2018/04/16

愛し野塾 第166回 若年期の肥満対策が糖尿病発症リスクを抑制するのか?


平成28年の国民健康・栄養調査によると、「糖尿病が疑われる人」は12.1%(男性16.3%、女性9.3%)、にのぼり、1000万人とも推定される糖尿病患者は、1997年の推計690万人から、増加し続けています。セダンタリーな生活習慣、社会的ストレス、ファストフードといった高カロリー食が手に入り易いなど、現代の生活環境が糖尿病発症に拍車をかけている、ということは言うまでもありません。糖尿病発症を社会的な問題として捉え、子ども時代からその生活習慣に介入し、解決しようとする取り組みが始まっています。とくに子ども時代からの体重コントロールについて、研究が盛んに行われています。
成人の境界型糖尿病症例では、「体重減少に重点を置いた生活習慣への介入を行うと、2型糖尿病発症遅延効果がある」と報告されています。一方、子ども時代に過体重・肥満があると、成人以降の2型糖尿病発症リスクが高くなり、例えば、13歳女児のBMIが18.2以上の場合、30歳から47歳時の2型糖尿病発症リスクは、2.12倍から2.84倍、18.2未満の場合と比べて、著しく増加することが知られています(文献1)。しかし、子どもを対象に体重減少を目的とした生活介入を行った場合、成人以降の2型糖尿病発症を抑止できるのかどうか、は、賛否両論、未だ決着がついていません。
わが国の平成24年国民健康・栄養調査によると、11歳時の過体重によって、肥満と診断される子どもは、男児25.0%、女児14.0%です(文献2)。世界的にも、過体重から肥満と評価される子どもは、23%もいると示されていることから、「成人に至る前に体重を適正化することで、子ども時代の過体重及び肥満による成人2型糖尿病発症に与える影響を低減できる可能性」は誰もが知りたいところです。さらに、思春期に認めるインスリン感受性の著しい減少に伴う体重増加が、成人以降の2型糖尿病発症に影響する可能性についても未解決のままです。また、社会的視点から、子どもの肥満も成人の糖尿病も、社会経済的な状況と反比例することが示されていることも重視すべき点でしょう。
今回、こどもの肥満を思春期に適正化することで、2型糖尿病発症リスクを低減できるのか、また社会経済的な因子との関連性はどうか、さらに思春期の体重増加と成人時の2型糖尿病発症との関係について検討が加えられ、NEJMに発表になりましたので、報告します。
<対象>
コペンハーゲンの学校保健記録レジスターが、本研究のデータベース(CSHRR)として用いられました。このデータベースには、1930年から1989年に、公立、私立を問わず、学校に通っていたほとんどすべての子どものデータ(身長と体重)が蓄積されています。1939年から1959年生まれの男子については、徴兵データベースがあり、73,877人分が、CSHRRとの整合性があり、ひとりひとりのデータの縦断的解析が可能でした。18歳時にすべての男子の体重、身長を測定する義務がありますが、精神遅滞、癲癇の患者は、除外されていました。1977年から開始された、入院患者を対象とした「国民患者登録」の閲覧によって、2型糖尿病発症日が特定されました。コペンハーゲンでは、2型糖尿病と診断された場合、専門の医療機関で入院加療するという前提となっているため、入院開始日を2型糖尿病発症日とすることは妥当と判断されました。
試験の登録条件として、7歳、及び13歳時のBMI値の記録があること、成人初期における年齢、BMI、知能テスト、教育レベルがわかること、生存していること、30歳以前に糖尿病の診断がないこと(これにより1型糖尿病患者の混入を最小限にする)としました。また経過の開始日は、1977年1月1日、もしくは30歳の誕生日のどちらか早いほうとし、経過観察の終了は、2型糖尿病の診断日、死亡日、海外移住日、消息不明日、もしくは2015年12月31日のいずれかのうち、早いものとしました。
<結果>
条件を満たした男子は、62,565人でした。うち6,710人(10.7%)が1,969,165人・年の経過観察期間に2型糖尿病を発症しました。
過体重・肥満の子どもの割合は、7歳児(BMI17.38以上と定義)の5.4%(3,373人/62,565人)、13歳児(BMIが18.13以上と定義)の5.5%(3,418人/62,565人)から、成人初期(BMIが25以上を体重増加と定義)の8.2%(5,108人/62,565人)に増えていました。
7歳で過体重・肥満を認めるも13歳で体重が正常化し、成人初期まで正常体重を維持した場合の「30歳から60歳の間に2型糖尿病を発症するリスク」は、一度も過体重・肥満と評価された経験のない集団と同じ程度の、2型糖尿病発症リスクでした(HR0.99)。
7歳、13歳、成人初期を通じて過体重・肥満がある場合には、一度も過体重・肥満と評価された経験のない集団よりも、2型糖尿病の発症リスクは4.00倍高くなりました。
13歳の時点のみで、もしくは7歳と13歳の時点のみで、過体重・肥満と評価された場合、一度も過体重・肥満と評価された経験のない集団に比べて、それぞれ1.7倍、1.51倍の2型糖尿病発症リスク増加でした。ただし、7歳と13歳時のみ過体重・肥満のかたは、全期間過体重・肥満の集団に比較して、成年発症の2型糖尿病リスクは、4.14倍も少ないことがわかりました。
過体重・肥満の時期が、成人初期だけの場合は、一度も過体重・肥満と評価された経験のない集団に比べた2型糖尿病発症リスク、3.24倍、7歳と成人初期の場合では、2.55倍、13歳と成人初期の場合では、3.87倍、となりました。
すべての相関関係は、知能指数の程度、教育レベルの程度、徴兵時の年齢で補正した場合でも影響を受けませんでした。
7歳児のBMIが正常であっても、成人初期までにBMIが増加すると、2型糖尿病発症リスクが増大することがわかりました。特筆されるのは、7歳時のBMIが低めのほうが、2型糖尿病発症リスクが高いことでしょう。
<コメント>
調査分析の結果から、7歳のときに過体重・肥満を認めても、13歳(思春期)までに体重を適正化すれば、将来の2型糖尿病発症リスク上昇を抑制できること、たとえ、13歳に至るまで過体重であっても、成人初期までに適正化すれば、将来の2型糖尿病発症リスクが顕著に低減することが示されました。また7歳で体重が正常であっても、13歳以降で体重が増加した場合は、将来の2型糖尿病発症リスクが大きくなることも示されました。児童期、思春期での体重管理時期のポイントがわかりやすく示されたことは、大きな収穫です。また思春期の体重が、将来の2型糖尿病発症と密接な関係が示され、思春期に認めるインスリン抵抗性が過体重・肥満を悪化させる可能性について、今後の詳細の検討が待たれます。
一方、7歳時に正常体重領域にあっても、BMIが低めの場合、そうでない方に比べて、その後のBMI増加が及ぼす2型糖尿病発症リスクの上昇が有意であることが示されました。すなわち急激な体重の増加が、糖尿病発症リスクを高める可能性が示されました。
この調査から、13歳時の学校健診によって、BMI値の変動などの個々の特性を調査した上で、生活習慣への介入が効果的だ、と私は考えます。この時点のBMIが、急激な増加の結果なのか、いわゆる異常値なのか、という検討も加え、必要と判断されれば、保護者を含めた生活指導を行い、生活習慣の改善を促すことが必要ではないでしょうか。
さて、この研究の弱みは、成人後期のBMIのデータがないこと、体重変化の原因が示されていないこと、国民患者登録をもとに検討したデータであることから実地臨床のみで治療を受けているかたは対象から除外されたこと、診断時期の曖昧さ、女性のデータがないこと、で今後、さらなる調査が期待されます。しかし、ひとりひとりの患者を長期にわたり、6万人以上の住民を対象とした大規模調査である点は評価されるところでしょう。何より「思春期の生活習慣への介入による、成人以降の糖尿病発症リスク低減の可能性」を示した点は、医療にとどまらず学校健康教育行政にも見直しのきっかけとなる大きなポイントになるものではないでしょうか。
文献1Zimmermann, E., Bjerregaard, L.G., Gamborg, M., Vaag, A.A., Sørensen, T.I. and Baker, J.L., 2017. Childhood body mass index and development of type 2 diabetes throughout adult life—A large‐scale danish cohort study. Obesity, 25(5), pp.965-971. doi: 10.1002/oby.21820. Epub 2017 Mar 27.
文献2 日本生活習慣病予防協会、2014年4月25日の記事
文献3 Bjerregaard, L.G., Jensen, B.W., Ängquist, L., Osler, M., Sørensen, T.I. and Baker, J.L., 2018. Change in Overweight from Childhood to Early Adulthood and Risk of Type 2 Diabetes. New England Journal of Medicine, 378(14), pp.1302-1312.  doi: 10.1056/NEJMoa1713231.