日本の高血圧患者数は、約4300万人に達し、「高血圧症」は今や「国民病」と呼ばれてもいたしかたない生活習慣病です。血圧が上がる主な原因には、塩分の取りすぎ、生野菜、果物の摂取不足、運動不足、ストレス過多、過剰なアルコール摂取量、太りすぎ、睡眠時無呼吸症候群などが挙げられます。生活習慣の適正化によって、血圧はコントロール可能であると考えられていますが、言うは易し行うは難し、ですね。漬物の達人から、当地の野菜づくしのお漬物をいただいたら、味見といいながらもすべて平らげるでしょうし、美味しくて安いインスタントラーメンがコンビニに並んで、かつお湯まで用意されていれば、ついつい買って食べてしまうでしょう。出歩かなくとも、インターネットにアクセスすれば好奇心を満たす情報をゲットできるし、スマホ中心のセダンタリーな生活習慣も老若男女、常態化しています。仕事の後、CMをみれば、アルコール飲料を魅力的な役者さんがおいしそうに飲んでいます。水よりもお酒・・・に手が出てしまいます。適度な運動を取り入れた正しい食生活を送るのは、高い志とそれを維持する決意が必要です。
困ったことに、血圧上昇が続くと、動脈硬化が進み、心筋梗塞、狭心症に代表される心血管病の発症頻度が高まり、死亡率も上がります。血圧管理をするには、もはや生活習慣を変えるだけでは効果を認めづらく、薬物療法を考慮するかたも増える中、家庭での自己血圧測定を中心とした「家庭血圧の重視」が示されています。一方で病院で測る外来血圧と家庭血圧は、様々な理由から計測値が食い違っていることも多く、患者さんの混乱を招いているケースが少なくないことも事実です。また、どちらの血圧測定値が、実際の死亡リスクや心血管病発症リスクの指標としてより反映されるのかも、いまだ判然としないのも混乱を招く所以です。
今回、これら2つの問題解決に取り組んだ、大規模研究がスペインで行われ、その結果が、医学誌NEJMに発表になりましたので、取り上げたいと思います(1)。本研究では、家庭血圧の代替法として、より厳格に血圧管理に有用な24時間血圧測定(ABPM)が用いられました。
ABPMは、文字通り24時間、体に装置を取り付けて血圧を測定する方法ですが、ABPMによって、夜間は昼間にくらべて血圧が低いことがわかり、血圧評価の研究に大きく貢献しました。また、外来での血圧測定では正常でも、ABPMによる血圧が高い「仮面高血圧」の患者さん、逆にABPMで正常血圧を示すものの、外来血圧だけ高い「白衣高血圧」の患者さん存在も検出されました。携帯式のABPM測定装置の重さは、1980年代は、2.3Kg もあり、装着を嫌うかたも多かったのですが、最新式のものは、わずか0.45Kg。多くのひとに受け入れられるようになりました。
<対象>
2004年から2014年の間に登録したスペインの63,910人を対象とし、4.7年の観察期間が設けられました。「持続高血圧」の定義は、外来血圧とABPMがともに高値であること、「白衣高血圧」は、外来血圧は高値を示すが、ABPMでは正常であること、「仮面高血圧」として、外来では、正常で、ABPMは高いこと、「正常血圧」は、外来、ABPMともに正常であることと定義されました。
<結果>
対象者の平均年齢は、58.4歳、男性が58%を占めました。平均の外来血圧は、147.9mmHg/86.7mmHg、ABPMの平均値は、129.2mmHg/76.5mmHgでした。
登録された対象者の血圧による分類では、正常血圧:6.6%、コントロールされている高血圧:10.5%のかた、治療を受けていない白衣高血圧:10.4%、治療を受けている白衣高血圧:17.3%のかた、治療を受けていない仮面高血圧:3.6%のかた、治療を受けている仮面高血圧:4.8%のかた、治療を受けていない持続する高血圧:19.6%、治療を受けている持続する高血圧:27.2%でした。
4.7年の経過観察期間中、死亡数3,808人、そのうちの1295人が心血管病に起因し、内訳は、440人が虚血性心疾患、291人が脳卒中、123人が心不全でした。
外来血圧とABPMの間に、中程度の相関を認め、収縮期血圧のイントラクラス相関係数は、0.57(P<0.001)、拡張期血圧の場合、0.70(P<0.001)でした。両者を、心血管病リスク因子で補正すると、全死亡、心血管死ともに、特に収縮期血圧で、相関を認めました。外来収縮期血圧の全死亡に対する予測能は、補正をABPM収縮期血圧でさらに行うと消失することがわかりました(HRが1.54から1.02に低下)。しかし、ABPM収縮期血圧は、外来血圧値での補正によっても、全死亡の予測能は変わらないことがわかりました(HRが1.58が1.58と同値)。
最初に外来血圧のデータを取り込み作成したアウトカムモデルに、後からABPMのデータを入れると、死亡予測能は有意な改善を認めましたが、最初にABPMのデータを取りいれたアウトカムモデルでは、後から外来血圧のデータをいれても、死亡予測能は改善されませんでした。
得られた結果は、年齢、性別、肥満、糖尿病、心血管病、降圧剤の種類による補正でもほぼ変わりありませんでした。「虚血性心疾患、脳卒中、心不全に起因する死亡」と「ABPM収縮期血圧」との関係は、「外来収縮期血圧」との相関に比較して、より強い相関を認めました。
「全死亡」と最も高い相関を認めたのは、持続高血圧のHR1.80、白衣高血圧の1.79よりも高い2.83というHRを示した「仮面高血圧」でした。また、仮面高血圧のうち、コントロール不良の症例では、良好の場合に比べて全死亡のHRは2.61、心血管病のHRは2.48と高い値を示しました。
全体の27%が白衣高血圧でした。降圧剤による治療について、不使用が10%、17%は使用し、前者は、ABPM、外来血圧ともに正常者に比較して死亡リスクが2倍増加していました。しかし、使用症例の死亡リスクは、増加を認めませんでした。
仮面高血圧のうち、治療を受けていない人は全体の4%で、治療を受けている人は全体の5%でした。両者ともに、外来、ABPMともに高血圧を示す群に比べて死亡のHRが高いとわかりました。
<コメント>
今回の大規模研究の結果によって、外来収縮期血圧ではなく、「ABPMで計測した収縮期血圧の方が、全死亡、心血管死を予測する因子として重要である」ということが明確に示されました。改めてABPMが高く評価され、ABPMによる血圧測定をますます充実させていくためにより軽量で安価な装置の開発が望まれます。またABPMの一層の普及が成功するまでは、家庭血圧によって代用されていくことになるでしょう。家庭血圧についてのより適切な指導も大切な課題でしょう。
また、従来より仮面高血圧の危険性は指摘されていましたが、持続高血圧よりも全死亡に対するリスクが高いことが明確になったことは驚きでした。仮面高血圧は、診断までに時間を要することもあり、発見時には動脈硬化が進んでしまっている恐れがある、といった議論もありますので、今後、証拠に基づいた解明が必要でしょう。まずは、クリニックで血圧が低いから安心・・・ではなく、血圧はセルフチェックすべきもの、という意識改革が必要だと思います。
さらなる驚きは、「白衣高血圧」が「持続高血圧」と同じレベルの全死亡予測因子であることが判明したことです。従来、白衣高血圧は、正常血圧に対してわずかな死亡リスクの上昇効果しかないと考えられていましたが、本研究によって平均血圧が、ABPMの119.9/79.9が、外来血圧の116.6/70.6より有意に高く(p<0.001)、死亡リスクの上昇に寄与したのではないかと考えられていますが、より一層の研究進展を期待したいところです。
研究の弱点は、外来血圧の条件を2度の測定の平均値としていることから、過大評価の懸念があることが指摘されています。血圧は測定回数とともに低下することが知られているためです。また、ABPMは一度しか施行していないかたが多く、再現性の観点から批判されるところでしょう。またABPMを一度しかしていないひとについての処方内容も不明でした。こうした弱点を克服するために、より厳格な研究が期待されます。
長期かつ大規模な研究から、外来血圧の管理の限界が明らかとなり、家庭で計る血圧の重要性が再認識されたと感じるところです。家庭血圧は、測定の起床後1時間以内、就寝直前、できるだけ同じ環境で測定することがポイントです。 元気なうちから、健康のバロメーターとして習慣づけることをお勧めします。
文献
(1)N Engl J Med. 2018 Apr 19;378(16):1509-1520. doi: 10.1056/NEJMoa1712231.
Relationship between Clinic and Ambulatory Blood-Pressure Measurements and Mortality. Banegas JR1, Ruilope LM1, de la Sierra A1, Vinyoles E1, Gorostidi M1, de la Cruz JJ1, Ruiz-Hurtado G1, Segura J1, Rodríguez-Artalejo F1, Williams B1.