2017/06/26

第129回 愛し野塾 高齢者と抗血小板薬処方のベネフィット?





欧米の主要学会のガイドラインでは、心筋梗塞などの心血管病の既往のある高齢者について、「新たな心血管病を予防する」目的で、アスピリンに代表される「抗血小板薬」の生涯使用を推奨しています。そのため、75歳以上の40-66%、そして、心血管病既往のある方の半数といった高い比率で、同薬剤は、広く使用されています。このガイドラインに倣って、日本でもアスピリン使用が推奨され、高頻度に使用されていると考えられています(文献1)。近年では、冠動脈疾患に対する治療として、「ステント留置術」が汎用されるようになり、それに伴うアスピリン使用も急増しています。主たる病院における冠動脈DESステント留置患者数は、2011年からの4年間で、14万人から19万人に増加しており、この数は今後も増加すると考えられています(文献2)。

一方でクローズアップされているのが「アスピリンの副作用」です。リスク要因として、*消化管の潰瘍の既往、*高齢、*ステロイドや非ステロイド消炎鎮痛剤の使用、*他の抗血小板薬や抗凝固薬の使用、が上げられています。アスピリンが誘発する消化管出血の予防策として、7090%の効率な予防効果が報告されているプロトンポンプ阻害剤(PPI)の服用が望まれます。しかし、実臨床では、PPIの処方は余り行われていない、というのが実情です。この理由のひとつには、予防効果を裏付ける報告における研究対象は75歳以下の比較的若い方を中心としたもの、かつ、2年ないし4年といった短期間のデータしかないこと、「アスピリン使用による消化管出血」の頻度が余り多くないこと、命に関わる、あるいは、生活を脅かすような障害に至る症例があまり報告されて来なかったからです。ガイドラインにもアスピリンの副作用予防としてPPIを服薬するべき、という明確な記述は認められません。
今回、解説するのは、ランセットに報告されたオックスフォード大学のリー博士らによって検証された「75歳以上を含むほぼ全ての年代を対象に、アスピリンを中心とした抗血小板薬による出血リスクの詳細」(文献3)です。

方法
心血管病(一過性脳虚血発作・虚血性脳梗塞・心筋梗塞)を初めて発症した症例を対象に「オックスフォード血管研究コホート」と称された前向きコホート研究が試行されました。登録期間は2002年から2012年の間で、抗血小板薬(主にアスピリン)を心血管病発症前から継続使用している症例、もしくは、発症後あらたに使用し始めた症例、に分類されました。経過観察は2013年まで行われ、症例の平均観察期間は10年でした。参加したのは、オックスフォード地域の9つの一般外来クリニックに勤務する100人の医師で、全登録患者は、92,728人でした。抗凝固剤の服用を心血管病発症後に開始あるいは発症前から継続していた方は対象から除外されました。ただし、発症前に抗凝固剤を服薬していたが、発症後中止し、抗血小板薬に変更した人は除外されませんでした。

脳血管障害(一過性脳虚血発作、虚血性脳梗塞)の方は、75mgのアスピリンと400mgのジビリダモールを長期的に服用しました。脳血管障害の発症から48時間以内の方、ABCDスコアが4点以上の再発リスクの高い方は、アスピリンに加えて、75mgのクロピドグレルを30日間投与されました。
心筋梗塞の方は、アスピリンに加えてクロピドグレルを612ヶ月投与された後、アスピリンのみの投与としました。PPIはルーチンに投与しませんでした。
看護師、あるいは医師が、患者と、30日、6ヶ月、1、5、10年後に直接面談し、*虚血イベントの再発、*出血イベント、*障害の程度(修正ランキンスケールを用いて評価)を毎回記録しました。認知症のある方は、介護者を介して情報を得ました。研究対象エリアから引っ越した方については、電話で連絡を取りました。出血イベントについては、記入漏れを防ぐために全入院記録も精査しました。死亡記録、検視記録を閲覧し、死亡者の特定も行いました。出血は、病院受診が必要なレベルの重症症例のみを記録の対象としました。外傷、手術、血液悪性疾患に伴う出血は除外されました。
「主たる出血」の定義は、*死亡、*脳内出血、*Hbが少なくとも5g/dlに低下、*血圧低下し昇圧薬使用が必要、*外科治療を要する、*死に直面した状態で4ユニット以上の輸血を要する、*有意な生活上の障害をもたらす眼内の出血による失明、*死に直面した状態ではないものの2ユニット以上の輸血を要する状態、と定義しました。障害をきたす程度の出血は、修正ランキンスケールで、3点以上か、すでに3点以上であった方は、1点以上増加した方としました。

結果
すべての条件に適合した対象症例数は、最終的に3,166人となりました。心筋梗塞が1,094人(35%)、脳血管病が2,072人(65%)。75歳以上が1,582人(50%)でした。出血に伴う死亡は1例を除き全例特定され、非死亡出血例は、29例を除き全例で特定されました。773人(24%)が事前に、 胃保護剤(PPIもしくは抗ヒスタミン受容体拮抗薬)を服薬されていました。胃保護剤は、高齢者に使用者が多く、年齢で補正すると、1)消化管潰瘍、2)血管病、3)高血圧、4)糖尿病、5)高脂血症の方に使用症例が多い傾向を認めました。
1ヶ月後生存者は、2,914人で、うち32%にあたる947人が胃保護剤を使用、1年後生存者は2,583人で、33%にあたる852人が胃保護剤を使用していました。抗血小板薬の使用者は、1年後で89%、5年後では87%でした。
13,509人年経過観察中、405回の出血イベント(主たる出血イベントは187回)ありました。このうち40%にあたる162回(主たる出血イベントは、97回)が「上部消化管出血」でした。年あたりの出血リスクは、3.36%(主たる出血リスクは、1.46%)でした。主たる出血でない出血のリスクは、年齢とは無関係でした。主たる出血のリスクは、70歳までは、年齢による増大はありませんでした。75歳までの主たる出血リスクは、1.1%で、これまでの報告と変わりありませんでした(1.0%)。主たる出血のリスクは、70歳以降、加齢にともなって有意な増大を示し、85歳以上では、4.1%に達しました。
75歳」を境に、75歳以上の3年後の主たる出血リスクは、2.73倍(P<0.0001)、10年後で3.1倍(P<0.0001)と急増し、中でも「上部消化管出血リスク」が最も高頻度で認められました(4.13倍、P<0.0001)。上部消化管出血による死亡率は、75歳以下に比較して75歳以上になると6.67倍に上昇(P0.003)、また生活に支障がある程度の障害をきたす率は、13.72倍(P<0.0001)に劇的に上昇することが明らかになりました。
年齢とともに増大する上部消化管出血リスクは、性別・血管病の既往・潰瘍既往・血管病リスクとは無関係でした。
消化管出血以外の出血は、全体の60%を占め、主たる出血の48%を占めていました。特記すべきは、「脳出血」による死亡数です。75歳以上で、それ以下の年齢群と比較して、7.14倍に上昇することが明らかにされ(P0.0003)、血圧管理の重要性が示唆されました。
75歳以上の症例において、「主たる上部消化管出血によって、生活に支障がある程度の障害、あるいは、死亡に至る率」は、62%。これは、75歳以下群の25%よりも圧倒的に高く、また脳出血による45%よりも高い結果でした。1,000年人あたりで見ると、9.15と高率でした。生存者の33%はPPIを使用しており、1件の生活に支障をもたらす障害、あるいは死亡をきたす上部消化管出血を防ぐには、NNTnumber needed to treat : 特定のエンドポイントに到達する患者を1人減らすために、何人の患者が薬を服用する必要があるか。;この場合、1件の生活に支障をもたらす障害、あるいは死亡をきたす上部消化管出血を防ぐというエンドポイントに達するために必要な服用患者数)は、65歳以下の場合、338と大きな値を示し(PPT治療の介入効果が小さい)ましたが、85歳以上になるとNNT25と、より効率的であるという数値が得られました。また75歳以上の症例では、アスピリン治療による心血管病の2次予防効果は、20%と試算される一方で、副作用である主たる出血のリスクを2倍も増やすことがわかりました。こうしたアスピリン使用のリスクとベネフィットを考慮すると、PPI処方なしのアスピリン処方は、75歳以上の症例では正当化されないという統計結果が得られたのです。

さて、この結果については、「本対象症例の、非ステロイド消炎鎮痛剤使用やステロイドによる出血の頻度が極めて少なく、OTCの非ステロイド消炎鎮痛剤使用を見落としている可能性があるのではないか」、と指摘されています。
また、PPI使用によるネガティブな側面の詳細を検討する必要があるでしょう。昨年、PPI使用が認知症誘発の可能性が報告されました。しかし、この論文は曰く付きで、「実はPPIによる認知症誘発の可能性は統計的有意差もないのにメディアで大々的に報道されてしまった」とその後のエディトリアルでは非難されている経緯もあることから、注意深い研究結果の取り扱いが必要でしょう。
加えて、高齢者では、近年、心房細動の発症頻度が増加し、この不整脈に伴う合併症である「脳梗塞を予防」するために、直接経口抗凝固薬(DOAC)を使用している症例が増えてきています。そのため「アスピリンと、DOACの併用症例」の出血リスクの検討は重要な研究課題でしょう。
脳出血による死亡例がアスピリン使用でかなり増えることもわかりましたが、血圧管理によって、死亡リスクが減らせるのかどうか、検討が必要でしょう。

今回の研究報告によって、「75歳以上の高齢者で、2次予防のためにアスピリンを服薬している方は、PPI使用が必須である」ことが明確になった事実、「75歳以上の高齢者では、アスピリン以外にも抗血小板薬や抗凝固薬を使用している症例について、リスクが利益を上回る、高い可能性」が示され、今後の検証次第では、患者、及び家族と、これら薬剤の中止・変更を含めた治療方針を話しあう必要があるのではないか、と、本研究報告を今後の日常臨床に大きく影響するものとして受け止めているところです。




文献1 循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_hori_d.pdf2017年6月26日閲覧)

文献2 循環器疾患診療実態調査報告書(2015年度実施・公表)、http://www.j-circ.or.jp/jittai_chosa/jittai_chosa2014web.pdf2017626日閲覧)

文献3 Li, L., Geraghty, O.C., Mehta, Z., Rothwell, P.M. and Study, O.V., 2017. Age-specific risks, severity, time course, and outcome of bleeding on long-term antiplatelet treatment after vascular events: a population-based cohort study. Lancet. 2017 Jun 13. pii: S0140-6736(17)30770-5. doi: 10.1016/S0140-6736(17)30770-5. [Epub ahead of print]

文献4 Gomm, W., von Holt, K., Thomé, F., Broich, K., Maier, W., Fink, A., Doblhammer, G. and Haenisch, B., 2016. Association of proton pump inhibitors with risk of dementia: a pharmacoepidemiological claims data analysis. JAMA neurology, 73(4), pp.410-416.

文献5
Diener, H.C., 2017. Preventing major gastrointestinal bleeding in elderly patients. The Lancet. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(17)31507-62017625日 閲覧)



2017/06/20

第128回 愛し野塾 出産後うつ病の特効薬


昨年、周産期にまつわる死亡の原因として、「うつ病」が、出血などの通常原因による死因に比べ、約2倍も高いというショッキングな調査結果が報告されました。東京都監察医務院と順天堂大の合同調査で、2014年までの10年間で妊娠から産後1年以内に自殺した女性は、東京23区内だけで63人いました。このうち 産後は40人で、5割が産後うつなど精神疾患の診断を受けていたといいます。出生10万人あたりの妊産婦の自殺数は8.7人で、23区内の出血などによる死亡数(産後42日未満)3.9人を大きく上回っていました。同様の結果は海外でも報告され、「産後うつ」は、産婦10人中1人と高頻度で発症することがわかっています。実は、精神科領 域では、重症度の最も高いうつ病と位置づけられ、入院を要するケースも少なくありません。産後うつの影響は母親本人にとどまらず、母親の育児能力が損なわれることから、子どもの成長に及ぼす影響や家族の苦悩は甚大となります。イギリスでの試算では、周産期のうつ病などのメンタル疾患による経済的損失は、1年あたり1兆円を超えると報告されています。
周産期の精神疾患に対しては、認知行動療法と薬物療法の併用によって治療が行われます。しかしこういった治療プログラムは、妊婦や新生児の母親を対象とした調査研究に基づくものではなく、うつ病患者一般を対象として得られた知見を元に、作成されたプログラムが応用されているにすぎません。また、通常用いられるうつ病薬への反応性は、妊産婦では、効能を発揮するまでに時間がかかることや、効果も不十分である、といった報告もあり、周産期の女性に特有な生理的・心理的状況を踏まえた、治療プログラムが待ち望まれてきたことはいうまでもありません。
さて、妊娠期でも特に第3期にうつ病の発症率が高まり、出産直後は、もっとも 発症率が高くなることが知られています。妊娠期に多量に放出されるホルモンが、出産直後に「激減する」ことがうつ病発症の原因として示唆されてきました。このホルモンは、実は、主要なプロゲステロンの代謝産物「アロプレグナノロン」であることが明らかになってきました。現在この「アロプレグナノロン」は、産後うつ病治療のキーとして位置づけられています。動物モデルを用いることで、不安神経症やうつ病に「アロプレグナノロン」が有効であることが示され、人においても、アロプレグナノロンを投与し、妊娠第3期と同じ高い血中レベルに維持することで、産後うつ病の治療に役立てられると考えられてきたのもやむをえないところです。
アロプレグナノロンの性質である低い水溶性から経口剤は効果的ではなく、USAN(ブレキサノロン)とよばれるアロプレグナノロン製剤は、静脈注射可能で、安定的に血中濃度を維持することができます。
今回、産後うつ病の方に、USANを用いて、無作為試験が行われた結果がランセットに発表になり、大きな話題となっていますので解説してみましょう。
<研究方法>
ペンシルベニア大学、マサチューセッツ大学、アトランタ医学研究センター、ノースカロライナ大学の多施設で調査は行われました。1845歳の外来通院患者で、妊娠第3期以降~出産後4週以内の期間にうつ病診断を受けた方を対象としました。うつ病の鑑別診断には、SCID-1が用いられ、出産後6ヵ月以内の段階で、HAM-D(ハミルトンうつ病評価尺度)検査の結果、26点以上の重症患者が分析対象となりました。
抗うつ薬をすでに服薬している方も、対象に含めましたが、アロプレグナノロン静注やその評価に関わる72時間の間には、新たな抗うつ薬の追加を行わないことを条件としました。母乳を中止しているかたか、母乳をしている場合でも、アロプレグナノロン投与前に母乳を中止することを条件としました(アロプレグナノロン投与後12日で、母乳再開可能)。対象除外条件には、(1)産後うつ病のために自殺未遂行動がある場合、(2)痙攣の既往(3)双極性障害の診断(4)統合失調症の診断、(5)アルコール、薬物依存の診断のある場合、としました。
<アロプレグナノロン>
アロプレグナノロンをクエン酸緩衝液としたSBECDに5mg/dlで溶解した薬剤を、「ブレキサノロン」と呼称しました。入院治療によって60時間の持続点滴静注をしました。点滴速度は、最初の4時間は、30ug/Kg/hrで、4時間から24時間は、60ug/Kg/hrで、2452時間は、90ug/kg/hrで、52時間から56時間は、60ug/kg/hrで、56時間から60時間は、30ug/kg/hrとしました。効果と安全性の評価を、7日目、及び30日目に行いました。
 *一次評価項目
60時間後のHAM-Dとしました。寛解は、HAM-Dが7点以下としました。
<研究結果>
試験は、201512月から20165月までの期間に行われました。23人をスクリーニングし、21人を登録しました。全員が、60時間の入院による持続点滴静注と30日後の経過観察を終えました。1人の患者のみ、第7日のHAM-D検査を受けず、17日目に、予定外のHAM-D検査を受けました。
身体特性など実薬群とプラセボ群の間に差がないことが確認されました(平均年齢27.4歳と28.8歳、 BMI32.7293HAM-Dスコア281288、産後うつ病以外のうつ病の既往60%55%)。少なくとも1度以上の産後うつ病の既往者は、実薬群で、70%、プラセボ群で、36%と実薬群に多く含まれました。
60時間持続点滴静脈注射後のHAM-Dスコアの平均低下点数は、実薬群で、21点、プラセボ群で、88点と、「ブレキサノロン」によってスコアが低下するという結果が得られました(P0.0075)。点滴後、24時間経過後の平均点の差は、113ポイントで「ブレキサノロン」投与によるHAMDスコアの有意な低下(P00059)を認め、この効果はさらに36時間、48時間、60時間、72時間、7日、30日後の全てのポイントで認められました。すなわち「ブレキサノロン」の「うつ病評価点数」改善効果を認めたのです。
寛解基準であるHAM-D7点以下に達した人数は、実薬群で10人中7人、プラゼボ群で11人中1人のみでした(P00364)。またこの傾向は30日後まで持続しました(7人対2人、OR10.50,P=0.0499)。
<ブレキサノロンの安全性>
副作用報告は、実薬群で4人、プラセボ群で8人と、むしろプラゼボ群で多く見られました。死亡例及び、重篤な副反応もありませんでした。薬を中断した症例はありませんでした。主な副作用は、実薬群でめまいが2例、プラゼボ群で、3例でした。眠気は、実薬群で2例で、プラセボ群でなしでした。やや救急を要する副作用として、実薬群で頻脈1例、眠気1例でした。重篤な救急を要する副作用として、プラゼボ群で眠気が1例ありました。やや救急を要する副作用として、プラゼボ群で注射部位の痛みが1例、緊張性頭痛が1例でありました。治療前のスタンフォード睡眠スケールは、実薬群で27、プラゼボ群で26であり、治療後も同様に二群間に差はありませんでした。「コロンビア自殺重症度スケール」における自殺企図に関する点数は両群で改善していました。実薬群で治療前に認めた2例の自殺企図について、治療後には認められませんでした。

論文の論説(Jones, I., 2017. Post-partum depressiona glimpse of light in the darkness?. The Lancet.)にも強調されていますが、ブレキサノロン投与の即効性・持続性といった質の高い効果と薬の安全性から、この論文の「内容の信憑性」に疑義を感じるほどの素晴らしい内容でした。
問題点は、本研究の少ない症例数でしょう(10人)。より多くの症例について検証し、適用と安全性の確認をすることは必須でしょう。HAM-Dの値が26点以上の重症のうつ病症例を対象とした本研究で認められた驚くべき薬効は、中等症、軽症の症例でも認められるのかどうか、是非とも知りたいところです。対象者を増やすことによって、効果の是非を事前に選定しうる「病気発症因子」も浮き彫りになってくる可能性もあるでしょう。
これほどまでにインパクトのある結果をもたらした「ブレキサノロン」は、産後うつ病に限らず、うつ病患者全般への汎用性の是非が問われることでしょう。もし、汎用性があるとすれば、持続点滴法ではなく「経口剤の開発」が必要となってくるかもしれません。
このような様々な疑問は、現在施行しているフェーズ3研究で明らかにされることが期待されます。赤ちゃんのお母さんだけでなく、赤ちゃんの成長や家族にも大きな苦悩をもたらす「産後うつ病」という難題解決に向け、いよいよ光が差してきたのだと、感動させられた論文でした。



参考文献
Kanes, S., Colquhoun, H., Gunduz-Bruce, H., Raines, S., Arnold, R., Schacterle, A., Doherty, J., Epperson, C.N., Deligiannidis, K.M., Riesenberg, R. and Hoffmann, E., 2017. Brexanolone (SAGE-547 injection) in post-partum depression: a randomised controlled trial. The Lancet.