SJC66)、68関節のうちすくなくとも6箇所で、圧痛があること(TJC68)、高感度CRPが少なくとも3mg/dl以上であること」としました。過去にJAK阻害剤投与歴があり、関節リウマチ以外の炎症性関節疾患がある方は対象から除外されました。
対象患者は、ウパダシチニブを1日1回15mg投与群、あるいは、30mgを投与群、プラセボ投与群の3群に無作為に割り付けられました。プラセボ群は、12週間後から、ウパダシチニブ15mg投与群、あるいは、30mg投与群に無作為に割り付けられました。最初の24週間は、csDMARDを投与(MTXは1週間あたり7.5mgから25mg、クロロキンは1日250mg以下、サルファサラジンは1日3000mg以下、レフルノマイド1日20mg以下)としました。MTXとレフルノマイドの併用は、禁忌とされました。プレドニゾロンは、最初の25週は、1日10mgまで許可としました。
一次評価項目は、12週の段階での、(1)ACR20(圧痛関節数、腫脹関節数が20%以上改善)の達成した割合、(2)DAS28(CRP)(0.56×√(圧痛関節数)+ 0.28×√(腫脹関節数)+ 0.36×Ln(CRP)+0.014 × 患者による全般評価)が3.2以下の割合としました。2次評価項目は、ACR50(圧痛関節数、腫脹関節数が50%以上改善)あるいは、ACR70(圧痛関節数、腫脹関節数が70%以上改善)の達成割合、DAS28(CRP)のベースラインからの変化量、HAQ—DI、SF36、PCS、ACR20の1週目の達成した割合としました。
<結果>
調査は2016年から2017年にかけて行われました。778人がスクリーニングを受け、条件に合致した499人を無作為に3群に割り付けられました(ウパダシチニブ15mg:165人、ウパダシチニブ30mg:165人、プラセボからウパダシチニブ15mg:85人、プラゼボからウパダシチニブ30mg:84人)。最終的に451人(91%)が12週間服薬を終了し、419人(84%)が24週間服薬を終了しました。
対象者の居住地は、北アメリカからが66%、西ヨーロッパが19%、東ヨーロッパが13%でした。その大半が関節リウマチを長期間患っている方で、罹病期間は平均で13.2年でした。1種類の生物学的製剤の治療歴がある方が47%、2種類の生物学的製剤の治療歴がある方が28%、少なくとも3種類の生物学的製剤の治療歴がある方が25%でした。対象となった患者の90%が抗TNFα抗体に対する反応性が悪いあるいは、忍容性を認めませんでした。関節リウマチの病勢が高い方が多く、DAS28(CRP)の平均値は、5.8、SJC66は16.8、TJC68は27.9でした。
12週後のACR20達成率は、ウパダシチニブ15mg群で65%、ウパダシチニブ30mgで56%、プラセボで28%を示し、ウパダシチニブはいずれの容量でもプラゼボより有意に高い達成率を示しました(P<0.0001)。DAS28(CRP)が3.2以下を達成したのは、ウパダシチニブ15mg群で43%、ウパダシチニブ30mgで42%、プラセボで14%を示し、プラゼボに比較してウパダシチニブ投与による炎症反応の有意な低下を認めました(P<0.0001)
12週後のACR50達成については、ウパダシチニブ15mg群で34%、ウパダシチニブ30mgで36%、プラセボで12%を示し、いずれの容量のウパダシチニブでもプラゼボに比較して高い達成率を示しました(P<0.0001)。
ACR70は、ウパダシチニブ30mgでプラセボに比較して、有意な上昇を認めましたが(23% 対 7%、P<0.0001)、ウパダシチニブ15mgとプラセボの間には統計的有意差を認めませんでした(12% 対 7%、P=0.11)。
1週後からウパダシチニブ投与した群は、プラセボ群に比較して、ACR20の達成率が有意に高く、12週間のプラセボからウパダシチニブ投与群に変更後、24週で、ACR20、50、70のいずれも、開始直後からウパダシチニブ投与をしていた群と同様の反応性を認めました。特に、12週間のプラセボの後、ウパダシチニブ15mg投与群に変更した結果、開始直後からウパダシチニブ30mg投与した群と同じレベルにまでACR70を達成させたことは注目される結果となりました。
<有害事象>
試験開始後12週で最も多かった有害事象は、「上気道感染症」でした。プラセボ群で8%、ウパダシチニブ15mgで8%、ウパダシチニブ30mgで6%でした。次に多かった「尿路感染症」は、それぞれ6%、9%、5%でした。「関節リウマチの悪化」を認めたのは、それぞれ6%、2%、4%でした。重篤な有害事象は、プラセボ群は0%、ウパダシチニブ15mg群:5%、30mg群:7%でした。「重症感染症、帯状疱疹、投薬中止にいたる有害事象」は、ウパダシチニブ30mg群に最も多く、悪性疾患3例、肺塞栓1例、重篤な心血管病1例、死亡1例がウパダシチニブ群で認められました。
<コメント>
3種類以上のバイオ医薬品を用いた治療を施しても、疾患活動性の消失を認めない患者が、全体の25%も含まれている治療困難症例群に対して、ウパダシチニブが速やかに有効性を示したことは、高く評価できると思います。ただし、すでに臨床的に使用されている「トファシチニブ」や「バリシチニブ」よりも有意に優れているかどうかの結論を出すには、厳格な条件の下、直接比較をすることも必要でしょう。詳細を含め今後の報告に大変興味を持っています。また、JAK1の選択的阻害剤であるトファシチニブが、選択性の低い2剤に比較して、より良好な効果を示すことも期待されます。また、今回の試験のデザインでは、わずか24週までの成績を評価したに過ぎません。患者さんに有益となるよう、より長期の有効性についての検討結果が待たれます。
さて、問題点として、ウパダシチニブ投与群における悪性疾患の発生率、及び心血管病の発生率が高まったことが指摘されています(文献2)。今後、JAK阻害剤が関節リウマチ治療の第一選択薬となるためにも、安全性を実証するためにも大規模試験の実現を望むところです。
1)Genovese MC, Fleischmann R, Combe B, Hall S, Rubbert-Roth A, Zhang Y, Zhou Y, Mohamed ME, Meerwein S, Pangan AL. Safety and efficacy of upadacitinib in patients with active rheumatoid arthritis refractory to biologic disease-modifying anti-rheumatic drugs (SELECT-BEYOND): a double-blind, randomised controlled phase 3 trial. The Lancet. 2018 Jun 12.
2)Goll GL, Kvien TK. New-generation JAK inhibitors: how selective can they be?. The Lancet. 2018 Jun 13.