これまで、治療抵抗性を有する「がん」、とりわけ悪性黒色腫に代表される「固形がん」、血液の「悪性腫瘍性疾患」は、鑑別診断に至ったときにはすでに、治療法がない症例も少なからず存在し、患者、家族そして担当医も途方にくれてしまうことがしばしばありました。
しかし、昨今の癌治療法の目覚ましい進歩によって、この状況を打破する可能性がでてきました。特に、「免疫チェックポイント阻害剤」の登場によって、治療抵抗性癌にまで及ぶ抗がん効果が有意に改善され、生存率も数年単位で伸びる、という結果が得られ、一筋の光明が差し込んでまいりました。従来の癌治療は、無秩序な細胞増殖を惹起する癌遺伝子をターゲットとして開発されてきました。この方法論では、それぞれの癌で活動性を増しているがん遺伝子を標的とした特別な治療を要します。しかし、残念ながら、活動性を増しているがん遺伝子が複数存在する場合には、治療期間中に当該治療に対する抵抗性を有する遺伝子変異が生じる等、当初期待されていた治療効果を十分に得られない、という結果は理解可能で、「治療抵抗性を有するがん細胞」が臨床上重要な課題となっていました。
しかし、昨今の癌治療法の目覚ましい進歩によって、この状況を打破する可能性がでてきました。特に、「免疫チェックポイント阻害剤」の登場によって、治療抵抗性癌にまで及ぶ抗がん効果が有意に改善され、生存率も数年単位で伸びる、という結果が得られ、一筋の光明が差し込んでまいりました。従来の癌治療は、無秩序な細胞増殖を惹起する癌遺伝子をターゲットとして開発されてきました。この方法論では、それぞれの癌で活動性を増しているがん遺伝子を標的とした特別な治療を要します。しかし、残念ながら、活動性を増しているがん遺伝子が複数存在する場合には、治療期間中に当該治療に対する抵抗性を有する遺伝子変異が生じる等、当初期待されていた治療効果を十分に得られない、という結果は理解可能で、「治療抵抗性を有するがん細胞」が臨床上重要な課題となっていました。
そこで、新しい考え方として、本来、自身の体が持っている免疫力を利用して、がんに対する「がん免疫」を高め、治療をする手法が用いられるようになりました。がん免疫療法による抗がん作用は、がん遺伝子の「種類」とは無関係に普遍性のある治療が可能となり、活動性を増している癌遺伝子が複数だろうが、遺伝子変異をきたそうが、有効に抗がん作用をもたらす可能性が高い点が特徴とされています。特にがん免疫療法の代表格である「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれる治療では、従来法で治療抵抗性を示していたがん治療に対して有意な治療効果を認めています。
今回、新しく開発された「がん免疫療法」と「免疫チェックポイント阻害剤」を組み合わせることで、さらに高い抗がん効果が認められた研究結果が雑誌「Cell」に報告されましたので、解説しましょう。
この免疫療法は、すでに血液の悪性疾患(骨髄異形成症候群)に使用されている、「エピジェネティック•モデュレーター」(薬剤名は、アザシチジン、商品名はビダーザ(VIDAZA))によるものです。「エピジェネティック•モデュレーター」は、「免疫チェックポイント阻害剤の作用を増強することができる」と考えられています。
本研究の実験によって、エピジェネティック•モデュレーターの作用機序は、大変ユニークで奥深いことがわかってきました。ハーバード大学のチアピネリ博士らは、「ウイルス感染が引き起こす細胞の反応」と「エピジェネティック•モデュレーターの抗癌作用」を結びつけたのです(Chiappinelli KB, Strissel PL, Desrichard A, et al. Inhibiting DNA methylation causes an interferon response in cancer via dsRNA including endogenous retroviruses. Cell 2015;162:974-986)。
すなわち、細胞がウイルス感染を起こした場合、細胞は、細胞自身が死滅しないよう、ウイルスに対抗するべく、生来そなわっている防御機構の活動性を増強させます。この防御機構の本態は、「ウイルス防御遺伝子の発現」を示し、ウイルスを除去しようとする免疫反応を高める作用をもっています。この防御機構を、実は、「エピジェネティック・モデュレーター」が、活性化し、がん免疫性を高めていることが分かったのです。
「癌ゲノムアトラス研究」に登録されていた、メラノーマ、卵巣がん、乳がん、大腸がん、肺がんの「ウイルス防御遺伝子」の発現量を調査した結果、これらの遺伝子の発現量が多いほど、治療効果が良い傾向にあることがわかりました。「免疫チェックポイント阻害剤(抗CTLA4治療)」の長期間にわたる持続的効果は、「ウイルス防御遺伝子」発現量に依存し、この発現量が多いほど、有効だったことも判明しました。
さらに「エピジェネティック・モデュレータ」である「アザシチジン」を、メラノーマのマウスモデルを用いて、「免疫チェックポイント阻害剤(抗CTLA4治療)」の効果を増強できるのかどうかについて評価しました。アザジシジンの前処理によって、抗CTLA−4治療の効果は有意に増強され、「メラノーマ細胞が、マウスから完全に除去される」という驚愕の結果が得られたのです。
腫瘍にウイルス防御遺伝子が高率に発現しているほど、免疫細胞のリンパ球が、腫瘍表面にでている、癌抗原(ネオアンティゲン)を標的として、攻撃を仕掛けやすくなるという仮説が証明された意義は、極めて大きいものといえるでしょう。
一方で、カナダのRouloisのグループは、「ヒト大腸がんの細胞」を使用し、メチルトランスフェラーゼ阻害剤が、ウイルス防御遺伝子群の発現を上げることで、抗腫瘍効果を上げているとの結論に至り、チアピネリ博士とほぼ同様の結果が得られました(Roulois D, Loo Yau H, Singhania R, et al. DNA-demethylating agents target colorectal cancer cells by inducing viral mimicry by endogenous transcripts. Cell 2015;162:961-973)。
このように革新的な考え方が、基礎医学の最高権威とされる「セル」誌に同時に発表され、その信憑性は揺るぎがないものと受け取られています。
さて今回の研究を受けて、米国では、早速、2015年10月から肺がん患者の登録を開始し、臨床研究に着手し始めています。肺がん患者を対象に、免疫チェックポイント阻害剤(薬剤名:ニボルマブ、日本の商品名:オプジーボ)とエピジェネティック・モデュレーター(アザシチジン)を組み合わせた治療法が効果をもたらすかについて検討をし始めました。
基礎研究の成果が、いよいよ実臨床で生かされ、多くの患者さんが、救われることを強く願っております。