2018/10/23

愛し野塾 第191回 胆嚢切除のリスクと食生活



日本人の胆石保有率は、5%と報告されています(文献1)。診断のゴールドスタンダードである超音波エコー検査によって、検診対象者の2-3%に胆石が発見されます。欧米では、胆石の有病率はさらに高く10-15%と報告されています。珍しくはない病気とはいえ、痛みの程度が強くなり、入院、手術を要する症例には、注意が必要です。初発症状として、腹痛、背部痛が57.1%、発熱9.5%、悪心、嘔吐7.5%、黄疸3.3%、無症状34.9%と報告されています。また肥満人口の増加、アルコール消費の増加から、胆石症患者数は増えていくことが予測されています。胆石症の主なリスク因子は、Forty(40歳代),Female(女性)、Fatty(肥満)、Fair(白人)、 Fertile(多産、経産婦)と言われ、それらの頭文字から5Fとして知られています。欧米の調査では、男性の2-3倍程度、女性における発症率が高いことが報告されています。そのほか、急激な体重減少、脂質異常症、高インスリン血症もリスク因子として挙げられています。
胆石が原因となって生じる症状・病態として、痛みのほか、胆嚢炎、膵炎、胆管閉塞があり、症状のある胆石は胆嚢切除術を施行する必要がありますし、胆石は胆嚢がんのリスク因子の一つでもあることから、無症状でも、十分な経過観察を要します。
これまで「胆石予防のための食事療法」を目的とした栄養学的調査は盛んに行われてきました。すでに高カロリー食摂取、炭水化物・糖質摂取が多いこと、動物性脂肪の摂取が多いこと、セダンタリーな生活習慣、夜間の長時間の絶食などは、食事に関するリスク因子として示されてきました。一方でリスク低下因子として、果物、ナッツ、多価不飽和脂肪酸、植物性たんぱく質、食物繊維、適度な飲酒、野菜、適度な運動、コーヒーがあります。しかし、こうしたリスク因子の発見に用いられた研究は、症例対照研究の結果に基づいており、想起バイアスが大きいと指摘されていました。2017年9月、フランスのグループが、前向きの大規模研究を施行した結果を公表し、食事と胆嚢切除のリスクについて、詳細な解析を行いましたので解説します(文献2)。
<対象>
E3Nと呼称されたこの研究は、ホルモンや環境因子と慢性疾患全般との関連について調査する、大規模前向きコホート研究です。1925年から1950年の間に生まれた98995人の女性、かつフランス在住で、保険により支払いをうけている、学校の先生および職場の同僚を対象としています。健康状態、医療記録、ライフスタイルは、2年ごとに質問票に答える形式で調査されました。アウトカムには、無症状の胆石ではなく、「胆嚢切除」としました。より明確にアウトカムが捕らえられると考えられたからです。
74,520人から得られた食事データをもとに、エネルギー摂取、要求バランスが大きく崩れているトップとボトムの1%(799人)、すでに胆嚢切除されている3392人、がん患者5311人、1993年の質問票に未回答の349人、経過が追えなくなった167人を除外し、最終的に64052人が解析対象となりました。そのうち2778人が胆嚢切除されました。
食事質問票:208の食事、飲み物について問われました。食事量は、写真つきブックレットを用いて算出し、かつ食事回数、食事グループを記載しました。1993年から1995年の間に食事質問票を郵送しました。体重、身長、出産回数、運動量、教育レベル、喫煙、糖尿病、ホルモン補充療法、ピル、コレステロール降下剤についても問い合わせました。
食事パターン:あらかじめ定義した57の食事グループをもとに因子分析をおこないました。地中海食:野菜、マメ科植物、フルーツ、シリアル製品、魚、オリーブオイル、適量のアルコール(5-25グラム/日)の7品目をプラスの食品とし、肉と加工肉、乳製品の2つをマイナスの食品としました。摂取量の平均値の上が1、下が0としました。スコアは最低が0、最大が9となりました。
<結果>
平均経過観察期間は18.2年、合計1033955人・年を解析しました。平均年齢52.7歳、経口避妊薬服用率61.3%、閉経後ホルモン療法54.3%、糖尿病既往者4.4%、平均BMI22.8、高学歴率36.2%、喫煙率13.5%、平均出産数2.0、運動時間49.3MET h/日、コレステロール降下剤使用率6.9%、全摂取カロリー(アルコール除く)2132.3kcal、アルコール摂取量11.6グラム/日、脂質摂取量802.4グラム/日でした。胆嚢切除を受けた方のBMIは、24.1とより高く、出産数は2.1人と多く、閉経後ホルモン療法56.1%、コレステロール降下剤使用11.7%、糖尿病7.7%とそれぞれ未切除の方より多いことがわかりました。経口避妊薬服用率は低く、社会経済的地位が低いことが見出されました。
食事グループ:複数の交絡因子で補正した結果、胆嚢切除リスクは、マメ科食物でHR=0.73(Ptrend<0.001)、フルーツ(HR=0.75,Ptrend<0.05)、植物油(HR=0.87,Ptrend=0.02)、全粒パン(HR=0.86,Ptrend=0.01)を摂取している方で低く、逆に、ハム摂取はリスク上昇(HR=1.22(Ptrend=0.005))への関与を認めました。
食事パターン:2つの代表的食事パターン(ウエスタン食群・地中海食群)が抽出されました。ウエスタン食群は「加工肉、缶詰の魚、卵、ライス、パスタ、アピタイザー、ピザ、パイ、ポテト、ケーキ、高濃度のアルコール、マヨネーズ」の摂取量が多く、地中海食群は「魚、フルーツ、野菜、オリーブオイル」の摂取量が多いことがわかりました。
ウエスタン食群は、年齢が若いこと、経口避妊薬使用が多く、コレステロール降下剤使用は少なく、喫煙者と糖尿病患者が多いことがわかりました。エネルギー摂取は高く、脂質、アルコール量も多いことがわかりました。ウエスタン食群と、胆嚢切除との間に相関はありませんでした。
地中海食群は、 高齢、過体重、ホルモン補充療法、高い運動量、高い教育レベルであることがわかりました。ただし、アルコール摂取、カロリー摂取はスコアが増えるにつれて多いものの、ウエスタン食群ほどではありませんでした。地中海食群では、胆嚢切除が少なくなる傾向がありました(HR­=0.91、P=0.077、有意差なし)。閉経後にホルモン補充療法を施行した地中海食群では、胆嚢切除との間に有意な負の相関を認めました(HR=0.79、P=0.008)。
地中海食スコアと胆嚢切除リスクの関係:地中海食スコアが高いと、高齢、高い運動量、高い教育レベル、高い摂取カロリーであることがわかりました。地中海食スコアと胆嚢切除リスクとは、負の相関がありました(スコア4-5、HR=0.97、スコア6-9、HR=0.89、Ptrend=0.02)。
<コメント>
ハム摂取が胆嚢切除リスクを増加させ、フルーツ、全粒パン、マメ科植物、オリーブオイル摂取が同リスクを下げること、すなわち、地中海食の摂取が胆嚢切除リスクを下げることが明確に示されました。そのメカニズムは、食事性ファイバーを多く摂取し、胆汁酸排泄を増やし、コレステロール合成抑制を促すことが関与している可能性が高いとされます。
研究上の問題点として、第1に、食事質問票では、回答者の記憶の曖昧さによるバイアスが疑われ、記載内容の不正確性が残ること。第2に、食事質問票は初回のみの施行で、観察期間中の食事パターンの変化については確認されず、バイアスとなった可能性が否めないこと。第3に、胆嚢切除リスク低下の割合は、比較的小さかったことから解釈には注意を要すると考えられる事です。第4に、比較的高学歴のフランス女性を対象にしたことから、普遍性に乏しい可能性があります。今後、食事質問票を経過中と研究開始時の最低2度は施行し、参加対象者の教育歴の拡大や男性も対象に含めた調査が必要になるでしょう。
胆石は、ありふれた疾患とは言っても、一旦症状が出れば、切除を検討すべき疾患です。また、胆嚢がん、胆嚢穿孔、胆嚢炎、膵炎などの重篤な合併症のリスクもある事を忘れてはなりません。食事習慣や体重管理に今一度心を配り、糖尿病始め、他の疾患にも利益があることが証明されている「地中海食の実践」を一層すすめたいと思います。

文献1 胆石症治療ガイドライン2016
文献2 American Journal of Gastroenterology 2017:112:1449-56
Diet and Risk of Cholecystectomy: A prospective study based upon the French E3N cohort

2018/10/21

愛し野塾 第190回 新規糖尿病薬の効果


日本国内において「糖尿病が強く疑われる人」は1000万人に達し、その数は増加の一途をたどっています。動作を不要とするセダンタリーな生活習慣や、食事の欧米化、また乱れた食事パターンなどが、その大きな原因でしょう。糖尿病でもっとも懸念される「合併症」の悪化によって、例えば、網膜症から失明にいたったり、腎症から透析治療を受けることになったり、神経症によって日常生活が制限されたり、また動脈硬化の亢進によって、心筋梗塞、下肢動脈閉塞などのリスクは増大し、命を脅かす状態になりかねません。糖尿病の罹患予防、そして治療に際して、食事療法や運動療法を主体とした生活習慣の是正が必要ですが、言うは易し、行うは難し、生活習慣を変えることは、本人の覚悟と周囲の協力が必要です。血糖コントロールが困難な症例では、その糖尿病治療、合併症の進行を抑制させるために、生活習慣指導と同時に、治療薬を用いた処方が必要になってきます。現在では糖尿病薬の選択肢が広がり、糖尿病治療は一見進んでいるようにも思えます。しかし、いまだ血糖コントロールが難しい方は少なくなく、新しい治療薬が待ち望まれているのも事実です。
さて、注目されているのが、グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)作動薬です。体内に存在する天然のGLP−1は、腸管内分泌細胞であるL細胞から分泌されます。GLP−1の生理的作用である「血糖依存性に膵臓からのインスリン分泌を促す」、また「胃では内容物の排出作用を妨げ、食欲も低下させ、食事摂取量を減少させる」といった特徴から、GLP-1作動薬による「血糖低下を促進するだけでなく、体重も減少させる」効果が期待され、大規模臨床試験によって、細血管合併症、大血管合併症を抑止する効果が示されました(文献1)。GLP−1作動薬は、理想的な糖尿病薬と認知される一方で、血糖及び、体重コントロールが困難な症例に十分な効果を示しているとは言えない状況です。
そこで、GLP-1作動薬の「血糖降下作用、体重減少作用」を「増強」するために、世界中で研究が行われ、今回、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)という別の腸管ホルモンに着目した研究が発表されました。GIPは、腸管内分泌K細胞から分泌され、GLP-1同様、血糖依存性のインスリン分泌作用を促進させます。2型糖尿病では、GIPの作用低下が示されています。そこで、GLP−1とGIPの両シグナルを同時に活性化させる物質を作成し、動物実験が施行されました。その結果、GLP-1作動薬よりも、血糖降下・体重減少作用が優れていることがわかりました。こうした基礎実験を経て、GLP−1受容体とGIP受容体の両者の作動薬である「LY3218976」の効果が、フェーズ2臨床試験に供されました。LY3218976は、GIPのアミノ酸配列に似た39アミノ酸からなるポリペプチドで、C20の脂肪重酸を持ち、長時間の薬効が期待される「1週間に1度」の皮下注射薬剤です。以下解説を行います(文献2)。
<対象>
フェーズ2b臨床試験は、試験期間26週間、ポーランド、プエルトリコ、スロバキア、USAの47医療機関が参加しました。条件は、(1)年齢: 18歳から75歳、(2)診断: 2型糖尿病、かつ、少なくとも6ヶ月以上コントロール不良(HbA1cが7−10.5%)。ただし、食事療法、運動療法をしているか、メトフォルミンを少なくとも3ヶ月以上使用している。(3)BMI: 23-50、でした。グループは無作為に(1)LY3298176を1mg、(2)LY3298176を5mg、(3)LY3298176を10mg,(4)LY3298176を15mg、(5)プラセボ、(6)1.5mgのDulaglutide、の6者に1:1:1:1:1:1に割付られました。
消化器系の副作用を和らげるために、LY3218976投与10mg投与群は、最初の2週間は5mg投与とし、15mg投与群は、最初の2週間を5mg、次の4週間を10mgとしました。
<アウトカム>
1次評価項目: 試験開始から26週目のHbA1cの変化(最低1度の、試験薬の投与・検査をされたかたをアウトカム評価の対象としました。)
2次評価項目: 試験開始から12週目までのHbA1cの変化。体重、空腹時血糖、腹囲の変化の評価。
<結果>
2017年5月から2018年3月まで、555人をスクリーニングし、条件を満たした318人が6群に割り付けられました。LY3298176投与群の1mgと10mgの群の各1名が一度も治療を受けず、316人が解析対象となりました。26週の治療完遂したのが258人(82%)でした。治療完遂率は、LY3218976を15mg投与群で、わずか66%、そのほかの群は82-86%とほぼ同一でした。
プラセボ投与群の平均年齢は、56.6歳、男性が57%、白人は80%、HbA1cは、8.0%、eGFRは、95.3、BMIは、32.4、糖尿病の罹病期間は8.6年でした。そのほかの5群の特徴もほぼ同様でした。
HbA1cの低下率は、プラセボと比較して、LY3218976で改善され、1mgで、-1.06%、5mgで-1.73%、10mgで、-1.89%、15mgで-1.94%でした。Dulaglutideは、1.21%低下。LY3218976と比較すると、1mgで、+0.15%、5mgで-0.52%(P=0.0152)、10mgで、-0.67%(P=0.0001)、15mgで-0.73%(P<0.0001)でした。
26週で、「HbA1c 7.0%以下」に達したのは、LY3218976治療群の33-90%(平均52%)でした。プラセボは、12%でした。「HbA1c 6.5%以下」に達したのは、LY3218976で39%、プラセボで2%でした。ほぼ正常値である「HbA1c 5.7%以下」に達たのは、LY3218976・10mg群の20%、15mg群の3分の1でした。
体重減少も同様に、プラセボに対し、すべての容量のLY3218976治療により、有意に良好な結果を示し、dulaglutideに対し、5mgで-2.1kg,10mgで-4.4kg,15mgで-6.2%となり、それぞれ有意な減少を認めました。また、LY3218976・10mg群の21.6%が、体重15%以上の低下、15mg群の24.5%が、体重 15%以上の低下を認めました。腹囲も、Dulaglutideに比べてLY3218976で、5mg、10mg、15mg各群で有意な低下がを認めました。内臓脂肪の減少が顕著であったことが推測され、これに伴う中性脂肪値の有意な低下、インスリン抵抗性も低下を認めました。
有害事象により治療中断になった主な理由は、消化器症状で、LY3218976では、1mgが3.8%、5mgが9.1%、10mgが5.9%、15mgが24.5%に認め、dulaglutideでは、11.1%に認めました。
<コメント>
GLP−1及びGIP受容体を同時に刺激するペプチド「LY3218976」が、dulaglutide 1.5mgに比べて、有意な血糖降下作用、体重減少を示し、ポジティブな結果が得られました。今後フェーズIII研究に駒を進め、実臨床応用に向けた効果の信頼性、妥当性、及び安全性の確認が期待されます。また、心筋梗塞をはじめとする大血管障害の抑止効果、及び、腎症、網膜症などの細小血管障害の抑止効果への期待が高まります。
さて、LY3218976治療による「血糖・体重の改善効果メカニズム」には、腹囲の低下、TGの低下、インスリン抵抗性の改善が密接に関与することがわかりました。この処方によって、内臓脂肪減少からメタボリック症候群の改善につながるかもしれません。問題点としては、15mg処方で認めた治療中止率24.5%の主たる原因となった強い消化器症状でしょう。投薬を漸増的に行うといった処方方法の改善、もしくは、15mg使用症例では、消化器症状に十分注意しながら、場合によっては、限られたかたのみの処方適用とするなど工夫が必要でしょう。
今回はフェーズII研究という性質から、対象人数も少なく、使用期間も短かったため、副作用などの詳細把握は不十分でした。今後、長期間、かつ大規模な試験の結果報告を待ちたいと思います。
さて、糖尿病治療開発は、どんどん進んでいる!という期待を抱かせる報告でした。バリアトリック術がもたらした劇的な糖尿病治療成果によって、腸管ホルモンへの関心につながり、こうした研究に展望が開けたのでしょう。今後もますます腸管ホルモンを中心とした薬剤開発への期待が高まります。


Marso SP, Daniels GH, Brown-Frandsen K, Kristensen P, Mann JF, Nauck MA, Nissen SE, Pocock S, Poulter NR, Ravn LS, Steinberg WM, Stockner M, Zinman B, Bergenstal RM, Buse JB; LEADER Steering Committee; LEADER Trial Investigators.
N Engl J Med. 2016 Jul 28;375(4):311-22. doi: 10.1056/NEJMoa1603827. Epub 2016 Jun 13.


The Lancet Published: October 4, 2018



2018/10/11

愛し野塾 第189回 うつ病と食事療法




昨年(2017年)、WHOは、「うつ病に悩んでいる人は、世界で3億2千万人に上る」と公表しました。うつ病は、気持ちの落ち込み、興味の喪失、食欲低下、睡眠障害など、あらゆる症状を招くだけでなく、自殺の主要因は「うつ病」ともいわれ、重症化が危惧される疾患として認識されています。我が国の罹患率は、男性4%、女性7%、女性に多いのが特徴です。また「うつ病」や「不安障害」は、労働年齢層に多発し、その結果、社会活動から身を遠ざけ、仕事に出ることができなくなってしまいます。こうしたうつ病による社会的損失は、地球規模で毎年100兆円以上とWHOによって試算され、有効な治療法の開発は喫緊の課題です。
「気分障害」と総称される心の疾患は、治療法が開発される一方で、効果を認めるのは、3人に1人程度、たとえ有効性を認めても、その半数に再発を認める難治性の疾患であることは明らかです。気分障害の症状緩和に向け、改善可能なリスク因子を見出すために様々な研究が行われてきました。すでに、生物学的、行動学的、遺伝学的要因が提唱されています。

さて、行動学的要因の一つである「食事」に着目した研究によって、気分障害を改善する候補因子として「ω3不飽和脂肪酸、ビタミンB、亜鉛、マグネシウムが挙げられています。効果をもたらすメカニズムとして「抗炎症、抗酸化ストレス、神経可塑性改善、ミトコンドリア機能改善、腸内細菌環境改善効果」などが示唆されてきましたが、個々の食事性因子をターゲットにした治療が、必ずしも効果を奏しているとはいえないのが現状です。そこで、より実践的な食事全体のパターンを明らかにして、気分障害を改善しよう、とする試みが盛んになってきています。中でも有力視されているのは「地中海食」(文献1)ですが、その内容を一般化するためには、より精密な科学的裏付けが求められていました。今回、イギリスUCLのラセイル博士らによって、さまざまな食事パターンと気分障害について、厳格なメタアナリシスが遂行され、その成果が9月26日、「Molecular Psychiatry」に発表されました(文献2)。この結果は、気分障害を是正しうる食事パターンの実現に向け大きな前進となるものとして評価され、注目されています。

<対象>
1946年から2018年5月までに報告された論文について、Medline, Embase, PsychoINFOのデータベースを基に、「うつ病あるいはうつ症状」、「ダイエット」、「インデックス、スコア、パターン、クオリティー」を検索項目として、Ovidで検索しました。選択の条件は、(1)エクスポージャーとして、包括的な食事アセスメントを食物摂取頻度質問票、24時間思い出し法、食事記録法、食事歴法を用いて施行していること、(2)アウトカムには、研究者によるうつ症状の診断、カルテ、自己申告、CES—Dによる評価(20アイテム法によるカットオフは16)を用いていること、(3)デザインとして観察研究であること、(4)年齢制限はなく、外来患者で、施設入所をしていない患者を対象としていること、としました。除外項目には、(1)エクスポージャーとして、全体の食事についての測定をしていないこと、(2)アウトカムとして双極性障害、全体的気分状態、心理社会的ストレッサー、認知されたストレスを対象としていること、(3)デザインとして介入試験であること、(4)対象者に妊娠者、授乳者、入院患者を選んでいること、としました。
<結果>
条件を満たした41本の研究論文(縦断的研究が20本、横断的研究が21本)のうち、10本が地中海式ダイエットスコア、7本がヘルシー・イーティング・ダイエット(HEI)スコア、4本がダッシュ・ダイエット(DASH)スコア、9本が食事炎症指数(DII)計測を用いていました。15本は、国の制定するガイドラインへのアドヒアランスを示すスコアや、ダイエットの質を表す一般的スコアなど、様々なスコアを計測していました。3つの研究は複数のスコアを同時に検討していました。3種類のスコア(地中海式ダイエットスコア、HEI、ベジタリアンダイエットスコア)を計測したものが1本、2つのスコア(地中海式ダイエットスコアとオーストラリア推奨食物スコア)を計測していたものが1本、AHEI(代替HEI)とほかの3つのスコアを比較していたものが1本でした。全部で44の解析スコアが用いられていましたが、解析のレベルの質的評価では、32本が高評価、12本が低評価でした。低評価のうち9本は、横断的研究によるものでした。
地中海食:スコア化には4つの指標が用いられていました。最初に開発された地中海式ダイエットスコア(MDS)をはじめ、相対的MDS(rMDS),代替MDS(aMDS),MSDPS(地中海式ダイエットパターンスコア)の3つのスコアが包含されました。MDSとrMDSは、9つのアイテムを含んでおり、5つは、健康に良いとされるもの(フルーツ、野菜、マメ科食物、穀類、魚)、2つは健康に悪いとされるもの(赤身肉と乳製品)で、加えて、健康に良いとされる脂質(単価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の比率(MDSにおいて検討されました)、オリーブオイルの摂取量(rMDSにおいて検討されました))の摂取、中程度のアルコール摂取が含まれました。MDSスコアの分布は、0-9点で、健康に良いアイテムは、平均よりも摂取が多いと1点、逆に低いと0点で、健康に悪いアイテムは、平均よりも摂取が少ないと1点、逆の場合は0点として算出されました。rMEDは、カットオフを3分割し、0-18点に分布させました。aMDSは、ひとつひとつのアイテムを、0点から5点(5点はアドヒアランス良好、0点は不良)に分類し、11個の構成アイテムを対象としました。MDSのアイテム全てに加えて、鶏肉(健康に悪いものに分類)、ポテト(健康に良いものに分類)を追加されており、全体としては、0-55点に分布させました。MSDPSは、13個の構成アイテムがあり、MDSのアイテム全部と、スイーツと卵を含み、それぞれのスコアが0-10点で、全体としては、0-100点に分布していました。
6つのコホート研究(いずれも縦断研究)が最終候補となり、フランス、オーストラリア(2つのコホート研究)、スペイン、UK、USで、9.1年の平均観察期間がありました。UKとUSの研究は、線形モデル、もしくは一般化した推定等式から求めたもので、ほかの4つのコホート研究の手法との差異が大きいため除外しました。その結果、対象となったのはフランス、オーストラリア、スペインの4つのコホート研究で、これらのメタ解析から、「もっとも地中海食へのアドヒアランスの良い群は、もっとも悪い群に比べて、33%も有意にうつ症状発症リスクが少ない」ことがわかりました。除外したUS研究匂いても、「地中海式ダイエットスコアが高いと、うつ症状発症リスクが下がる」という結論で、得られた内容には齟齬はありませんでした。一方、UKのものは、青少年を対象にしたものを含んでおり、この年齢層では、地中海食はうつ症状発症には影響しないと結論づけられました。US、ギリシャ、イランの3つの横断研究は、結果に統一性を欠いていました。
HEI:3本の長期の縦断研究がありました。UK、スペイン、フランスで遂行され、平均観察期間は、6.5年でした。4本の横断研究は、USとイランのものでした。スコアには、HEI-2005, AHI, AHEI-2010が用いられていました。HEI-2005は、「米国食事ガイドライン2005年」を基に作成された指標で構成され、スコアの幅は0-100点、全12個のアイテムの点数は、それぞれ5点か10点でした。HEI-2005の12アイテムは、すなわち「すべてのフルーツ、ホールフルーツ、すべての野菜、緑色野菜、黄色野菜、マメ科植物、すべての穀類、ホールグレイン、乳製品、赤身肉、ビーン、オイル、飽和脂肪酸、塩分、エンプティカロリー」でした。AHIは、9アイテム、すなわち「野菜、フルーツ、ナッツ、大豆プロテイン、白身肉と赤身肉の比率、穀類のファイバー、トランスファット、多価不飽和脂肪酸、マルチビタミン使用、アルコール」からなり、AHEI2010は、11アイテム、すなわち「野菜、フルーツ、ナッツ、マメ科植物、赤身肉と白身肉の比率、ホールグレイン、トランスファット、n-3脂肪酸、砂糖加味飲料、フルーツジュース、塩分」でした。
3本の縦断研究において、高いダイエットスコアを認めた群は、低い群に比較すると、うつ症状発症リスクは、24%の有意な減少を認めましたが、同時にヘテロジェナイアティー(異質性)を認めました。一方で、横断研究では、高いダイエットスコアを認めた群は、低い群に比較すると、うつ症状発症リスクは、47%の有意な減少を認め、同時にヘテロジェナイアティーも認めませんでした。
DASH:4本の研究で、ファング博士の開発したオリジナルDASHスコアか、モディファイドバージョンが用いられました。8アイテムから成り、ネガティブと評価される「甘み付けした飲み物、赤身肉、塩分」で、ポジティブと評価される「フルーツ、野菜、マメ科植物とナッツ、ホールグレイン、低脂肪乳製品」でした。1点から5点が付与され、性別も考慮し、点数分布は、9-40点でした。
縦断研究は、スペインの1本で、ファング博士開発のDASHスコアでは、うつ症状発症との関係で、逆相関関係が認められましたが、そのほかの3つのDASHスコアでは、相関を認めませんでした。イランの横断研究では、思春期の女性でのみ、うつ症状と負の相関がありました。DASHスコアとうつ症状との関連の研究は、数が極めて少なく、いまだ未熟な段階であることが示されました。
DII:45個の食物パラメーターによって炎症評価が行われました。UK、US、フランス、オーストラリア、スペインのコホート研究、及び、US、アイルランド、イランの4本の横断研究がありました。横断研究では、うつ症状発症リスクと負の相関を認め、うつ病発症リスクは36%低下、縦断研究では、24%の低下を認めました。
<コメント>
本研究調査から、「うつ症状発症リスクを下げるためには、地中海食を遵守し、炎症を引き起こしやすい食事をさけること」が示されました。「フルーツ、野菜、ナッツ」の摂取を増やし、「加工肉、トランスファット、中程度のアルコール摂取」などの炎症促進因子を避け、こうした食生活の習慣化が、うつ症状を回避し、精神的に安定した日常生活の実現できるといった可能性が広がったのではないでしょうか。こうした食事療法は、動脈硬化予防、認知症予防、糖尿病発症予防にも効果的とされており、今後の食事療法の中心的役割をはたしていくことになるものと予測されます。
脳神経系への障害をきたすメカニズムとして「酸化ストレス、インスリン抵抗性、炎症、血管形成変化」が挙げられています。「地中海食と抗炎症食との組み合わせ」は、こうしたダメージを予防、修復してくれる可能性があり、その詳細は今後の研究によって明らかにされるでしょう。
こうなると、高精度のうつ症状の診断が求められます。ほとんどの研究では、CES-Dが用いられ、一部、MFQ、BCIも用いられました。実際に診察までして診断をしたのは、一部にとどまりました。採用された各研究毎のうつ症状の診断に違いがあった可能性は否定できません。また、「うつ症状」と「うつ病」とは異なり、うつ症状の「一過性、かつ、自然回復する可能性がある」といった性質が、バイアスとなっていないか、疑問が残ります。また、食物摂取質問票による調査は、ワンポイントでしか遂行されていないことから、調査期間中の食事内容の変化の可能性が考慮されていない懸念が残ります。今後はさらに研究の精度を高めていって欲しいと願うところです。いずれにせよ、うつ症状緩和、及び予防のためには、適度な運動を交えながら、食事は地中海式を基準にし、各人の病態や健康状態と照らし合わせた上、抗炎症食も組み合わせていくことになりそうです。
文献1
Ann Neurology 2013:74:580-591
文献2
Molecular Psychiatry published online on September 26,2018
Doi.org/10.1038/s41380-018-0237-8

2018/10/09

愛し野塾 第188回 糖質制限食の危険を警鐘する





「肥満」は、メタボ症候群、睡眠時無呼吸症候群、がんなどの罹患リスクを上昇させ、時には、生命を危険に晒す因子となると言っても言い過ぎではないでしょう。
日本では、「肥満」はBMI25以上をさし、男性で約30%、女性で約20%のかたが該当します。米国では、BMI30以上を「肥満」と定義しているものの該当者が多くCDCの報告では、肥満の疾病対策費用は、医療費全体の9%に上り国家予算を圧迫し続けています。2003年のNEJMで2本の糖質制限食の有効性を記した論文が報告されて(文献1、2)以来、メディアでも大きくとりあげられ、一般大衆に広がりました。実際、このダイエットの実践者は、米国では19%もいることがわかっています。しかし、糖質制限の有効性や安全性については、大きな議論となっており、「糖質制限は、死亡率を上げる食事療法ではないか」、という糖質制限反対を支持するデータがランセットでも報告されています(文献3)(愛し野塾184回参照)。
「糖質制限ダイエット」に関する研究の問題点の一つとして、参加者のアドヒアランスが極めて低いことが指摘されています。参加者のドロップアウトの割合が約50%で研究の信頼性が疑問となるわけです。例えば薬剤効果に関する治験では、大多数で99%程度の良好なアドヒアランスが得られ、高い信頼性が担保されています。半数がドロップアウトしてしまうような研究を元にした知見が「一般のかた」に適用していいとは到底思えません。しかし、現実的に「参加者アドヒアランス」の問題の克服は容易ではなく、研究結果のばらつきの理由の大きな要因となっていたのです。
さて、今回、行動療法を用いて自己管理術に精通させた参加者を対象に、「糖質制限」「低脂質」「ビーガン」の3通りの食事療法に無作為に割付け、それら食事療法を厳格に管理させ、100%のアドヒアランスを達成した上で、体重、心血管病マーカーについて調査した結果が発表されました(文献4)ので、この論文について考察してみたいと思います。
<対象>
本試験の登録候補者673人から、120人のボランティアが選ばれました。いずれも実地医からの紹介者です。試験参加の条件は、「BMI 30以上、年齢 30-59歳、非妊娠者、心臓疾患がない、薬物及びサプリの服用なし、食事アレルギーがない、他の臨床試験に参加していない、糖尿病、肝臓疾患、腎臓疾患、消化器疾患、がんがない」ことでした。3つの食事療法に各40人ずつ割り付けられました。
カウンセリングは「支持的だが非指示的」な方法が用られました。試験開始時は、50-60分、その後は、6週ごとに20-30分のカウンセリングが行われました。1日あたりの摂取カロリーは1500-1600Kcal、「糖質制限、低脂肪、ビーガン」食、それぞれに蛋白、糖質、脂質の具体的な情報が与えられました。加工品、精製品を避け、自然食、複合糖質摂取を推奨しました。
<ビーガン食>
肉を避け、乳製品、卵も食さないように指示されました。蛋白は、マメ科植物、ナッツ、大豆から、脂肪は、野菜から摂取するようにしました。
<低脂肪食>
脂肪摂取が全カロリーの25%を超えない。また1日摂取飽和脂肪酸が5グラムをこえないように指示されました。スキムミルク摂取が推奨されました。
<糖質制限食>
糖質が全カロリーの25%を超えない。脂質が全カロリーの50%、たんぱく質が全カロリーの25%としました。
冠動脈血流は、心筋灌流イメージング法で測定し、イスケミックインデックスで表しました。食事療法が守られているかどうかは、尿のケトン体測定、呼吸商の値を参照にしました。運動療法は、歩行、バイク、スイムのいずれかを週に3回、1回30分するように指導されました。
<結果>
参加者は、男性63人、女性57人、平均年齢は43.7歳でした。BMIは42.4と高値で、LDL-Cは185、HDL-Cは42.2、TGは195と脂質異常を認めました。CRPは1.07、Il-6は5.89でした。3つの食事療法に割り付けられた参加者のプロファイルに違いはありませんでした。また、各食事療法で、ビタミンサプリあり・なしを半数ずつ(20人ずつ)割り付けました。参加者の試験の完遂率は100%で、離脱したひとはいませんでした。試験は1年間続けられ、その後食事療法を中止しました。
1年後の体重平均で13.3Kgの減少を達成し、3群の体重減少量の違いはありませんでした。それぞれ、<低脂質食>121.6kgから108.1Kgに減少、その後4ヶ月後は、107.9Kg 、<ビーガン食>125.6Kgから110.7Kgに減少、その後4ヵ月後は111.4kg、<糖質制限食>129.9Kgから111.1Kgに減少、その後4ヶ月後は、113.3Kgでした。
脂質、炎症のプロファイルについて、3群に差を認めました。<糖質制限食>では、脂質プロファイルの悪化、炎症パラメーター、冠動脈血流の悪化を認めました。一方<低脂肪食><ビーガン食>では、いずれも改善を認めました。具体的には、<糖質制限食>では、ビタミン補充をした場合、LDL-Cは203.8から1年後に228.3へ増加、TGは、208.4から232.9に増加、IL-6は5.28から7.23へ増加、Fibは332.6から372.4へ増加、Lp(a)は20.2から25.5へ増加、イスケミックインデックスは0.066から0.116に悪化、していました。ビタミン補充をしない場合には、CRPも1.07から1.26に上昇、Hcyは16.4から23.0に上昇していましたが、そのほかのパラメーターは同様の変化を示しました。一方、<低脂肪食>では、ビタミン補充をした場合、LDL-Cは、186.2から121.8へ大幅な減少、TGは181.4から118.1へ減少、CRPは0.54から0.13に低下、Il-6は6.02から3.33に減少、Hcyは13.4から7.5に減少、Fibは332.6から310.4に減少、Lp(a)は24.9から14.7に減少,イスケミックインデックスは、0.094から0.053に改善しました。ビタミン補充をしない場合は、Fibが326.7から333.9へ上昇していましたが、そのほかのパラメーターはほぼ同様の動きをしました。<ビーガン食>では、ビタミン補充をした場合、LDL-Cは、181.7から119.0へ大幅な減少、TGは195.1から127.0へ減少、CRPは2.34から0.28に低下、Il-6は5.83から3.55に減少、Hcyは13.9から9.1に減少、Fibは327.4から329.1に増加、Lp(a)は23.4から19.0に減少、イスケミックインデックスは、0.080から0.071に改善しました。ビタミン補充をしない場合は、Fibが331.5から321.4へ減少していましたが、そのほかのパラメーターはほぼ同様の動きをしました。
結果をまとめると、Hcyは、低脂肪食、ビーガン食で有意に低下(P<0.001)、糖質制限食で有意に上昇(P<0.001)していました。Fibは糖質制限食で有意な上昇(P<0.001)を認めましたが、低脂肪食、ビーガン食では変化がありませんでした。Lp(a)は、糖質制限食で有意な上昇(P<0.001)、低脂肪食、ビーガン食で有意に低下(前者はP<0.001、後者はP<0.01)していました。LDL-CとTGは低脂肪食、ビーガン食で有意に低下(P<0.001)、糖質制限食で有意に上昇(P<0.001)していました。CRPはイフェクトサイズも小さく、変化の程度も有意なものでなくトレンド程度でしたが、炎症のマーカーとしてより重要とされる、IL-6については、TGは低脂肪食、ビーガン食で有意に低下(P<0.001)、糖質制限で有意に上昇(P<0.001)していました。冠動脈血流(イスケミックインデックス)は、低脂肪食、ビーガン食で有意に改善、糖質制限で有意に悪化していました
<コメント>
3つの異なる食事療法を参加者のドロップアウトなしに見事1年間施行できた行動療法の結果として、3つの食事療法すべてで、体重が10%ほど低下していたにもかかわらず、「糖質制限食」で脂質、炎症のパラメーター、冠動脈血流の悪化を認め、一方で「低脂質食、ビーガン食」では改善を認めました。糖質制限をすると、動物性蛋白の摂取が多くなることで、脂質プロファイルを悪化させ、ひいては、炎症を惹起させることで、冠動脈血流を低下させるのではないかと説明されるでしょう。最近発表されたランセットの「糖質制限は死亡率を上げる」とする内容(文献3)と大変類似する結果が得られました。糖質は全体のカロリーの少なくとも50%は摂取したほうがいい、という主張は合理性があるのではないでしょうか。
ここで用いられた行動療法は、「バンドーラ」カウンセリングに基づく、習慣獲得と習慣除去法を組み合わせたものです(文献5)。この方法を用いて、いずれの食事療法も参加者が習慣付けることに成功したため、ドロップアウトゼロを実現できたと論文では主張しています。今後この方法は、日常臨床における生活管理にも役立つのではないでしょうか。
本論文の著者は、「これまでの糖質制限の研究は、ドロップアウト群のデータをカウントせず、LDL-コレステロールが上がれば、除外し、完遂したかたのみを対象とした結果を解析していた」と主張しています。ドロップアウトが40-60%に及べば、ドロップアウト群のバイアスがあまりにも大きく、得られたデータの信憑性に疑問をいただかざるを得ない状況でした。今回、ドロップアウトゼロでの1年間糖質制限をした結果が、これまでと異なるデータが得られたことは、当然かもしれません。これまでの糖質制限の研究では、LDL—コレステロールは低下し、脂質プロファイルは良くなる、心血管病のマーカーも改善する、と報告されていました。著者の主張もあながちまちがってはいないようです。糖質制限をダイエットの基本とすることは危険である、ことを示唆する本研究成果は、見過ごしてはならないものとなりました。


Samaha FF, Iqbal N, Seshadri P, Chicano KL, Daily DA, McGrory J, Williams T, Williams M, Gracely EJ, Stern L.
N Engl J Med. 2003 May 22;348(21):2074-81.
Foster GD, Wyatt HR, Hill JO, McGuckin BG, Brill C, Mohammed BS, Szapary PO, Rader DJ, Edman JS, Klein S.
N Engl J Med. 2003 May 22;348(21):2082-90.
Seidelmann SB, Claggett B, Cheng S, Henglin M, Shah A, Steffen LM, Folsom AR, Rimm EB, Willett WC, Solomon SD.
Lancet Public Health. 2018 Sep;3(9):e419-e428. doi: 10.1016/S2468-2667(18)30135-X. Epub 2018 Aug 17.
Fleming RM, Fleming MR, Harrington GM, Ayoob KT, Grotto DW, McKusick A.
Clin Cardiol. 2018 Sep 27. doi: 10.1002/clc.23047. [Epub ahead of print]
文献5 Bandura A. Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change.
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