心房細動は加齢とともに増加し、日本の疫学調査で60 代までは緩やかに1 %程度に増え, 80 歳以上で3 %程度の有病率を示すと言われています。原因疾患として、高血圧が60 %,虚血性心疾患が10 %,弁膜症が10~20 %とされます。加齢以外の原因として、心疾患(虚血性,弁膜症),飲酒、メタボリック症候群、慢性腎臓病,喫煙が、危険因子としてあげられています。
心房細動は,男性に多く認め、速い、不規則な心房興奮を特徴とします。心室の血液充満にあたり、心房収縮がはたす役割がなくなってしまうため,心拍出量が減少し、心不全の増悪因子となります。新規の心不全症例の半分に心房細動が合併する、あるいは、新規の心房細動の三分の一に心不全を合併する、とみられています。
ガイドラインによると、心不全例に認める心房細動の治療には「すみやかに抗凝固療法を開始し,心機能改善を目標とした治療を優先する」(1)と記され、もっぱら薬物療法が中心です。昨今、洞調律を回復させるために「アブレーション治療(心筋焼灼術)」と呼ばれるカテーテルを用いて心臓を直接焼却して心房細動を治療する方法による症例数が増えていますが、心不全との関係でどのような効果をもたらすのか議論されてきました。今般、心房細動と心不全を合併している症例を対象に、薬物療法とアブレーション治療を施し、アブレーション治療を行った群に良好な成績を収めたという結果が、NEJMに報告されました(2)。
[研究]
「CASTLE-AF」と命名されたプロジェクトは、「コントロールされた心不全に合併した心房細動患者で、カテーテルアブレーションが薬物療法に比較して、罹病率と死亡率を改善する」という仮説のもと研究が行われました。
[対象]
発作性心房細動あるいは持続する心房細動を有し、薬物での治療抵抗性を示すか、薬物の副作用で服用できないか、不整脈剤服用を望まないかたで、NYHAのクラスII,III,IVの心不全か、左室駆出率が35%未満の患者に、心房細動の再発をただちに検出できるよう、植え込み型除細動器ICDか両心室ペーシング機能付埋込型除細動器CRT-Dを装着しました。心臓移植候補者、心血管インターベンションが予定されている症例は除外されました。
[方法]
アブレーション群には、少なくとも50例のアブレーションの治療経験者によって、肺静脈隔離によってアブレーション治療が施されました。アブレーション後は、少なくとも6ヶ月のワーファリン治療が施されました。
薬物療法群には、安静時心室の心拍を60-80、中強度の運動時には90-115になるようにガイドラインに従って不整脈剤を投与しました。
[経過観察]
ICD、CRT-Dをホームモニタリングし、心房性不整脈が30秒以上持続した場合に再発と定義し、心房細動が再発した場合には、アブレーションを再度施行しました。
[評価項目]
全死亡症例数、心不全悪化にともなう入院症例数を一時評価項目としました。
[結果]
2008年から2016年にかけて、ヨーロッパ、オーストラリア、アメリカの33箇所で、3013人をスクリーニングし398人を試験登録しました。登録後5週間目まで残っていた363人は、179人がアブレーション群、184人が薬物治療群に割り付けられました。平均年齢は両群ともに64歳、男性の割合は、87%、84%、でBMIは、29.0、29.1、観察期間は、37.6ヶ月、37.4ヶ月でした(それぞれ順にアブレーション群、薬物治療群)。
アブレーション群に割り付けられた179人のうち151人(84.4%)がアブレーション治療を受け、28人(15.6%)は薬物療法に移行しました。アブレーション治療を受けたうちの149人は肺静脈隔離に成功しましたが、77例に別の病変が生じました。また37例が再度アブレーションを受けました。薬物療法群の184人中、18人がアブレーションを受けました。
[ 一時評価項目の検討]
死亡及び心不全による入院は、アブレーション群で薬物療法群よりも、38%有意に低下し(P=0.007 )、中でも心血管死は、アブレーション群で薬物療法群よりも51%有意に低下し(P=0.009)、アブレーション治療による良好な成績が明らかになりました。
[そのほかのアウトカム]
60ヶ月後の左室駆出率は、薬物療法群の0.2%に対し、アブレーション群で8.0%の有意な改善率を認めました(P=0.005)。また植え込みデバイスのメモリーから得たデータから「洞調律」は、アブレーション群で63.1%に認め、薬物療法群の21.7%に比べて有意に優れた結果を示しました(P<0.001)。
[有害事象]
アブレーション群で、心嚢水貯留を3例に認め、1例は穿刺術による治療を要しました。3例は重篤な出血によって輸血を要し、偽動脈瘤形成を認め外科的処置を要したのが1例、肺静脈狭窄を1例が発症しました。
[コメント]
これまでの研究では、薬物療法による心房細動のリズムのコントロールにベネフィットがあるのか、心拍のコントロールにベネフィットがあるのか決着がついていませんでした。また、試験のアウトカムとして、左室機能、運動能力、生活の質に関する報告はあったものの、心不全による入院や死亡に関するデータはほとんどありませんでした。今回の研究で初めて「アブレーションによるリズムコントロール」が、心不全による入院かつ死亡を、薬物療法よりも有意に低下させることが示されたことは朗報です。アブレーション治療をしても決して心房細動がなくなるわけではなく、時間にして25%残存し、一方で薬物療法では、心房細動の残存時間は60%でしたから、「心房細動による心不全のアウトカムをよくするには、心房細動の生じている時間を減らすことが肝要である」ことが明らかになった、と評価されています。
ただし、研究対象者が少なかったこと、対象患者の選別条件が厳しかったこと、無作為に患者を割り付けられなかったこと、経験豊富な術者によって施術が行われたことが有害事象を抑えられた所以ではないか、と指摘されています。
私は、有害事象症例として、外科術や穿刺術など大きな負担を要した患者さんがいらしたことから、この点に関しても注意深く検証をすべきだと感じます。いずれにせよ、心房細動を持ちながら心不全になる症例には、治療のリスクについて十分な理解を得た上で、アブレーション治療を選択しやすい医療サービスが求められるようになるのではないかと思います。
2 Hsu, L. F., Jaïs, P., Sanders, P., Garrigue, S., Hocini, M., Sacher, F., ... & Bordachar, P. (2004). Catheter ablation for atrial fibrillation in congestive heart failure. New England Journal of Medicine, 351(23), 2373-2383.