2016/02/01

愛し野塾 第58回 ソフトドリンクの砂糖含量を減らすという肥満対策の効果

肥満対策にソフトドリンクの砂糖含量をへらしてみたら

ソフトドリンクの売り上げは年々伸びる一方です。日本の炭酸飲料の消費量は、過去20年で20%の伸びを示しています(全国清涼飲料工業界のHP http://www.j-sda.or.jp/statistically-information/stati04.php)。さて、コカコーラ100ccに含まれている糖質が11グラムですから、350ccの缶を1本のむと、40グラム(160Kcal)近い糖質を取ることになります。肥満増加の原因のひとつに、ソフトドリンクがあげられる理由もよく理解出来るところでしょう。ロンドン大学のマー博士らは、<ソフトドリンクに含まれる砂糖の含量を徐々に減らしていくと、肥満、2型糖尿病予防効果があるのか>という問いに、数学モデルを用いることで挑戦し、そのレポートがランセットに発表され注目を集めています。
Ma, Yuan, et al. "Gradual reduction of sugar in soft drinks without substitution as a strategy to reduce overweight, obesity, and type 2 diabetes: a modelling study." The Lancet Diabetes & Endocrinology (2016).

肥満が原因となって死亡に至るケースは、世界中で年に300万人と推算されています。イギリスでは、成人の3人に2人、子供の4人に1人が、肥満とされ(2013年)、日本でも、子供の10%近くが肥満であると報告されています(2013年学校保健報告書)。最近では、日本の肥満児童数がやや減少傾向にあるとはいえ、こどもの肥満が、将来の2型糖尿病発症リスクとされている以上、現実的な対策をとらねばなりません。ソフトドリンクに添加されている砂糖は、子供が消費する全添加砂糖の30%を占めるとされます。どうやらソフトドリンクに含まれている砂糖は、ノンデモノンデモ満足感が得られず、結果として消費量が増えているようです。砂糖添加の清涼飲料水の消費による全世界の死亡者は、18万人いる、という推計もあるほどです。

 さて、英国では国をあげて減塩政策をしていることは、全世界の模範例としてよく知られているところです。政府主導で、80以上の主に食塩を含む食品を対象に徐々に食塩を減らしました。その結果、2003年の統計では、1日あたり9.5グラムもあった平均食塩摂取量は、2011年には、8.1グラムにまで減少させることに成功しました。事実、これに伴い、国民全体の平均血圧は、有意に低下し、脳卒中、虚血性心疾患の死亡率が有意に減ったのです。

同様の政策をとることで、砂糖摂取を減らし、結果的に、肥満と2型糖尿病発症率を減じることができるのか、これは重要かつ難しい課題です。固形食品のボリュームを減らすことなく、砂糖の含有量を、減じることは難しいといわれています。しかし、清涼飲料水ならば、ボリュームを同じにしながら、砂糖の含有量を減らすのは簡単でしょう。紹介する研究では、5年の対象期間で、清涼飲料水から、40%の砂糖含有量を、年あたり9.7%ずつ、徐々に減らした場合の肥満抑制効果を検討しています。
方法としては、英国版国民栄養調査と、ソフトドリンク協会のデータを用い、砂糖添加清涼飲料水の消費量を計算し、フリーシュガー(単糖類と2糖類)の摂取量とBMIとの関連を調査しました。

数学モデルによる試算によって、40%のフリーシュガーの添加削減は、1日あたりのカロリー摂取量のうち38.4Kcalの減少を実現することがわかりました。成人1人当たり、体重にすると1.2Kg(5年間)の減少となり、肥満者は、2.1%減ることが推測されました。20年後には、肥満に伴う2型糖尿病患者数は、27万人から30万人も減少することも推算されました。さらにこの効果は、高い砂糖添加清涼飲料水消費量の傾向がある青少年や、若年者、低収入層の方ほど、顕著であることが示されました。

国民栄養調査の結果から、正確なソフトドリンクの摂取量の試算は難しく、国民栄養調査のデータの不備については、専門家らによってたびたび批判されてきました。しかし今回の研究では、ソフトドリンク協会の協力を得て、データを集積し、ソフトドリンクの消費量についてより高い精度で推定しているところが、優れている点でしょう。一方で砂糖添加を減らした結果、ソフトドリンクの味が変わったとしても、そのほかの食品の摂取量は変わらない(つまり嗜好に変化が生じない)という仮定のもと行われた試算であり、数学モデルの前提条件について疑問が残ります。つまり、ソフトドリンクの甘みが減少していった場合、ケーキ等各種スイーツの甘味食品によって補償的に多く摂取するようになるといった行動変容が生じれば、この試算の妥当性・信頼性は落ちることになります。ソフトドリンク生産者側も、味覚的な変化を伴わない技術で、徐々に砂糖含有量を減らすことができるのかもしれません、が、実際には、この方法を適用するまでは、この辺りの是非を問うのは難しいのかもしれません。

「この研究報告を見れば、すぐにでも、肥満・糖尿病対策のために、国をあげて清涼飲料水の砂糖含有量減量政策をとらざるを得ないだろう」、というロブシュタイン博士の論評(同誌、同号)にも目がとまります。


我が国でもソフトドリンクについて、健康栄養教育の立場からの提言や、また特別課税をする案など早急な政策の実現化によって、次世代の肥満・糖尿病人口増加に歯止めをかけていただきたいものです。