腎臓がんは、発症率10万人あたり6人といわれ、特徴的な症状のない、見つかりにくいがんとして知られています。腫瘍が静脈から全身へ広がれば、肺、骨、肝臓などを主とした他臓器への転移が懸念されます。1990年代には、インターフェロン、インターロイキン-2などの免疫療法が主流となりましたが、効果はきわめて限定的でした。その後、腎臓がんで変異を認めるヒッペルリンドウ遺伝子の研究から、血管新生が、がんの進行に重要な役割を果たしていることが示され、血管新生の抑止に焦点を絞った薬剤開発によって、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)、哺乳類ラパマイシン標的たんぱく質(mTOR)全盛の時代となりました。現在、腎臓がん治療のファーストラインには、これらの薬剤が推奨されていますが、優れた薬剤であるTKIでも、完全寛解に至るのはわずか1%しかありません。また「完全寛解」という評価では、インターロイキン2による治療成績の方が、むしろ優れていること、進行性腎臓がんの5-7%に完全寛解が認められることが示され、再び、免疫治療が見直されました。
それから20年経過し「免疫チェックポイント阻害剤」という抗がん剤が登場し、2011年のFDA初認可以来、6種類の治療薬が開発されました。なかでも「ニボルマブ」は、「mTOR」に対して、客観的腫瘍縮小効果は、25% 対 5%と大差で有効性が示され、TKI治療後の進行した腎臓がんの生存率は、25ヶ月 対 19.6ヶ月を示し、2016年に「ニボルマブ」は、腎臓がん治療の適応を取得しました。問題点は、24%に及ぶ部分奏功に対し、完全奏功はわずか1%であることでした。
さて、進行性腎がんの予後は、低、中、高リスクの3つに分類されています。進行性腎がん患者の75%は、比較的予後の悪い症例が含まれる、中/高リスクに分類され、ファーストラインの抗がん剤である「スニチニブ」(TKIのひとつ)を用いた第3相試験の結果では、無増悪生存期間中央値は、9.5ヶ月、全生存率中央値は、29.3ヶ月、奏功率25%で、決して満足できるものではありませんでした。一方、抗細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(CTLA-4)である「イピリムマブ」は、メラノーマに対する効果を認め、認可されたものの、腎がんに対する効果は乏しく、認可されませんでした。しかし「イピリムマブとニボルマブを併用治療」でそれぞれの単剤より高い効果を認め、未治療の進行性腎がん症例を対象に臨床試験が行われました。奏功率は40%、2年全生存率は67-70%という良好な結果から第三相臨床試験が行われ報告されました。「チェックメイト214」と命名されたこの臨床試験では、未治療腎癌の患者を対象に、1)ニボルマブとイピリムマブ併用、2)スニチニブ単剤を用い比較試験を行い、その結果がNEJMに掲載されましたので解説を試みます(1)。
<対象>
対象は、18歳以上の未治療進行性腎がん(明細胞がん)患者で、カルノフスキー・パーフォマンスステータス(PS)は、70以上(0-100スケールで、0が最低のPS)で、脳転移、自己免疫疾患、グルココルチコイド、免疫抑制剤使用症例は除外しました。国際腎癌データベースコンソーシアムの分類により、低リスクはスコア0、中リスクは1-2、高リスクは3-6としました。この分類では、カルノフスキーPS70、診断から治療開始が1年以内、補正血清カルシウム濃度が10以上、好中球数が正常上限以上、血小板数が正常上限以上かどうかによってスコア化したデータを元に層別化しました。
第三相のオープンラベルの無作為割付試験で、ニボルマブとイピリムマブ併用(併用群)、及びスニチニブ単剤を用いた2群の比較試験としました。ニボルマブは、60分かけて体重Kgあたり3mg、イピリムマブは、30分かけて体重Kgあたり1mg投を3週間おきに4回の投与を繰り返し(インダクションフェーズ)、その後維持療法としてニボルマブを2週間おきに同容量で続けました。スニチニブは、4週間の50mgの経口投与を1サイクルとして、6週間おきに継続しました。
<一次評価項目>
中、高リスク患者の奏功率、無増悪生存期間、全生存期間。
<二次評価項目>
全患者の奏功率、無増悪生存期間、全生存期間。副反応。
<結果>
2014年から2016年の間に、28カ国175医療機関で抽出された1096人の患者が、無作為に2つの治療群に割り付けられ、治療を受けた1082人のうち「ニボルマブとイピリムマブ併用群(併用群)」が547人、「スニチニブ群」が535人となりました。それぞれ、423人と416人が中/高リスク群でした。治療中断は、併用群で42%、スニチニブ群で55%で、その主因は、腎がんの増悪によるものでした。
年齢中央値は、併用群、スニチニブ群、そのぞれ、62歳と61歳、性別は、男性が74%と71%、予後リスクは、低リスクがいずれも23%、最も多い転移臓器は、「肺」でそれぞれ69%と70%、両群間の患者は、ほぼ同質の特徴を持つことが確認されました。
<一次評価項目>
中/高リスク患者の中央観察期間は25.2ヶ月で、「18ヶ月時点での全生存率」は併用群75%、スニチニブ群60%で、死亡のHRは、0.63でした(P<0.001)。「完全奏功率」は、併用群9%、スニチニブ群1%、「無増悪期間」の中央値は、それぞれ11.6ヶ月と、8.4ヶ月(HR0.82、P=0.03)、「奏功率」は、それぞれ42%と27%(P<0.001)でした。「グレード3、4の副反応」は、それぞれ46%と63%で、さらに副反応に伴う治療中断は、併用群22%、併用群12%でした。
<二次評価項目>
全患者の「18ヶ月時点での全生存」は併用群78%、スニチニブ群68%で、「死亡のHR」は、0.68でした(P<0.001)。「完全奏功率」は、併用群9%に対しスニチニブ群では、1%でした。「無増悪期間の中央値」は、12.4ヶ月と、12.3ヶ月(HR0. 98、P=0.85)、奏功率は、39 %と32 %でした(P=0.02)。
低リスク患者で2群を比較した結果、スニチニブ群は、併用群に比べて、奏功率(52%と29%)、及び無増悪生存期間(25.1ヶ月と15.3ヶ月)ともに有意に良好な結果を示しました。
<コメント>
特筆すべきは、これまでの報告から、治療効果が低いと考えられてきた中/高リスクの進行性腎がん患者において、併用治療により、スニチニブ単独治療に比べて「死亡率の32%もの有意な低下」を示したことです。同様に完全奏功率も9倍も上昇したことも朗報です。
一方で、低リスクの患者では、むしろスニチニブに軍配が上がったことは、「免疫チェックポイント阻害剤の適用は、より進行した癌、かつ遺伝子変異が多いことが必要条件だろう」というこれまでのコンセンサスと一致するものでした(2)。今後、あらかじめ遺伝子変異数などを検査し、適用患者を絞り込んで、スニチニブが奏功する集団と、免疫チェックポイント阻害剤が奏功する集団を見極めることが必要でしょう。一方、スニチニブと免疫チェックポイント阻害剤の併用が奏功する集団の存在も可能性は否定できません。今後「進行性腎がんの特性を遺伝子変異の数や種類から分類する」といった観点からの研究が望まれます。
既存の治療法では、「進行性腎がんの治癒」ということは考えられない状況でしたが、光明が差しはじめた、と言えそうです。「治癒」を目標に掲げ、薬の組み合わせ、患者の絞り込みの丁寧な分析調査は今後も必要でしょう。ただし今回の研究で認められた、グレード3、4といった多数の重篤な副反応、それに伴って治療を中断しなければならなかった多数の患者さんがいらしたことは、忘れてはならず、今後は副反応低減ために、薬剤のドースを減らす、治療サイクル期間を長引かせるなどといった、方法論の議論も不可欠であると感じました。
文献
- Motzer, R. J., Tannir, N. M., McDermott, D. F., Arén Frontera, O., Melichar, B., Choueiri, T. K., ... & Powles, T. (2018). Nivolumab plus ipilimumab versus sunitinib in advanced renal-cell carcinoma. New England Journal of Medicine. 2018 Apr 5;378(14):1277-1290. doi: 10.1056/NEJMoa1712126. Epub 2018 Mar 21.
- Le, D. T., Uram, J. N., Wang, H., Bartlett, B. R., Kemberling, H., Eyring, A. D., ... & Biedrzycki, B. (2015). PD-1 blockade in tumors with mismatch-repair deficiency. New England Journal of Medicine, 372(26), 2509-2520.