2017/03/17

第113回 愛し野塾 野菜とフルーツの摂取もたらす抗動脈硬化・抗がん効果


我が国の総死亡者数から 「心血管病、もしくは、がん」が、死因のほぼ半分を占めることが「2015年人口動態統計月報年計」で明確に示されました。心血管病及び、がん予防法に注目が集まり、多くの疫学研究が行われてきました。なかでも「野菜とフルーツの適切な摂取による心血管病・がん発症の抑制効果」は、あらゆる立場から提唱されている一方で、エビデンスに基づいた明確な指針、つまり摂取量、摂取するフルーツや野菜の具体的な種類までは、未だ不明瞭なままでした。

健康日本21(文献1)によると、厚生労働省は、一日あたり350グラムの野菜摂取を推奨していますが、その根拠は、明確なものではありませんし、特別にどの野菜を食べなさい、と明示しているわけでもありません。フルーツについては、記載すら見当たりません。「野菜とフルーツの総摂取量」について、各国間で比べても隔たりがあり、世界がん研究基金、WHO、および英国では、一日400グラム摂取を推奨し、スゥェーデンでは500グラム、デンマークでは、600グラム、ノルウエーでは650から750グラム、米国では、640-800グラムを推奨しているといった状況で、各国、各機関でこれだけ推奨摂取量が異なるのは、すなわちエビデンスが乏しい、もしくは曖昧であることに起因していると考えられています。

2014年(文献2)、大規模なメタ解析によって、75グラムの野菜とフルーツを摂取するごとに、全死亡リスクが5%低下し、375グラムまで直線的に死亡リスクが低下することが示されました。しかし、野菜とフルーツの摂食の増量が、がん死亡率の低下を促すことは明確に示されませんでした。この論文の問題として、調査対象論文の選択にバイアス(全死亡に関する論文、20本が除外されていました)が存在したことが指摘され、対象者は80万人と多かったものの、より正確なメタアナリシスが必要である、との専門家によって指摘されていました。

さて、今回ここに採り上げました英国インペリアルカレッジのAune博士らによる最新の論文では、当時除外された論文も加えた上に、2014年の発表以後の16個のコホート研究も加えて、詳細なメタアナリシスが行われました(文献3)。その結果、「野菜やフルーツの摂食が、心血管病による死亡だけでなく、がんによる死亡についても抑制効果がある」ということが示され、同時に優先的に摂取すべき野菜やフルーツの具体的な種類、および量がわかったことから、大きな話題を集めました。

本研究では、PUBMEDEmbaseのデータベースを元に2016929日まで調査されました。「フルーツ・野菜摂取」と「心血管病・がん、全死亡」の、「前向き研究」をサーチし、49,772件ヒットし、95件のコホート研究(142本の論文)が最終的に採択されました。

コホート研究の対象国と件数は、 欧州から44件、アメリカから26件、アジアから20件が、オーストラリアから5件でした
総計から、43,000件の冠動脈疾患、47,000件の脳卒中、81,000件の心血管病、112,000件のがん、71,00094,000件の死亡数、総対象者は、「210万人」という巨大なサンプルサイズとなりました。

<結果>
「冠動脈疾患の発症リスク」は、フルーツと野菜200グラム摂取するごとに、8%ずつ低下しました。フルーツのみの摂取で10%低下、野菜のみでは、16%低下しました。最大の効果は、フルーツと野菜摂取の総計が800グラムで24%の低下、フルーツのみ750-800グラム摂取で21%の低下、野菜550-650グラム摂取のみで30%の低下でした。フルーツと野菜の「両方の摂取」によって、両摂取量が増加すると直線的にリスク低減効果が認められましたが、野菜単独、もしくはフルーツ単独摂取では、低摂取量では比較的大きなリスク低減効果を認めた一方で、高摂取量になると、その効果は、頭打ちとなりました。野菜とフルーツの「種類について」検討すると、「リンゴ、なし、柑橘類、フルーツジュース、緑黄色野菜、βカロチンを豊富に含むフルーツと野菜、ビタミンCを豊富に含むフルーツ、トマト」がリスク低減に有効的な種類でした。

「脳卒中の発症リスク」は、フルーツと野菜200グラム摂取ごとに、16%低下、フルーツ単独では、18%低下、野菜単独では、13%低下しました。最大の効果は、野菜とフルーツの摂取量が800グラムで、33%の低下、フルーツ200-350グラムで20%の低下、野菜500グラムで28%の低下でした。フルーツと野菜摂取、野菜単独、フルーツ単独摂取いずれの場合も、低摂取量では比較的大きなリスク低減効果を認めたものの、高摂取量ではその効果は、頭打ちとなりました。

種類としては、「リンゴ、梨、柑橘類、フルーツジュース、緑黄色野菜、酢漬けの野菜、ぶどう」がリスク低減に有効となることがわかりました。
「心血管病の発症リスク」は、フルーツと野菜200グラム摂取ごとに、8%低下、フルーツ単独では、13%低下、野菜単独では、10%低下しました。800グラムのフルーツと野菜の摂取で、最大28%の発症率低下効果があり、600グラムの摂取した野菜あるいはフルーツ単独では、それぞれ、28%と27%の低下効果がありました。野菜単独摂取の場合は、摂取量が増加すると直線的にリスク低減効果がみられましたが、野菜とフルーツの摂取、フルーツ単独摂取の場合は、低摂取量では比較的大きなリスク低減効果を認めたものの、高摂取量ではその効果は、頭打ちとなりました。「リンゴ、梨、人参、トマト、ブロッコリー、緑黄色野菜」に心血管病リスク低減効果がある事が分かりました。

「がんの発症リスク」は、フルーツと野菜200グラム摂取ごとに、3%低下、フルーツ単独では、4%低下、野菜単独では、4%低下しました。抗がん作用は、550600グラムの野菜とフルーツの総和、野菜単独、フルーツ単独摂取で、最大低下効果が見られ、それぞれ、低減効果は、14128%でした。フルーツと野菜摂取、野菜単独、フルーツ単独摂取いずれの場合も、低摂取量では比較的大きなリスク低減効果を認めたものの、高摂取量ではその効果は、頭打ちとなりました。

「アブラナ科の野菜、緑黄色野菜」にリスク低減効果がありました。
「全死亡リスク」は、フルーツと野菜200グラム摂取ごとに、10%低下、フルーツ単独では、15%低下、野菜単独では、13%低下しました。フルーツと野菜の総和800グラム摂取で、最大31%の低下、600グラムのフルーツ単独、あるいは、野菜単独摂取は、それぞれ、19%、25%の全死亡低下効果がありました。フルーツと野菜摂取、野菜単独、フルーツ単独摂取いずれの場合も、低摂取量では比較的大きなリスク低減効果を認めたものの、高摂取量ではその効果は、頭打ちとなりました。

「リンゴ、梨、アブラナ科の野菜、フルーツジュース、調理した野菜、柑橘類、ポテト、緑黄色野菜」にリスク低下効果が認められました。一方で、缶詰のフルーツの摂取量の増加は、死亡リスク上昇に寄与することが示されました。

さて、上記のそれぞれの結果をまとめると、「最大の効果が期待される、摂取量フルーツと野菜の総和の摂取量」は、「がん発症リスク抑制」のために、一日あたり600グラム」、「総死亡リスク、および冠動脈疾患・心血管病・脳卒中発症リスクの抑制のために、一日あたり800グラムであることがわかりました。

2013年の世界の統計データに基づいた解析から、野菜やフルーツの摂取不足(1日あたり800グラム以下)による死亡が、冠動脈疾患で134万人、脳卒中で268万人、がんで66万人、また若年死亡は、780万人と推定されました。こうした結果も踏まえ、著者らは、これまでのガイドラインを見直し、「より多くの野菜摂取を推奨するガイドライン」へ改定するべきであると主張しています。

さて、もう少し、論文に踏み込んで検証すると、いくつか問題点もあるようです。「とにかくサンプルサイズを拡大する」という目的達成のために、多数の異なる研究成果を収集したことによって、条件の異なる、いわゆる「不均質な」母集団サンプルが多数含まれることになったのも事実です。つまり年齢、経過観察期間、地理的条件、サンプルサイズ、食事のアセスメント方法、摂取量の時間による変化、死亡原因の特定などが、おのおののコホート研究で異なります。コメントの中には、それぞれの母集団の不均質性の検証を試みたところ、結果に影響を及ぼす因子はなかったという主張もありました。しかし、著者らもこの点は危惧しているところであり、フルーツと野菜の摂取量のアセスメント、研究期間中の摂取量の変化についての評価が、適正に行われていないと、結果が異なってしまう可能性があることから、母集団については、十分に考慮すべき点であると、著者らは述べており、私もその通りだと考えます。2つのコホート研究、すなわちEPIC研究と中国のカドリーコホート研究だけが、経過観察期間中の摂取量の変化にともなって生じる「測定誤差」と「因果関係希釈バイアス」の影響を検討していました。EPIC研究では、測定誤差を考慮すると、全死亡リスクは、野菜・フルーツ摂取によって、さらに3%低下すること、またカドリーコホート研究では、因果関係希釈バイアスを考慮すると、心血管死リスクがさらに14%も低下すると、算出されていました。測定誤差、および因果関係希釈バイアスを考慮されていないそのほかの大多数のコホート研究では、リスク評価の結果が減弱している可能性が大きいと言わざるを得ず、今後の課題とされます。また、野菜やフルーツ摂取量が高くなればなるほど、その摂取量の測定誤差は大きくなることが予想され、特に「高容量の摂取のリスク低減効果」は、今後のより適正な条件での評価が求められるところです。

さて、視野を広げると、普段からフルーツと野菜摂取量の多い方は、概して「喫煙率は低く、適切な運動量を行い、肥満も少なく、アルコール摂取量や赤身肉や加工肉の摂取が比較的少ない」という傾向があり、こういった因子がバイアスになることは想像に難くないことです。しかし今回用いられた研究のほとんどで、こうしたバイアスについての調整は行われており、結果への影響はないという主張が展開され、信頼に足るものと思われます。一方で、「野菜とフルーツを多く摂取する方は、相対的に健康意識が高いことが想定され、健康診断を受ける率が高い可能性、すなわち治療へのコンプライアンスが高い可能性」があることも否めず、今後のバイアスとしての調整検討が必要な課題となるでしょう。

「サンプルの小さいコホート研究を取り入れたことによる、いわゆるパブリケーションバイアスが考慮されているのかどうか」については、既に「サンプルの小さいコホート研究をメタ解析から取り除いても結果は変わらなかった」と証明されており、この研究が高く評価されたことが改めて窺い知れるところです。

今回、メタ解析したコホート研究が包括していない地域は、アフリカ、西アジア、南アメリカ、ラテンアメリカでした。こうした地域のデータが将来的に解析加われば、結果もまた変わってくる可能性も指摘されています。実際、サハラ砂漠南部地方の死亡の特徴は、他の地域と全く異なり、この地域の若年死に及ぼす影響を考慮した場合、野菜とフルーツの摂取不足(1日あたり800グラム以下)による推定死亡数が、780万人から760万人に減少することが分かりました。しかし、誤差の程度は小さく、全体への影響もさほど大きなものでではなかったため、地域差は、おおきなバイアスにはならないのではないかとしています。

今回の研究の「巨大なサンプルサイズ」、しかしその一方で危惧されるサンプルの不均一性を浮き彫りにし、起こりうる様々な「バイアスの詳細の検証と考察」は、この研究の価値であることは明確です。今後、残された課題の検証が進むにしたがって、「抗血小板薬・スタチン」といった薬剤効果を上回る、心血管病発症および、がん予防効果を持つ「野菜とフルーツ摂取800グラム以上」が常識になっていくかもしれない、そんな予感すら感じるユニークな論文でした。

文献1

文献2
Wang, X., Ouyang, Y., Liu, J., Zhu, M., Zhao, G., Bao, W., & Hu, F. B. (2014). Fruit and vegetable consumption and mortality from all causes, cardiovascular disease, and cancer: systematic review and dose-response meta-analysis of prospective cohort studies. Bmj, 349, g4490.

 文献3
Aune, D., Giovannucci, E., Boffetta, P., Fadnes, L. T., Keum, N., Norat, T., ... & Tonstad, S. (2016). Fruit and vegetable intake and the risk of cardiovascular disease, total cancer and all-cause mortalitya systematic review and dose-response meta-analysis of prospective studies. International Journal of Epidemiology.